00:00昔々、京の町のあるお寺に、凌郭草城という偉いお坊さんがおりました。
00:14その凌郭草城が住むお寺には、それはそれは大きな、えのきが建っておりました。
00:21枝の広がりは寺の庭をすっぽり日陰にするほどで、立派な寺の建物さえその下にあって、小さく見えるほどでした。
00:32この凌郭草城の住むお寺に、お参りに来る者は、みんなこのえのきの大きいのに目を見張り、中には遠くから見物に来る者までおりました。
00:54いやー、たまげた。こんなに大きなえのき見たことないわ。
00:59なんに立派なもんやー。
01:02このえのき、あまりに大きかったので、遠くからもよく目立ち、目印にもなるので、町の人たちはいつの間にかこの寺を、えのきの寺と呼ぶようになりました。
01:17えいほ、えいほ、えいほ、えいほ。
01:23こんにちは。今日は大根のいいのがあるけんだ。
01:27そうですか。じゃあ、一本ください。
01:32ここへ置いておきますよ。
01:34今、お茶を入れますので、一休みしていってください。
01:39そうかい。いつも悪いね。
01:43いいんですよ。わざわざ寺まで来てくれるんですから。
01:46ばあさん、毎日ご苦労さんやな。
01:54これはこれはえのきの総上様。
01:57なに?今、わしのことをなんと呼んだ。
02:01ですから、えのき寺のえのきの総上様。
02:05わしは了解だす。えのきなどという名ではありません。
02:09でも、町の者がみんなそうお呼び申し上げております。
02:14本当にわしをそのように呼んでおるというのか。
02:19はい。大層立派なえのきのあるお寺。
02:23えのきの寺の総上。
02:26えのきの総上様といえば知らぬ者はおりません。
02:30えのきが偉いのではありません。
02:33偉いのは総上のこの領を下ください。
02:36一度は、永山の大総上の座にもついたことがある、領角総上。
02:42町の者が自分の名前を呼ばず、えのきの総上と呼んでいるのが嫌でたまりませんでした。
02:50そこで。
02:55お前、そこを吐くのは後でええから、すぐ町へ行って植木屋を呼んできてくれ。
03:02こんなに朝早くから植木屋さんを呼んできて。
03:05何をするんです?
03:07いいから呼んできなさい。
03:09はい。行ってきます。
03:18総上様。植木屋のお館を連れてまいりました。
03:22何か急ぎの御用でも。
03:25実は朝のうちにこのえのきを切ってほしいのや。
03:30産経人の今うちにな。
03:33枝をですか?
03:35根元からじゃ。
03:36ええ?
03:36このでっけえのきを切り倒すんですか?
03:41ご冗談でしょう。
03:43もったいねえ。
03:44第一、この寺はこのえのきで持っているようなもんですぜ。
03:48なんじゃと。
03:51もう一度言ってみえ。
03:54いや、別に何か気に下がったことを言ったんでしたら謝ります。
03:59切れって言われりゃ切らねえことも多いんです。
04:03仕事ですから。
04:04これでよし。
04:19もうえのきはござりませんぞ。
04:22ところが立派な大えのきの切り株です。
04:27大人が五人も手をつないで輪になってもまだ足りないほどの大きさで、
04:32幾百年もの年輪が深く刻まれておりました。
04:37それで今度は切り株の大きいのが評判で、
04:40たちまち見物をするものが次から次へと来るようになりました。
04:49今の手待った。
04:56待ったなしよよ。
04:58いつもそうなんじゃか。
05:00こうして茶を飲むなんて気分ですな
05:05ほんまにそうだすな
05:07何がええ気分じゃ
05:13わしに断りもなく勝手にごをおったり
05:17茶なんかたておって
05:19一体ここどこだと思ってた
05:22大層にぎやかでんな
05:25何か始まりましたか
05:28まったくけしからん
05:30あれを見てみ
05:31ちょっと待ってな
05:36ほんとやっとりますな
05:38これもみんなご人徳でござりましょう
05:42霧株の相乗様
05:44霧株の相乗様だと
05:46何度言うたらわかるんや
05:48わしの名は両角じゃ
05:50はあ
05:52けれどもみなさん霧株の相乗様と呼びますし
05:56わかりがいいもんでつい
05:58わしより霧株の方がありがたいとでも申すのか
06:04両角相乗はまたプンプン腹を立てて
06:08霧株を残したのがいけな
06:10掘り起こしてしまえ
06:12と王政の妊婦を雇って
06:15霧株を掘り上げてしまいました
06:17もうえのきも霧株もないぞ
06:26これでえのきの相乗とも霧株の相乗ともおさらばじゃ
06:31ところがある晩のこと
06:39急に雲行きが怪しくなり
06:42ものすごい大雨になって
06:44その降った雨水がお寺の霧株を掘り上げた後にたまり
06:49穴はそのまま立派な池になったのでした
06:53しかもその池の様子ときたら
06:55腕自慢の庭師が作ったよりも見事で立派だったので
06:59またまた評判になってしまいました
07:02なんじゃ
07:22なんじゃあんな水たまりを見とるのか
07:25バカバカし
07:26ほーへいほーへいほー
07:28どうじゃもうえのきも霧株もあじゃせんぞ
07:33はい
07:34その代わりここへ来てあの池を見ると心が休まります
07:39名物のある寺というのは良いものどすな
07:43堀池の相乗様
07:46な、な、なんだと堀池の相乗様
07:49またそのような呼び方をしておるのか
07:53はい、堀池の寺の相乗様じゃから
07:57堀池の相乗様
07:59どうしてわしの名をちゃんと呼ばんのじゃ
08:03どうしてもみんなが呼んどる名前をつい
08:07両角相乗様はこちらでしたか
08:10ほーれ、寺の者は小僧でもこのようにちゃんとわしの名を呼んでおるぞ
08:17で、なんのようなの
08:19はあ、それがそのあの評判の堀池に船を出してお月見をしたいというものが来ておりますが
08:27ようはわしではなく堀池か
08:33寺に名物などあるからいかんのじゃ
08:36寺というものには偉い相乗が一人おればいいのや
08:41かんかんに起こった両角相乗
08:45またまた大勢の忍法や
08:49息を埋めて跡形もなく対話にしてしまいました
08:53その上それだけでは安心できぬとみえ
08:57その後に今度は
08:59当寺の相乗の名は両角なり
09:03他の通り名で相乗を呼んでからず
09:05と書いた大きな盾札まで立てさせたのでした
09:09寂しくなりましたの
09:23なに、これでいいんじゃ
09:26寺というものは偉い坊さんがおればそれでいいのや
09:30それはもう、偉いお坊さんだということはみんなよーく存じております
09:36たて札の相乗様
09:38た、たて札の相乗だ
09:42相乗様、しっかりしてください、大丈夫ですか?
09:47なさけないや
09:49名前なんか、なんて呼ばれたっていいじゃありませんか
09:54要するに人間は、名前や外見よりも
09:58中身が肝心なんですよ
10:01こんなことになるんやから
10:04いつのこと、えのきが茂っていて
10:07えのきの相乗と呼ばれていたほうがよっぽどよかったわい
10:13と、立派に枝葉を茂らせたえのきのあった日を思い出して
10:23体操を崩壊したということです
10:27おやすみなさい
10:36ご視聴ありがとうございました