00:00お疲れ様でした
00:30昔々種ヶ島での話でした
00:37その頃島では海に住む人々と山で狩りをしたり田畑を耕したりする人々ははっきり分かれておって
00:50お互いその収穫物を商人の手によって交換し行き来させているのが常でした
00:58そんな山の村の一軒家に貧しい家族が住んでいました
01:05年老いた父親と最近狩りに出て山で怪我をして動けなくなった夫と
01:14富という名のその妻とこれも最近生まれたばかりの千代という名の赤子の4人の家族でした
01:23今日も商人が品物を買いに行きましたが出すものもほとんどなく
01:30逆に美味しそうで需要のありそうな海の幸を見せつけられて悲しい思いをしたのでした
01:38こんな小さな島でなぜ海の幸山の幸と交換し合わねばならんのかの
01:50直接浜へ出りゃ女の裏にだって貝や海藻ぐらい取れるのにの
01:58そりゃ昔からの決まりじゃでな
02:03こんな小さな島じゃからこそ海には海の山には山の決まりが必要なんじゃよ
02:14昔から代々受け継がれた起きてなんじゃ
02:19なあ、あんた
02:29ん?
02:30俺は誰も出入りしねえ小さな入り江を知っとる
02:36馬鹿なこと考えるでねえ
02:39さっきじいさまが言っとったででか
02:42鉄砲を売った銭も底をついたし
02:47このままじゃやっていけねえ
02:49俺は明日浜へ行きて
02:52だめだ
02:53決まりごた守るんじゃ
02:56需要のええものとらにゃ
02:58じいさまもあんたも体がもたん
03:01俺だって満足に父が出てこう
03:05もうええ
03:07寝ろ
03:09翌日
03:15トメは霞雨にかかった獲物を取りに出かけ
03:19年老いた父親は畑へ出て
03:22響きながら畑を耕しておりました
03:25もがきながらそのまま弱っていくなんて
03:33俺には許せねえ
03:36人が生きるためにあるのが掟でねえのか
03:45その日トメは決心するとそのまま赤子の千代を背におんぶして山を降りて行きました
03:58その日はお彼岸でした
04:05海の人たちもこの日は仕事を休み
04:09どの家でもいろいろなお供え物とご思想を作って
04:14小高い山の中腹にあるお墓へお参りし
04:18自分たちもご思想をいただくのでした
04:26このことにトメが気づいたのは
04:29小さな入江で打ち上げられた海藻などを拾っていた時でした
04:36そうじゃ 今日はお彼岸じゃ
04:40この日は浜の人たちもみんな寮を休むはずじゃ
04:48トメは足取りも軽く小さな入江から離れて
04:53大きな長浜といういつもは浜の人たちで賑わっている漁場へ移りました
05:04わあ なんという豊富な獲物じゃ
05:09珍しい貝がこんなに
05:11ちょうどその日は大潮の日で
05:18潮は沖の方まで引いて
05:21日頃見せたこともない沖の背が
05:24遠くまで姿を見せておりました
05:27潮よ 寝とれよ
05:31お母さんがびっくりするぐらい獲物を取ってやるからな
05:35トメは背中の千代を背の平らなところに寝かせると
05:42もう夢中で砂を掘ったり
05:44岩陰を覗いたり砂浜を駆け回っておりました
05:49その時浜の長老と村人が山の中腹からこの様子を見ておりました
05:56あれはこの浜のものじゃねえな
06:00そのようじゃがほっときなさい
06:03何かの事情があってのことじゃろう
06:06見て身のふるを捨てやることじゃ
06:10まあ一人じゃ大したいいものも取れんじゃろうし
06:14長老たちはそのまま墓参りを続けました
06:20もう少し待ったらや
06:26母さんもっと沖の方まで行ってくるからな
06:30トメはもう夢中でした
06:34取った獲物を千代のそばへ置くと
06:37再び沖の方へ駆け出して行きました
06:40じいさま
06:50すまんがトメの様子を見てきてくれんか
06:56もしかしたら浜へ行ったのかもしれん
07:01夢中で貝を拾っていたトメは
07:07沖の方に今まで見たこともない貝が
07:11大口を開けているのを見つけました
07:14これこそ今日一番の獲物じゃ
07:21トメの脳裏に喜ぶ父や
07:24夫の笑い顔が浮かびました
07:27そしてトメが思わず貝に手を伸ばした
07:32そのとき
07:33貝の口がピシャリと閉まってしまいました
07:48その貝は島でガックンガーまたは
07:57カタガーと呼ばれるものすごく大きな車庫がいて
08:00一度閉まった蓋はもう二度と離れないのでした
08:05トメは何とか逃げようと必死でもがき
08:09じたばたしましたが
08:11もうどうすることもできません
08:13大潮の日は
08:19引き潮も早いが道潮も早いのです
08:22道潮が早い勢いで
08:25トメの目の前まで押し寄せてきました
08:27誰か助けて
08:29チオチオチオチオ
08:33トメは声をおかぎりに叫び続け
08:40チオの名を呼び続けました
08:42チオチオチオチオ
08:54チオチオはトメの体をほとんどまみつきし
08:58チオの体を濡らし始めました
09:00ァイイイイイイイイイイイイイ
09:02あの
09:04大変だ!みんな浜へ走れ!急ぐんじゃ!
09:17でも全ては無駄でした
09:19若い衆が行き接着して浜へ辿り着いた時
09:24潮はすでに満潮で
09:26親子の姿はどこにもなく
09:29ただ留めの着物と帯紐が海面に浮かんでいるだけでした
09:35潮は満ちくる
09:41日は暮れゆくよ
09:45潮もなくろよ沖の瀬に
09:51おけよ肩がえ
09:55おけよ肩がえ
10:00浜の人たちはこの悲劇を後々まで語り伝え
10:08こんな遺族を残しました
10:11種ヶ島では春のお彼岸の頃の大潮のこと
10:22小投げ潮と言っていますが
10:27この悲しい話によるものです
10:31ご視聴ありがとうございました