00:00昔、秋とビンゴの国境の峠にゃ、一軒の茶店があって、そこにゃじいさんとばあさんがおったげな。
00:20二人の間には子供が乗って、二人きりじゃったら、毎日峠を越えてくる旅人にいろんな話を聞くのが楽しみじゃん。
00:32すいません、お茶をいっとこ。
00:34はいはい。
00:36ここの峠は眺めがええな。
00:39はい、お待ちください。この峠は秋一の見晴らしでございますよ。
00:52この茶店は古くからあるのですか?
00:55へえ、そりゃあわしとじいさんと一緒になってからです。ずーっとやっとりますね。
01:03へえ、一緒になってからずーっと。そりゃあ仲がええな。
01:09へえ、へえ、お金様で喧嘩一つしたことありません。
01:14はははは、そりゃあまたごちそうさま。
01:18わしらここからどこへも行くことありゃしません。
01:22ああ、それが一番ええ。
01:30なあ、じいさん。
01:33なんじゃい。
01:34もしな、わしが先に死んだら、やかんでくだせ。
01:39なあ、なんじゃと。
01:41もしな、わしが先に死んだら、やかんでくだせ。
01:46なによんじゃ、わしのほうが先に死ぬかもしれん。
01:49だからわしが先に行ったらです。
01:52どうしたらええんじゃ。
01:54かんに入れて押し入れの中、しもうといてつかさい。
01:57わかった、やだな。わしが先に死んだら、ちゃんと焼いてくれ。
02:02いや、わしは押し入れに入れときます。
02:06そりゃどうしてじゃ。
02:07わしはおじいさんといつも一緒ですけに。
02:11死んだときに、わしも一緒に入れてもらいますけ。
02:14焼かずにかんに入れときます。
02:17わかった、わかった。そうしてやる。
02:20それから一年たったある日、ばあさんはふとしたはやり風がもとで、とこについてしもった。
02:40じいさんわしが死んだら、押し入れの中じゃぞ。
02:45わかった。こんくれのことで死ぬもんか。
02:49と言うたが、ばあさんはそれから、二日目の朝、息を引き取ってしもうた。
02:55じいさんは言われたとおり、かんに入れて、押し入れの中にしもうといた。
03:08その夜はいつもいるばあさんがいないので、じいさんはなかなか寝つかれなかった。
03:15やっと寝ついたそのとき、押し入れの中から、声がした。
03:21じいさんおるかい、じいさんおるかい。
03:25おるぞ。
03:27だれじゃ、まさかばあさんが、そんなはずは。
03:33ところが、次の日もまた次の日も、夜になるときまって押し入れの中から。
03:39じいさんおるかい、じいさんおるかい、じいさんおるかい。
03:49ばあさん、わしゃまだ、しんとはないわい。
03:53じいさんはたまりかねて、峠の茶店から逃げ出した。
03:57ところが、じいさんの後を追うように、声も追いかけてきた。
04:02じいさんおるかい、じいさんおるかい。
04:08じいさんおるかい。
04:22あんたは白状なんじゃ
04:30わしゃかんの中を半分開けて
04:32あんたの死になされも待ってるのに
04:36あんたは死を捨てて逃げなさるのか
04:39わしゃまだ死にとないんじゃ
04:42こんばんは
04:49開けてくだされ開けてくだされ
04:52実は恐ろしいものに追われとります
04:56何度の奥でも構いませんから
04:58囲まってくだされ
04:59そりゃあかまわんが
05:01芋の肉ころ菓子に焼酎で一杯やったらどうじゃな
05:05いえいえもう結構です
05:08なもんは見たこと
05:10どうかあばあさんが成仏しますように
05:13誰も大手は込んで一緒に一杯やったらどうじゃ
05:18いやあ囲まってもらうだけで結構です
05:22じいさん
05:25芋が良い具合に煮えとるし焼酎の匂いじゃなくてもいい
05:29あんたも出て呼ばれんたったらどうじゃ
05:33みんなわしゃいあれだ
05:36まあいいからこっちへ出てきなせ
05:39いやあここ明けちゃなんね
05:42始めてください
05:43待てギャクギャクギャクギャクギャク
05:47どうされたらそんなところで寝ちゃう風邪ひきますぞ
05:51俺旅の人
05:53旅の人
05:55あんたもやっと来てくれたの
06:02バカお前の執念には負けるわ
06:07わしゃまだ死にともなかったのに
06:11まさおこりんさんな
06:14これからもずっと一緒じゃね
06:17バカよくやりましょう
06:19そりゃお前と一緒が嫌というわけじゃねえが
06:24わしゃまださまが良かったのに
06:27そういうとこもなかなか落ち着いて
06:31ええところじゃろ
06:33サンズの川を渡って
06:38エンマの蝶まで行った
06:40次の猛王じゃ
06:43ありゃんま
06:44お前はもう10年生きることになっとるが
06:48なしてきたんなら
06:50じいさんは今までのことを
06:52エンマ様に話して聞かせた
06:55なるほどそれまずいな
06:58それならお前の前歯さん本ほど抜いちゃろ
07:02そしてシャバに戻しちゃろ
07:05しかしなあ
07:06バカが悲しみますね
07:08それではお前の人形でも教えて
07:12母さんに渡してやる
07:14というわけで
07:16じいさんは前歯3本抜かれて
07:18この世に戻された
07:20旅の人
07:21しっかりしなせ
07:23あれ
07:26気がついたか死んでしまったかと思った
07:29わしゃ生きとりますな
07:33どうしたんじゃじいさん
07:37じいさんはまた峠の茶店に戻って
07:42すいませんお茶をいっぽく
07:44はいはい
07:46ところでここのおばあさんがどうなされた
07:5010年前にわしを残して先に死にました
07:54それはさぞ寂しいことでしょう
07:57へえわしもそろそろ年ですけ
08:00ばあさんのところへじき行きますが
08:03はははそりゃまたごちそうさま
08:07そしてちょうどエンマ様と約束した10年目に
08:11じいさんはあの世へ行った
08:13今度は一人でサンズの川を渡って
08:17エンマ町へ行かねばならなかった
08:20わしは覚えておりますか
08:28あ覚えておる
08:29おみは前が三本の板でよーく覚えておる
08:33今度は本当に死んでまいりました
08:36それにしてもおみは前ばにゃーとよく辛抱したな
08:41へえ前ばのうでもなんとかなりますっけ
08:44そりゃ関心じゃ
08:46ところでばあさんに会おうとは思わんか
08:50へえ会おうとは思いますが
08:5310年も会っていませんで
08:56わしはどっちでもエンマ様にお任せします
09:00そうかそれなら極楽の道を行くがえ
09:05へえありがとうございます
09:08じいさんは喜んで極楽へ向かった
09:13おーこりゃあすげえ
09:23峠を越えたところで
09:33次の峠の上に一軒の茶店が見えてきた
09:36すいませんお茶を一服くださいな
09:43はいはい
09:45ここの峠からの眺めはいいな
09:48はいお待ちどうさま
09:54ここの峠は極楽一の見晴らしでございますよ
10:01この茶店は古くからあるのですか
10:03いや10年ぐらい前エンマ様に作ってもらったんですよ
10:08ほー
10:08な
10:09ば
10:10じい
10:10じいさんじゃねえか
10:13大宮ちっともう歳とらんの
10:17ほら待ってたぞ
10:18じいさんこれでまた二人揃いましたが
10:23じいさんとばあさんはそれから
10:27この極楽の峠の茶店で
10:29二人仲良く暮らしていったそうじゃ
10:32次の峠は