00:00昔、昔、日田の山合いを流れる小鳥川の川辺に沿って、
00:19あまり部という小さな村里がありました。
00:30山肌にへばりつくようにして作られたその貧しい里見、
00:37黒部という百姓夫婦が細々と暮らしを立てておりました。
00:47そしてその夫婦の間には、忍という名の一人の娘がおりました。
01:00だが、娘の盛りを思うに過ぎたにも関わらず、
01:09忍は未だに嫁にも行かず、独り身でありました。
01:19それというのも、忍は色が黒く、器量の悪い娘だったからです。
01:26だから、嫁入りの年頃が近づいても、
01:34どこの家からも嫁のもらい手はなく、
01:37いまだに両親と共に寂しく暮らしている身の上でした。
01:43そんな娘の様子を、いつも見ている黒部夫婦は、
01:50胸を痛めるばかりでした。
01:52そんな忍が、25歳を迎えた、夏の終わりのことでした。
02:13この貧しい村方にも、年に一度の棒踊りの日がやってきました。
02:39この貧しい村方は、午後は、
03:02楽しいな
03:12お囃子の音がここ黒部の家にも聞こえてきます
03:17そんな里の様子をじっと家の中で聞いている忍の気持ちは
03:24ますます暗く沈み込んでいくばかりでした
03:32しのぶしのぶお前もみんなと一緒に踊りに行ってこいや
03:41そうじゃそれがええ
03:47しのぶ村の若い者同士思いつき楽しんでくりゃいい
03:53気持ちも晴れ晴れするね
03:56この間町で買ってきた新しい下駄があるじゃろ
04:03あれを履いて行ってこい
04:26沈み切った娘の気持ちを何とか引き立たせようとしてくれる
04:34両親の優しい気持ちにしのぶは逆らうことができませんでした
04:40それで仕方なく家を出てみたものの心の中ではどうしても
04:49宇治神様へ行く気にはなれませんでした
04:52不器量なしのぶのことを村の人たちが陰口を聞くような気がして
05:01足は自然に止まってしまうのでした
05:05そしていつしか
05:21宇治神様とは反対の川辺へ向かって歩き始めておりました
05:27きれいに澄み切った空には
05:46折しもまんまるな月が山の上高く登り
05:51しっとりと夜露に乗れた夜道を
05:56真昼のように明るく照らしておりました
05:59気がついて見るとしのぶは
06:07小鳥川に架かる小さな橋の上で
06:11縁に映った美しい月の壁をじっと見つめておりました
06:16綺麗なお月様
06:31縁に映る月の姿の美しさに見せられたかのように
06:41川で降り立ったしのぶは
06:44その場にじっと立ちすくんでおりました
06:48そうして月を見続けているうちに
06:57不器用なために嫁にも行けない自分の切ない気持ちが
07:02胸の奥からこみ上げてくるのでした
07:06お月様
07:08私も人の子
07:11女としてこの世に生まれてきたならば
07:15人並みに嫁にも行きたい
07:18不器用な娘に生まれてきたために
07:23このまま
07:26年を重ねていくなんて
07:29この先
07:33何を励みに生きていけばいいんでしょう
07:38そんな下部の悲しい気持ちを知らぬげに
07:50月は河原の美しい姿を目面に映しておりました
07:56この先
07:59一人
08:01日の子
08:02二人
08:04二人
08:06二人
08:08二人
08:10二人
08:12二人
08:14二人
08:16二人
08:18二人
08:20二人
08:22何を思ったのかシノゴは巣と手を目面へと伸ばし始めました
08:30そして水に映った月を自分の手の中にすくい上げたのでした
08:45月はシノゴも手の中で相変わらず美しく輝き続けておりました
08:52手の中で美しく輝く月を見つめていたシノゴは
09:18その月をふーっと飲み干してしまったのでした
09:22そしてその次の月に
09:38無事神様のお祭りが近づいた頃でした
09:42なんと不思議なことは
09:46シノゴはまるまるとした輝くばかりに美しい男の子を生み落としたのでした
09:53そしてこの子は都に出て
10:01後の世にまでも有名になった
10:04日田の匠だと伝えられております
10:09シノゴが水辺に映る月の影を飲み干した小鳥川の縁は
10:21月が瀬と呼ばれ
10:23その後二度と再び月影が映ったことはなかったということです
10:33その後三度と捻した
10:43ご視聴ありがとうございました
10:45ご視聴ありがとうございました
10:49ご視聴ありがとうございました
10:52チャンネル登録よろしくお願いします
10:53ご視聴ありがとうございました
