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  • 2 週間前
Japanese folk tales
トランスクリプション
00:00昔々、山に囲まれた宮城のある村に、百姓夫婦が住んでおった。
00:22男は兵庫といい、とても働き者じゃった。
00:29おかみさんのおしずとはとても仲がよかったのじゃが、なぜか二人の間には子供がなかった。
00:36子供がないためか毎日畑仕事が終わると、兵庫は近所の子供を集めて一緒に遊んでやった。
00:44子供たちもまた優しい兵庫を慕って遊びに来た。
00:48おらのかきとった、わーい。
00:53何言ってるだ、このかきはおらが最初に見つけたんだ。
00:58ほれほれ、喧嘩しちゃなんねえぞ。
01:01仲良く分けるだ。
01:05そんな子供たちの様子を、おしずもまた水汲みの手を休めながらそっと見ておった。
01:11なあ、おしず、村の子供らはもうみな寝た頃だべな。
01:23昼間は喧嘩ばっかりしておるが、夜はまた寝しょうべんじゃ。
01:29怒られる様子が目に見えるようじゃ。
01:31なあ、おしず、かきばっかりじゃ腹も冷えるで、寝しょうべんもするだ。
01:39明日は子供らに芋でもふかして食わしてやれや。
01:44ああ、そうすべ。
01:46おしず、さっき頃何作ろってるだ、おめえのものか?
01:51おらのじゃねえ、お花ぼうのだよ。
01:55おらの子供の時のものがあったから、ちょっと直して着せてやろうと思ってな。
02:01そうか、お花ぼうのか。
02:09おしず、いっそのことをどこからか子供をもらうことにするべか。
02:15でもな、どこの家だって自分の子供はかわいいもんだよ。
02:23じゃが、時間に当たってみなければわかるまいが。
02:26ああ、なあ、おしず、おまえさえよけりゃ寺池の町へ行ってみるべ。
02:35あそこなら大勢の人もおるし、中には既得な人もおるかもしれねえ。
02:41おしず、おめえ子が欲しくねえのか?
02:44おめえがつくろっている着物だって本当は自分の子に着せてえはずだ。
02:50明日にでも寺池さえ行って、探してみるべ。
02:54なあ、おしず。
02:55夜、遅くまで話し合って、兵庫とおしずは寺池の城下町へ行ってみることに相談がまとまった。
03:09どうか子供が授かりますようにと、心の中で祈りながら、朝暗いうちから二人は旅自宅で家を出た。
03:22二人は山道を二時も三時も歩き続けた。
03:26途中に枯れた杉林の中に、一本だけ緑の葉をつけた大きな小箱があった。
03:48あんた、ちょっと待って。
03:51さあ、おしず、急ぐべ。
03:53今、結び終わるから、ちょっと待ってくれろ。
03:56そうして、日がもうだいぶ高く昇った頃、ようやく寺池の町に着いた。
04:12夫婦の村などとは違って、それは大きく立派な家々が立ち並んで。
04:20そうして街中に入ると、そりゃあ、賑やかで、通りをひっきりなしに行き交う、
04:26人や荷車に、山の村から出てきた兵庫夫婦は、しばし呆然とせずにはいられんかった。
04:35兵庫夫婦は、なんとかそんな街中を歩き回り、
04:39どこかに子供をくれるような、いい話に出会えぬものかと、探し歩いた。
04:45じゃが、一日中足を棒にして歩き回ったが、
04:58二人には、見る人、会う人、みんな遠い他人に見えて、
05:03何度も声をかけようと思ったが、とうとう、一言も声をかけられぬまま、日だけが暮れ始めた。
05:12かきでもおくか。
05:15押しず、そろそろ山へ帰るべ。
05:18おっちゃん、かきおくれ。
05:25おっちゃん、おくれ。
05:28あ、あゆいとも、これ。
05:33あんた、この子は?
05:38ぼうや、おっかちゃんはどうしたな?
05:41いないよ。
05:43どうしたな?
05:44死んじゃった。
05:46あんた。
05:48それじゃあ、おっとっちゃんは?
05:52なんだ、聖父、こんなところにいたのか。
05:56ああ、これはどうも、坊やがいただきものをしましたな。
06:00ありがとうございました。
06:14帰り道は、二人にとって、とても疲れて、苦しい道のりだった。
06:25山道に差し掛かる頃には、日はすっかり暮れてしまっておった。
06:29おしず、このままじゃ、どうせ急いでも、家に着くのは夜中じゃで、ここらで引き休みしていこう。
06:43いえ、あんた。
06:44そうして、雪におしずが、花を結び直した、杉林の中の古墨の寝方に、腰を下ろすと、
06:58しばし二人は、無言で体を休めた。
07:01さあ、いつまでも、こうしていても、仕方ねえ。
07:19行くとするか。
07:27おしず、何してるだ?
07:29お前さん、あれを見て。
07:36腰を上げたおしずの目の前には、
07:40例の古墨の根が続いて、
07:43その根元から次々に、
07:46六本の小杉が生えておった。
07:49小持ちの杉じゃった。
07:54あんなにたくさんの子が、
07:56あんなにたくさんの子が。
08:01杉の木でさえ、あんなに、
08:04たくさんの子供を持つのに、
08:07おらたちには、たった一人の子も授からねえ。
08:11どうしてだねえ。
08:13舞い落ちる、雪の中に育つ、六本の小杉は、
08:21二人に、今日一日、
08:24町角で、路地裏で、走り回っていた、
08:28子供たちの姿を、思い出させた。
08:31おらたちにも、こうさづけてくださいましに。
08:44おしず。
08:44あんたも、おねがいしてくれろ。
08:47どうか、おらたちにこがさづかるように、
09:05お願いしてくれろ。
09:07そう、叫ぶと、
09:10おしずは、太い、
09:12おやすぎにすがりついた。
09:15そして、二人は、
09:17震える声で、
09:18一心に、杉に向かって、
09:21おたのめした。
09:26その願いが、
09:27天に通じたのじゃろうか。
09:30あくる年の夏、
09:32おしずは、めでたく、
09:33男の子を産んだ。
09:34二人の喜びようは、
09:42天にも昇るほどじゃった。
09:45近所の子供も、
09:46大人も、
09:46大喜びで、
09:47毎日、
09:48赤ん坊を見にやってきた。
09:51これで、みんな、
09:52安心じゃ。
09:54いつ、
09:55俺んとこの子を、
09:56くれろと、
09:57言い出されるか、
09:57みんな、
09:58ヒヤヒヤだったからの。
10:00ははははは。
10:04二人は、
10:07杉の木に、
10:09深く感謝して、
10:11神様の木として、
10:12敬い、
10:13すぐそばに、
10:14観音様を、
10:15祀った。
10:17この話が、
10:19村から町に、
10:20言い伝えられると、
10:21いつの間にか、
10:22この杉は、
10:24小持杉と、
10:25名が付いた。
10:25子供の欲しい人が、
10:28はるばるやってきて、
10:29観音様に、
10:30お願いすることが、
10:31多くなった。
10:33そして、
10:34小持杉は、
10:35今でも、
10:36光合しい姿を、
10:37そびえ立たせている、
10:38ということじゃ。
10:40ご視聴ありがとうございました。

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