00:00昔
00:26ひだのなべりだににじいさまとばあさまがすんでおった
00:32ふたりはふうふそろってこころのやさしいものじゃった
00:39そのうえたいそうしんじんぶかく
00:43むらはずれのじどうさまにはひまあるごとにおまえりし
00:47まずしいなかにもおそないものをかかしたことがなかった
00:56ただじいさまは長いことやまいをわずらっておって
01:06いつもひどいせきにくるしんでおった
01:09いやーよいよひよいね
01:26おせいがでますの
01:28じいさまとばあさまは
01:57かいこをかってくらしておった
01:59やがてかいこがまゆをつくるきせつになり
02:20じいさまとばあさまはねこのてもかりたいほどいそがしくなった
02:24そんなある日のこと
02:27はていまどきだれじゃろう
02:35わたしはたびのぼうぶじゃが
02:44こよいひとばんとめていただけませんか
02:48これはこれはお坊さまよお越しなさいました
02:54どうぞおとまりになってくださいませ
02:59ほんにおかいこさまのせわでねるところもないようにとり散らしておりますが
03:07すぐそこらあたりをかたづけますね
03:12ほれここはわしがかたづけるでお坊さまにお茶をおだしして
03:19はいはい
03:21さあさあお坊さまどうぞお上がりくだされ
03:28ばあさまはまず漬物を刻んでお茶に添えてお坊さまに差し出した
03:44それからばあさまは夕食に家の中にあるだけのものを出して
03:55何かとごちそうを作った
03:57そばきりはなぎ畑の粉で
04:14汁はめったに使ったことのないたまりを使った
04:21そしてネギの薬味をひと山刻んで黒いそばきりに添えて出した
04:26なんもなくて気の毒じゃけど
04:31坊さんはちゃんとあがってくだされ
04:36かたづけない
04:39このそばきりのうまいこと
04:52このようにうまいそばきりは初めてじゃ
04:55さあわちらもお坊さまのお正番をしよう
05:04はいはい
05:06こうして坊さまとじいさまとばあさまの三人は
05:12楽しい夕食のひとときを過ごしたのじゃった
05:15その夜坊さまが床についてからも
05:43二階からはじいさまとばあさまが夜通し働く足音と
05:48時々じいさまがひどく苦しげに
05:52せきこむ声が聞こえた
05:54よくちょうじいさまとばあさまが目をさますと
06:07もうほとんどまゆになりかけているかいこに
06:11坊さまがお経を読みながら家事を行っておった
06:16なんまいらぶなんまいらぶなんまいらぶ
06:25なんまいらぶなんまいらぶなんまいらぶ
06:29すっかりごちそうになりました
06:36ではそろそろ置いとまいたしましょう
06:40本に何のおもてなしもできませんで
06:45いやいや本に大層おいしいそば切りでした
06:49おや雨が降ってきました
06:59お坊さんはこれをお持ちくだされ
07:03これはかたびけない
07:05それにしてもじいさまの喘息の咳のひどいのは気の毒じゃ
07:19お礼に直して死んでましょう
07:24王様は解雇にやったと同じように
07:28今度はじいさまに向かってお経を読み
07:31家事を行った
07:33さあゆっくり静かに息をふってみなされ
07:52咳が出ん
08:11不幸息を吸うでも咳が出んようになった
08:15よかったのおじいさま
08:17お坊さまのおかげじゃ
08:19気がつくともう坊さまはそこにはおらんかった
08:26じいさまとばあさまはあわせてお礼を言おうと追いかけたら
08:31じいさまにもろうた傘を頭にのせたまま
08:35坊さまは雨の中をひょうひょうと言ってしまった
08:39お坊さまはあわせたまま
08:46やがてまゆがすっかりできあがった
09:06いつもの年よりどのまゆもじょうできで
09:10じいさまとばあさまはたいそうよろこんだ
09:13まゆわけもすんで
09:18じいさまとばあさまは白い米のだんごをつくって
09:22寺はいつものようにじいさまにお参りに出かけた
09:37あれあれは
09:39まっあの傘は
09:42なんとおどろいたことに
09:47地蔵様の頭の上にはこの間坊様に差し上げたあの傘が乗っておった
09:54この間家に泊まってくださった坊様は実はこの地蔵様だったということに
10:02じい様とばあ様はようやく気がついたのじゃった
10:05今もこの地蔵様は随短地蔵と呼ばれ
10:19毎年3月24日の縁日には遠く越中の方からも病気を治してもらうためお参りに来る人がいるそうな
10:28随短とは全息のこと
10:35ご視聴ありがとうございました
