00:00昔岩手の方での話じゃった
00:15険しい山にへばりつくようにして小さな村があった
00:23痩せた石ころばかりの土地じゃったから
00:27作物もろくなものは取れませんかった
00:31心あたりでは満足にお乳を与えられぬ赤ん坊は
00:38泣き疲れて眠るしかなかった
00:41子供たちは乾いたカエルみたいに痩せておった
00:46親たちはせめて子供たちに腹いっぱい食わせてやりたい
00:52それだけが願いで毎日働いておった
00:56ある月の美しい番芸のことじゃった
01:03西の山からヤマンバが
01:06ユンサと木を担いできて
01:10村の真ん中にジャッキと立てた
01:15ヤマンバの植えた木は育って育って
01:20とうとう梢が天まで届くほどの大木に育った
01:24あくれ朝村の真ん中に育った大木を見て
01:32村人たちはみんなびっくりしてしまった
01:36大木が村を見下ろしていると
01:44おっ母たちのお乳がどんどん膨らんで
01:48たーんと出るようになった
01:50村人たちはいつとはなしに大木を
01:55チッチの木と呼ぶようになった
01:58そんなある日のこと大嵐が吹いた
02:06水をぶちまけたような大雨が降って
02:09空をかけるような雷が鳴った
02:14チッチの木が雷様にやられたな
02:32朝になってみるとチッチの木が真っ二つに裂けておった
02:43むろいことだの
02:47何も悪いことを起こらねばいいが
02:56おっ母チッチやってけろ
03:06おっ母チッチやってけろ
03:10おっ母ってばよ
03:15おっ母どうしただ
03:32オッカーもチッチ出ねえだよ
03:40チッチの木が真っ二つに裂けてからというもの
03:46村にはろくなことが起こらなかった
03:48豆には実がいらず
03:51夏も盛りというのに稲には穂がつかず
03:57オッカーたちのチッチもペシャンとなって
04:00チッチが出なくなってしもうた
04:03困り果てた村人たちは
04:08藁にもすがる気持ちで
04:10チッチの木の前に集まって一生懸命拝んだ
04:14そうしたところが何とも不思議なことに
04:26稲に穂がつき
04:28みるみる色づき始め
04:31ほどなくオッカーたちのチッチも
04:33たんと出るようになった
04:35そうして何とか無事に取り入れも済ませることができた
04:40冬が過ぎて春になると
04:54冬が過ぎて春になると
05:09ここいらあたりは一斉に野焼きが始まる
05:13ところが野焼きの飛び火でチッチの木が燃え出すと
05:26それは村の端っこからも見えた
05:29驚いた村人たちは転げるように
05:32チッチの木をめがけて走った
05:34村人たちは一人残らずチッチの木の周りに駆けつけたもの
05:47何しろ大木のこととでどうすることもできんかった
05:53みるみるんじに火は燃え盛った
05:56はしごをつないで力自慢の男が水をかけたりしたら
06:01一向に火の勢いは衰えなかった
06:04こうして何とか火が収まった頃には
06:10チッチの木は無残な姿になっておった
06:14ああチッチの木が大丈夫じゃろうか
06:19何を寝ぼけたこと言うとのか
06:25枯れるに決まっとる
06:27いや薄屋の旦那
06:31どうせ枯れてしまうものなら
06:36俺様がもらってって薄を作ってやろう
06:40日本一の薄ができるぞ
06:42おい!かかれ!
06:46いや、やめてくれ
06:52じいさ、やめるが
06:55俺たち村の者が大金持ちの旦那には逆らえねえよ
07:01続けろ!
07:04へい!
07:06えええええええええええ
07:07街の薄屋の旦那は人足を引き連れて
07:12見る間にチッチの木を切って
07:14街へ持って行ってしまった
07:16この有様を村人たちはただ呆然と見ておるだけじゃ
07:25こうしてチッチの木はただの切り株になってしまった
07:41そうすると西の山から冷たい風がピューピューを吹いてきて
07:48作物は取れなくなりまた飢饉になってしまった
07:53オッカー!オッカー!
08:02チッチやってけろー!
08:05オッカー!チッチやってけろー!
08:08オッカーってばよー!
08:14冷たい風吹いてなんも取れねえ
08:19チッチも出ねえだよー!
08:22オッカー!
08:27チッチの木はオラたちのこときっと
08:31怒っておられるにちがいねえ
08:34オラたちなあ
08:36もしねえでミスミス街の旦那に
08:39木を切らせて下手だからなあ
08:43取り返すべー
08:52取り返すべー
08:55なんだ?
08:57取り返すべー
09:00イクダ!
09:02イクダ!
09:03イクダ!
09:04イクダ!
09:05イクダ!
09:06イクダ!
09:08イクダ!
09:09イクダ!
09:10イクダ!
09:11イクダ!
09:12イクダ!
09:13イクダ!
09:15イクダ!
09:16イクダ!
09:18イクダ!
09:19イクダ!
09:21イクダ!
09:22イクダ!
09:24イクダ!
09:25イクダ!
09:26イクダ!
09:27イクダ!
09:28イクダ!
09:29イクダ!
09:30イクダ!
09:31イクダ!
09:32イクダ!
09:33イクダ!
09:34イクダ!
09:35イクダ!
09:36イクダ!
09:37イクダ!
09:38イクダ!
09:39イクダ!
09:40イクダ!
09:41イクダ!
09:42イクダ!
09:43イクダ!
09:44イクダ!
09:45日の月の綺麗な晩芸のことじゃっ
09:58きのきに目が出ておるぞー
10:01ちっちのきに目が出てるぞー
10:05ちっちのきに目が出ておるぞー
10:09冷たい風がいつの間にか吹き止んで
10:15村では少しずつ作物が取れるようになった
10:19おっ母たちのちっちもたんと出るようになった
10:24村人たちはこの後ずーっとちっちのきを大切に育てたということじゃ
10:39こなった
10:44むん
10:46じゃ
10:48ういわ
10:50しっかり
10:55せ