00:00黒部の渓谷の日田の山を真っ二つに割って下っておるんじゃ。
00:17流れの源には夏でも真っ白な険しい山が病風のように立ちはだかっているんじゃ。
00:30頂きはいつも雲が掛かっていて、わしら木こりだって滅多に見たことがねえだ。
00:46そんな険しい山じゃから、情するにはとってもいいんじゃよ。
00:53貴物はたくさんおるでの。わしら木こりでも時には寮に出たんじゃよ。
01:02ある時なんと一日のうちに猿や狸などなんなんしっぺきあまり取ったことがあったぞ。
01:10おじいちゃん、ご飯持ってきただよ。
01:19客でもあるのかと思ったに。
01:35お前が男じゃったら、どんなにしても山に連れて行くんじゃが。
01:45じゃが谷には、魔のおるところと裏のところがあるんじゃ。
01:52魔のおらっしゃる谷にはどんなに入ろうとしても、人を近づけてくれん。
01:59たとえば、あれだなぁ。
02:09ケッキー盛んな頃じゃなかった。
02:12山に入る時は、上浜に襲われんように、山刀を千人担げてゆえ伝えがあった。
02:23だし、お前また山刀持ってきてねえでねえか?
02:27おら、上浜なんか怖くねえからな。山刀なんか持ち歩かねえのよ。
02:35先に、行っとるぞ。
02:37帰れ帰れ。迷信なんかが怖くて、木こりになれっか?
02:42よっ!
02:44よっ!
02:52一足、先に戻ったわしは、小屋に帰って、出しを待ってとった。
03:01これ見ろ、何もありゃしねえじゃねえか。山刀なんか持たなくたって、上浜なんか出やしねえよ。
03:10はぁ?
03:13どうした?
03:14無事に戻ったことが不思議だ。
03:20なんだヤスケ。
03:22うわぁ!
03:23ダッシェ。
03:37吹き飛ばされた小屋の跡には、蛇兵の姿はなかった。
03:43ただ、青臭い蛇のにおいが残っておった。
03:50山の中で恐ろしいのは、天狗でもなければ、山の神でもない。
03:57この上浜なんじゃよ。
04:00ところが、この上浜よりもっと恐ろしいことが山にはあるのじゃ。
04:06おら、ダッシェのツヤの晩に大酒を飲んで帰ってきっと。
04:21あっ、あれだ。人の家に黙って入ってる奴は。
04:25聞くところによると、明日は村の州と山へ入るとのこと。
04:34その谷の、ヤナギの木だけは、切ってくれんな。
04:40そりゃ、一体どういうことだ。
04:44ヤナギの木でもなんでも切ってくれる。
04:47頼む。頼む。
04:50おら、一人で行くんじゃねえ。みんなで行くんじゃ。
04:55あなたは心の優しいおかと、私の願いを必ず聞いていただけると思っています。
05:07頼みます。頼みますよ。
05:12次の日、おらは十五人の仲間と北又谷へ入った。
05:25頼む。
05:28頼みますよ。
05:42ご視聴ありがとうございました
06:12こんなところに
06:14何したんやっけ
06:16さあ仕事で早上がってこっかい
06:20ああ
06:22親方親方
06:25その木は散らんでくれ
06:27じゃあが
06:30そこにあった柳の木は
06:33実に見事じゃった
06:36数百年も経った柳で
06:39岩に根が十畳ほども果ておった
06:44木こりたちは大喜びじゃった
06:48とても
06:50わしのことなど聞く耳は持たんかった
06:54やめろ
06:57夜
07:06小屋に戻って
07:22飯を済ますと
07:24おらたちは急に眠気に襲われた
07:29まるで深い
07:31雨の中に引き込まれていくようじゃった
07:34誰じゃ
07:45昼間の女
07:56恐ろしかったのは
08:03その後のことじゃった
08:05うん
08:09ゴスケ
08:25サイキチ
08:2615人の木こりたちは
08:31一人残らず舌を引き抜かれて死んでいたのです
08:37あんたに頼めば
08:40こんなことにならずに済むと思っていたのです
08:45あんたに頼めば
08:49こんなことにならずに済むと思っていたのです
08:54おら
09:09必死になって逃げて逃げて
09:14その世のうちに村に逃げ帰った
09:19それからもう50年も経つが
09:24あれは今思うても
09:28おとろしいほど美しいうなごじゃった
09:32おらあの時のうなごは忘れられん
09:37おじいちゃんご飯お持ちしましたよ
09:54おじいちゃん
09:55いや
09:56舌がない
09:59じいさまの口に舌がない
10:01安家じいさんは舌を抜かれて死んでおった
10:11じゃがその顔はどこか甲骨として
10:15何かに話しかけようとしている表情じゃった
10:20この事件があった谷を16人だりと言うそうじゃ
10:26昔
10:29日田山中での話じゃった
10:33ご視聴ありがとうございました