00:00さて、よし、よいしょ、よーし、このぐらい重い石を乗せねば、
00:27おらの大根漬けはうまく浸からんのじゃ、よいしょ。
00:43おらの漬けた漬物は村一番の味じゃとみんなそう言ってくれるで。
00:50さて次は野良仕事じゃ。
00:53昔ある村に大層漬物好きなばあさんがおった
01:01じいさんとはとうの昔にしに別れて
01:05一人暮らしじゃったがそりゃ元気に毎日仕事に精を出しておった
01:11よいしょよいしょこらしょ
01:15ばあさんいつも元気ええだ
01:18おかげさんでな
01:20元気もいいがそう毎日一人で張り切っとったら長生きできんぞ
01:27何言うだおらこうして働いておらんと生きた心地がしないんじゃ
01:35そうは言うでも一人は大変じゃどれ大根抜き手伝うべき
01:40いいんじゃおらの畑のことはおらで面倒めるだで
01:44相変わらず頑固じゃな
01:47そうじゃちょうどお茶にすべえと思っとったところじゃ
01:52一緒にどうじゃ
01:53いつものやつを一つご馳走になるか
01:59さて出せや
02:05頑固者のおばあさんじゃったが
02:09畑で採れたものはみんなに惜しみなく分けてやる
02:13木立ての優しいところもあって
02:15村人から大層を親しまれておった
02:19ああうめえいつもいい味じゃが
02:25何かコツがあるんかばあさん
02:28うんにゃあそりゃ教えられねえ
02:32まあ年季じゃな
02:34歳をとらにゃこの味は出ねえ
02:36なるほど歳か
02:39そんなわけでばあさんの漬けた漬物の味が村の人たちを引き寄せたし
02:49村人もこうしてばあさんのところに集まるのを楽しみにしておった
02:54おめえそのどんぶりはなんじゃ
02:59この前ばあさまにもらった漬物
03:02もう全部食ったでまたもらおうと思って
03:07またずいぶんでけえどんぶりを持ってきたもんだな
03:10ええがなええがな
03:14おらが生きとるうちは村のもんや漬物の不自由はさせねでよ
03:20ははははははは
03:22そんなある暑い夏の日のことじゃった
03:28ばあさんはいつものように畑で背を出しておった
03:32わあ大きく育った大きく育った
03:37こたしも白売りのうまい塩漬け
03:41たんと食えるわい
03:43誰じゃ金たたいておるのは
03:52極楽王女
03:57極楽王女
03:59極楽王女
04:02誰だねあんた
04:04極楽王女
04:07なんじゃ今のは
04:16わしゃ幻でも見たんかいの演技でもね
04:21わしゃまだ王女なんぞするもんか
04:25なんとばあさんは突然その場に倒れたかと思うと
04:37そのままぽっくりと死んでしもうた
04:39さあ村では大騒ぎになった
04:42ばあさんは生きている時から村中の人々から親しまれておったから
04:48みんなから親しまれお葬式も年頃に多くの人が集まった
04:54明日から漬物どうすべ
04:58もう今までのようにはいかねえでおめえつけろ
05:03いやだよーらん下手くそだって
05:15その頃、ばあさんはお経に送られて、五色の雲に乗り、ゆらりゆらりと極楽に登っていくところだった。
05:28やがて極楽が見えてきて、極楽に通じる橋の前に五色の雲は止まった。
05:38雲から降りたばあさんは橋を渡り始めた。
05:42ところが橋を渡るうち、何か忘れ物をしてきたような何か、後ろ髪引かれるような妙な気持ちになってきた。
05:54そうして橋の中ほどまで来て立ち止まると、ばあさんは考え込んでしもた。
06:02なんじゃったかいの。何か忘れとるみたいじゃが。
06:09しかし、いくら考えても思い浮かぶものはなかった。
06:17こうなると頑固者のばあさんは、ぜがひでも、思い出さんことには我慢がならなくなってきた。
06:24やがて…
06:29そうじゃん。まだ白織りつけ込んでおらんかったぞ。
06:37さて下界では、いよいよおかんを運び出す段となった。
06:43いいか、ばあさんが入っとるんじゃゆっくりそっとな。
06:49いか、持ち上げるぞ。
06:51出してくりょうよ、生きとるぞい。
06:56あれ?
06:57開けてくりょうよ、生きとるぞい。
07:01おぉ、死人に鬼がついたぞ、何枚多分、何枚多分、何枚多分、何枚多分。
07:16鬼を落とすにはほうきで打ち叩くがいいって言うぞ。
07:20ああ、やれやれ。
07:22叩いて鬼を落とすんじゃ。
07:24鬼、落ちろ。
07:26鬼よ。
07:27こら何するだこら
07:30てててまーにぶつんじゃ
07:34ほら生きとるぞ鬼じゃないぞ
07:37おいちょっとやめろや
07:39ばあさんやほんとにばあさんか
07:43鬼つきじゃないんか
07:46おらじゃよ鬼なもんかよ
07:50こりゃ大変じゃ
07:52ばあさん生き返ったぞ
07:54ばあさんが生き返ったとわかった村人たちは
07:59あわててとこを述べてばあさんを寝かした
08:03さて助かったとなると村の人たちみんな寄り集まって
08:09よかったよかったと喜びあった
08:13だが不思議なこともあるもんじゃな
08:16あの時ばあさんは確かに死んだんじゃが
08:20ばあさんどうして生き返ることができたんじゃ
08:25あれがきっと極楽なんじゃろうな
08:29なんともきれいなとこじゃった
08:32竜宮のような御殿が見えてその前に橋がかかっておった
08:40おらその橋を渡って行ったら半分ばかり来た時なんだか急に忘れもんしたような気がしてな
08:51立ち止まってみたがなんだか思い出せない
08:55そこでおらぜがひでも思い出そうと橋の真ん中で足踏ん張ってがんばったんじゃ
09:03それで何か思い出したんか
09:06思い出したとも思い出したとも
09:11それは何じゃったんじゃ
09:13白売りじゃよ
09:15何白売りじゃと
09:18ああ畑の白売り思い出したんじゃ
09:22そしたらもう何としても白売りの漬物作んなにゃならんと思うようになって
09:30たまらんようになってそれで慌てて引き返したんじゃ
09:35ほんに危ないところじゃった
09:38白売りの漬物で生き返るとは
09:42もう
09:43村の人たちはもう呆れるやら感心するわで何も言葉が出んかったそうじゃ
09:54そうしてこの極楽戻りのばあさんは
10:08その後7年余りも丈夫で生きておったそうじゃ
10:12やがて今度こそ本当に亡くなってしまった時
10:18集まった村人たちはこう噂したそうな
10:22ばあさんはきっと
10:25今度は極楽の橋を渡ってしまったのじゃろう
10:30と
10:38ご視聴ありがとうございました