00:00ご視聴ありがとうございました
00:30誰じゃ
00:38昔昔愛知県のどどめきというところはちょっとした峠でな
00:53水車がごっとんごっとんと回っている茶屋があって
00:58犬山への行き帰りの旅人は必ず一服するところじゃったそうな
01:05その茶屋へ出るまでの道に竹矢部ですっかり覆われて
01:11昼でも暗くて薄気味悪い道があった
01:15誰もおりゃせんがな
01:18この道を通る旅人はドッキンドッキン
01:38破裂しそうな自分の心臓の音を聞きながら
01:43時々後ろを振り返り振り返り夢中で通っていったそうな
01:48それと言うのも
02:14この道は誰が通ってもピタピタピタ
02:19後をつけてくるような足音が聞こえてきて
02:23旅人は恐ろしようになって
02:25はぁはぁはぁはぁはぁはぁ言いながら
02:28もつれるような足取りで峠の茶屋へとたどり着いたのじゃった
02:32誰かがおらの後追ってくるんや
02:41おめえさんもか
02:43おらもさっき通ってきてな
02:45誰かに後をつけられたんや
02:48全く薄く身悪い竹矢部で
02:51ほんま
02:53まあお茶でも飲んで気落ち着けや
02:55ばあさんばあさんお客さんやで
02:59ばあさんや用があったらまた呼ぶからな
03:18おいおい
03:29竹矢部も気味悪いが
03:31あのばあさんも気味悪いど
03:33おまあへんか
03:34何にも喋らんとニコニコして
03:37村の人の話だとな
03:40暇さやりゃああして
03:43花や団子を備えたりして
03:46拝んどるそうじゃ
03:47お、おら
03:52先を急ぐでそろそろ出かけるぞ
03:54おらもそうする
03:56ばあさんお茶台ここを空いてくで
04:00ごちそうさ
04:01へえ
04:07その後も
04:14竹矢部の道は昼でも夜でも
04:17いつ誰が通っても
04:19必ずピタピタピタピタ
04:22後をつけてくる足音がしたそうじゃ
04:27誰かさっきから後ろをついてくる
04:32分かってるならそんなに震えないでなんとかしておくれなぁ 後ろに誰かいりゃあなんとかするがいいよ
04:42いねえんだよ後ろに誰も
04:46どういうことなんだ誰もいないのに足音がするってのは
04:54バッバッバケモノってことじゃろう
04:57バケモノ
04:59そんなある日のこと
05:08旅人たちの恐ろしがる様子を見かねた村の若い者が集まって
05:15竹矢部の道で人々を怖がらせているバケモノの正体を突き止めようと相談をしたのじゃった
05:23よし今夜だ
05:26今夜オラがその正体を見届けてやる
05:29ばあさんケーキ漬けに酒をいっぱいくれや
05:32そうしてその夜
05:40選ばれた村の若者は
05:43山刀を腰に下げて一人で竹矢部の道を歩いていった
05:49バケモノめ
05:51出るなら出てこい
05:53退治してやる
05:54若者がしばらく歩いて耳を澄ましてみると
06:05出たなバケモノ
06:21若者がとっさに振り返り後ろを照らしてみたが
06:28何の姿も見えなかった
06:31そうして再び真っ暗な道を歩き出すと
06:43また後ろからピタピタピタピタ足音がついてきた
06:49そうしてその足音はどんどん若者に近づいてくる様子じゃった
06:57そのうち首筋に何やら生臭い息がかかるような感じがした
07:05さすがの若者も恐ろしくなって
07:09正体を確かめるゆとりもなく
07:12振り向きざま
07:14確かに手応えはあった
07:21その夜若者は訳もわからぬまま
07:26逃げるように村まで帰った
07:28ところが翌朝
07:35茶屋の前は大騒ぎになっておった
07:38なんと
07:42茶屋の前の地蔵さんが
07:46胸の真ん中で二つに切られておったのじゃった
07:49お若い週
07:55おらずっとずっと昔から知っとって黙っとったことがあるんじゃ
08:01あれはおらが四つになるかならんかの頃じゃったの
08:06この茶屋おらのかかさが始めた頃じゃ
08:11そのかかさがあるとき病気で倒れての
08:16おらどうしても町まで医者を呼びに行かにゃならんかった
08:21町まで行くにゃこの竹矢部の道を通らにゃいけん
08:27おらも恐ろしゅうて恐ろしゅうての
08:31一人で泣きながらそれでも我慢して走ったんじゃ
08:36そん時じゃあれほど暗くて恐ろしかった竹矢部が
08:43急にぽーっと明るうなった
08:46そりゃきれいなもんじゃった
08:49そしておらが何気なく後ろを見ると
08:52お地蔵様が後からついてきてくれてるんじゃ
08:57おらもう嬉しくなっての
09:00無事に町まで行って医者を連れてきたんじゃよ
09:04おらこの話を村の人たちに話したが
09:09小さな子供の言うことじゃで
09:12誰も信じてはくれんかった
09:15それ以来おら黙っとることにしたんじゃ
09:22ゆうべおらが夢中できたのは
09:26この地蔵さんじゃったのか
09:29今までのこと
09:31こりゃこの地蔵様が毎日毎日
09:34旅人の後をついて歩いて
09:36守ってくださっておったんじゃな
09:39偉いことをしてしもうた
09:42大事にしてた地蔵さんに
09:45すまんことをしてしもうた
09:48いやお地蔵さんにおらがわびといてやるで
09:52うん
09:53それにしてものお地蔵さんの
09:56本当の姿を見られるのは
09:58考えることも作ろうこともまだ知らね
10:02小さな子供のうちだけかもしれんの
10:05何枚ラブ何枚ラブ何枚ラブ
10:10そうしてその後も竹矢部の道を通ると
10:16ぴたぴたぴたぴたぴたと
10:18後ろから足音がついてきたというが
10:22もう誰一人として怖がる者はいなかったということじゃ
10:28今でもどどめきの切られ地蔵様は
10:33切られたまんまで
10:35ぽつんと峠の上に立っていらっしゃるということじゃ
10:40ご視聴ありがとうございました