00:00昔々、九州は宮崎のある山里で、こんな話があったそうな。
00:20ずっとずっと山奥に、谷を下にして炭焼きの小さな小屋があった。
00:36雨がしとしとと降る晩じゃった。
00:40中では炭焼きの親父が一人、ぐっすりと眠りこけておった。
00:50何を徳散前にする。
01:00何を徳散にする。
01:06ん
01:08ん
01:10ん
01:12ん
01:14ん
01:16ん
01:18ん
01:22ん
01:24ん
01:30ふぅ
01:32夢か
01:34ひでえ夢を見たもんじゃ
01:38ん
01:48なんじゃと
01:50できねえ
01:52今頃になって何言ってるんじゃ
01:56お前の返事一つで決めた飽きないだぞ
02:00え
02:02返事をしたことはしたけれども
02:04どうしても日にちが足りねえんです
02:08飽きないは返事一つだよ
02:12いい加減な返事をされたこっちの迷惑も考えてみろ
02:18明日までにすみ50票をそろわないときには
02:22今まで
02:24納めてもらった25票分の代金は払えねえからそう思え
02:30そ、そんな
02:32それが嫌ならすみ50票どうしても明日までに納めてもらわんとなあ
02:40お前の返事一つで決めた飽きないだぞ
02:44お前の返事一つで
02:48お前の返事一つで
02:52お前の返事ひとつで、お前の返事ひとつで、お前の返事ひとつで、ふぅー、けっ、銀行な隅屋の旦那め、返事返事と、うるせえやつだ。
03:11ふぅー、ひとつで、くらやみの中にひびきわたったおとは、ふるびたびわのおとじゃった。
03:27すみあきごやになんともふにあいなこのびわは、せんねんたびのおぼうさまが、いちやのやどのおれいにとおいていったものじゃった。
03:38外では闇がますます深くなり
03:51小闇なく雨は降り続いておった
04:08深くなり
04:38おやすみなさい
05:08どれほど時が経った頃じゃろうか
05:13真夜中によいと呼ぶ声がした
05:17炭焼きの親父ははっと目を覚まし
05:21戸口へと出てみた
05:23こんな夜更けに誰が呼ぶんじゃろうかい
05:33炭焼きの親父が戸を開けて
05:35あたりを見回してみても
05:37誰もおらん
05:39じっと耳を澄ませてもただ
05:42人々と雨が降っておるだけじゃった
05:46妙なこともあるもんじゃと男が考えておると
06:01炭焼きの親父は
06:14妙なこともあるもんだと思いつつも
06:18後先考えずいつもの癖で
06:21おいと返事をしてしもうた
06:24そして次に聞こえたよいと呼ぶ声は
06:37なんと家の中から響いてきたのじゃった
06:40親父はすっかり気味悪うなってしもうた
06:44親父は呼び声に操られるようにバタバタと家中返事を返して歩き回った
07:08炭焼きの親父が相手に連れて返事をしていることに気づいたときにはもう遅かった
07:30ヤマンバのオラビグラに引っかかってしまっておった
07:36オラビグラというのはヤマンバの声比べのことで
07:41一度うっかり返事をしたら最後
07:44槍負けたら食い殺されると言われておった
07:48ヤマン
08:00ヤマン
08:05ヤマン
08:08ヤマン
08:14ヤマン
08:17ヤマン
08:19ヤマン
08:21ヤマン
08:22ヤマン
08:26ヤマン
08:28ヤマン
08:30炭焼きの親父とヤマンバのオラビグラはいつ果てるともなく続いた
08:36親父の喉はカラカラに渇き
08:41あーもう駄目だと思った時
08:43親父の頭にひょいとよい知恵がひらめいた。
08:51声で返事をする代わりに親父はびわで返事をすることにした。
09:13声で返事をする代わりに親父はびわで返事をすることにした。
09:43声で返事を引きまくった。
09:45それはどれぐらいの時間じゃったか。
09:49ヤマンバの姿が消えたのと、親父が気を失ったのとはほとんど同時じゃった。
10:01やがて気を失っておった炭焼きの親父の右に、懐かしい小川のせせらぎが聞こえてきた。
10:10おらはつい、ええ加減な返事をしてしまうからいいか。
10:17これからは気をつけよう。
10:22ええ加減な返事ほど、世の中に恐ろしいものはないと。
10:27炭焼きの親父はびわを抱きしめ、抱きしめ、思い続けておったそうな。