00:00昔、大阪で手広く呉服屋を営んでいる男がありました。
00:17ところが、悪い番頭の使い込みにかかって、店はつぶれ、一家は離散。
00:25男はすべてを売り払って借金を返し、
00:30残ったなけなしの金を懐に、西国でもう一旗あげようと、
00:36備中寿を下って行きました。
00:53それはそれは、えらい目にあいなさったの。
00:57まあ、ええこともあれば、悪いこともある。そのうち、またええこともありません。
01:05これから、どちらの方へ行きなさる?
01:11へえ、行くあてもありませんが、ともかく西の方へ向かって行こうと思ってます。
01:17この辺りでは、のすっぽが多いで、気ぃつけなされや。
01:22へえ、大きに。
01:24まあ、切り落とさんと、しっかりおやんなされ。
01:28へえ、大きに。
01:30大きにごちそうさんになりました。
01:48お台はここに置いておきますで。
01:50へえ、へえ、へえ、へえ。
02:00こなさいなら。
02:03お、おきに。
02:04おきをつけて。
02:05お、おきに。
02:35まずいor Iraおいたいよ、こんなことだ。
02:39や。危ないやないか。
02:42焦がしたらどうするんや。
02:44何とか言うたら、どや。
02:49人を馬鹿にしょって。
02:51昔やったら合わないなやつ
03:03ただでは丘なんだ
03:04人は落ちぶれとないもんやな
03:08何としてもこの金をもとでに
03:11もう一旗
03:12ん?
03:13ないないないない
03:22このあたりでは
03:23息子が多いで
03:25気ぃつけいなさねや
03:27ん?
03:29待ちづまい向いてやるかんかい
03:31ん?
03:43なに?
04:10こっちは髪も仏もあるかいな
04:14男はすっかり血を落とし
04:30あてもなくただ西国に向かって歩いて行きました
04:35秋の日は暮れやすく暮らしき笹沖付近にたどり着いた頃にはもう日が落ちかかっておりました
04:45男はふとそこに建てられている道しるべを見つめました
04:51なんやこれは
04:53その道しるべには北暮らし西暮らしと書いてありました
05:00西に行けば辛いし辛いことばかり
05:07北に行けば暮らし目の前は真っ暗か
05:11これやったら西国へ行ったってしょうがない
05:16もう夢も希望も能なってしもうた
05:21どうしたらいいや
05:23これやったら死ぬしかあらえへんがな
05:27もう死ぬしか
05:34もう
05:36もう
05:39お寺さんで死ねるとはおあつらえ向きやな
05:54おいおいその枝は
06:15その枝は枯れておる
06:18寺で死ぬのは手間が省けていいが
06:22死ぬ前に少しだけ話を聞かせてくれ
06:26話によっては手を貸さないでもない
06:30はい
06:31男は今までの話を和尚にしました
06:36わははは
06:43辛しい暮らしか
06:44そんなことで死ぬなんて馬鹿げたことじゃ
06:48その道しるべの下を掘ってみ
06:52え?
06:53この時期には落ち葉が曇っての
07:03はっ
07:05倉敷寅島
07:07人生もすべてこれと同じこと
07:19幽霊の正体みたいに華麗お花
07:23心の持ちを一つで良くも悪くも取れるもんじゃ
07:28南へ行ってみなされ
07:31幸せを呼ぶ福田というところもあるわな
07:34お嬢様大きに
07:43わてもう一度裸になってやってみます
07:47そうか気持ちが変わったらそれで良い
07:51それで良い
07:53大きに大きに
07:55よかったやっぱりここにいます
08:08どないしました茶屋のじいさん
08:11わしゃ茶代は確かに払いましたぞ
08:15いやそのことやないんです
08:17あんたさん確か何和屋言うてましたな
08:21へえ確かに何和屋です
08:25それが何か
08:26だったらこれ
08:28あんさんの銭入れですやろ
08:32それは確かに
08:34わしの前も言ってやるかんかい
08:36盗まれたわしの銭入れや
08:39盗まれた
08:40そりゃあかん気がいや
08:43この銭入れは
08:45わての茶店の縁台の下に落ちてましたんや
08:50ほな確かに何和屋はん
09:03銭入れ返しましたね
09:05大きに大きに
09:08よかったよかった
09:10男は
09:17和尚さんと茶店のじいさんに
09:20熱くお礼を言って
09:22西国へと下って行きました
09:25そしてその後
09:28一生懸命に働き
09:31男は目ごとに成功しました
09:34そして十年後の半
09:37旦那さん着きました
09:46おお
09:49ここやここや
09:51男は
09:53十年前のお礼にと
09:55お寺に
09:56それはそれは立派な釣り金を納めました
09:59そして茶店のじいさんには
10:03落とした金と同じだけの
10:06お礼をしたそうです
10:07そして男は
10:13石造りの立派な道しるべを作りました
10:16その道しるべには
10:18人々は
10:20二度と過ちを犯さぬようにと
10:23漢字で
10:24津良島
10:26倉敷と書いてあったそうです
10:29この石造りの道しるべは
10:33今も残っています
10:35お礼をしたいと思います