00:00昔々ある村に小さな一軒の酒屋があった
00:19それは寒い冬の晩のことじゃった
00:22人通りも少なくなったこととて酒屋の親父が店を閉めようとしておると
00:30酒をくれ
00:41その男の顔を見て驚いた
00:49なんともまあ無邪気というか変わった顔をしておった
00:54それにその男の歩き方がまた妙じゃった
01:04ガクガクしておって妙な歩き方じゃった
01:08酒を一緒くれ
01:10そそそれはザルじゃねえか
01:16ザルに酒は入らねえよ
01:18いいからこれに一緒くれや
01:22いやなんねえだ
01:28そんなものに入れたってすぐ漏れてしまうだ
01:31特利を持ってこいや特利を
01:33酒屋はこの男どこかで見た顔だと思ったが思い出せなかった
01:40あんたどこだや
01:43あっち
01:45あっちじゃわからん
01:47だからあっち
01:52酒屋はもうイライラしてきた
01:55えーと繰り返してやるですぐ返してくれるよ
02:00おい酒じゃ
02:08ななななな何するだそれじゃ何にもならねえでねえか
02:18だってお前さん数回戦って言ったじゃないか
02:22おおおおおおおおおおおお
02:26ところが驚いたことにザルに酒をついでも酒は一滴ももらないのじゃ
02:36ありがとうよ
02:40なんとも驚いたことじゃった
02:58ところでちょうどその頃酒屋の角を曲がってちょっと行ったところの豆腐屋に
03:04やはり一人の男が訪れた豆腐屋もこの男の顔をどこかで見た顔だと思ったがどうしても思い出せんかった
03:15ええええええわからん ありがとうよ
03:22この中に入れてくれじゃあ 冗談じゃねえよどこの世界で特に豆腐を入れるもんがあるもんか
03:30うちじゃそんな豆腐売ってねーよよそいいきな
03:37はぁ
03:39はぁ
03:42はぁ
03:45なんとここでもこの男はとっくりに豆腐を入れ始めた
03:52あああああああああああああああああああああああああああああ
03:56そうして全部入れ終わると豆腐屋に代金を払って悠然と闇の中に消えていっ
04:03た
04:07こうしてこの男は次の日もまた次の日も酒屋へはざるを持って豆腐屋へはとっくりを持って現れ
04:15酒と豆腐を買っていった
04:25ある夜のこと
04:29酒屋はこの男が一体どこから来るのか後をつけてみようと思いだった
04:35ん
04:37ん
04:38ん
04:39ん
04:40ん
04:42ん
04:44ん
04:45そうしてる
04:47どんどんどんどん歩いて行くと
04:50ん
04:52ん
04:54ん
04:56ん
04:58男は
04:59ん
05:00お寺のそばまで来た時ふっと
05:03姿が消えてしまった
05:05ん
05:06ん
05:07ん
05:08ん
05:09ん
05:10ん
05:16ん
05:18ん
05:19ん
05:20ん
05:21ん
05:24ん
05:27ん
05:29ん
05:30ん
05:31ん
05:32ん
05:34ん
05:35どうしてここへ
05:38お前さんこそどうして
05:40実は
05:42どうやら二人とも同じ男のためにここへやってきたらしかった
05:47それにしても同じ時刻に妖怪の店に現れるとは妙な話じゃった
05:54うーん妙な話じゃ
05:58うーん怪しい
06:01そうじゃ明日も後をつけてここへ行くべ
06:04よし
06:06二人は明日を期してその夜は別れた
06:12そうして次の日
06:17男はやはり同じ時刻に現れた
06:34豆腐屋の親父は
06:44昨日酒屋の親父と約束した通り
06:47今夜こそ向かるものかと後をつけて歩き始めた
06:52ところが男は見かけよりもずいぶん足が早かった
06:56そこで豆腐屋の親父はまたまた男を見失ってしもうた
07:16そこへ酒屋の親父が慌ただしくかけてきた
07:19こ、こ、こっちへ来んかったか
07:23俺はもう今見失ったとこじゃ
07:26まだやられたか
07:29やっぱり昨日と同じ古寺のあたりじゃった
07:42ユンベと同じじゃ
07:47ああ、同じじゃ
07:49ということは
07:53このあたりに
07:55そうじゃと思う
07:58この寺の中に
08:01その日は暗くてどうしようもないというので
08:13二人は示し合わせて
08:15次の日朝早く
08:17もう一度この寺へとやってきた
08:19すると
08:32かすかに酒の匂いがする
08:35なんじゃ、この匂いは
08:43酒のようじゃな
08:45酒?
08:46間違いない
08:47よし、行ってみよう
08:50うん
08:50二人は酒の匂いの跡をつけていった
09:15すると
09:16小さな祠があった
09:19酒の匂いは
09:25あそこからじゃ
09:26なんとそこには
09:36あの男にそっくりのお地蔵さんが立っておった
09:39しかも足元にはとっくりザルが置いてあった
09:43それによく見るとお地蔵さんの口の周りには
09:46豆腐のかすらしきものがちょっぴりついておった
09:50あの男はお地蔵さんじゃったのか
09:57どうやらお地蔵さんは夜な夜な豆腐を魚にしていっぱいやっておられたらしい
10:09これでどこかで見覚えのある顔じゃと思ったわけもわかった
10:15それ以来村人たちはこのお酒の好きなお地蔵さんに
10:20いつもお酒や豆腐のお供え物をしたそうな
10:24そうしてのんぺい地蔵と呼んだそうな
10:29面白いお地蔵さんによいたものじゃ
10:33どうやったの?
10:41ご視聴ありがとうございました
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