00:00昔々、秋田の田沢湖に近い、千木郡、神代というところ、宇治川という大層力持ちのお相撲取りがおった。
00:21宇治川には相撲仲間の松笠山という仲良しの友達がいて、いつも二人で稽古をしておった。
00:30ある夜、二人は稽古から帰る途中、いつものように天正寺のそばを通りかかった。
00:43なんとかして大陸授からねえかな。
00:47なんと、おめえほどの力があれば、今さら大陸授かることねえべ。今に牛と相撲を取るつもりか。
00:55おらんなら、大陸よりもまんずめんこい、よめこほしいもんだ。
01:08その時、どこからともなく赤子の鳴く声がした。
01:13赤子の声じゃ。
01:15あれ。
01:29お相撲さん、申し訳ねえども、噛みんわいだこのわらし抱いてけれ。
01:35ほらほらほらほら、めんこい子じゃ。
01:40ころころと、かたぶとりで、ほれほれほれほれほれ。
01:45松笠山は喜んで赤子を受け取り、おかしな顔をしてあやしたりしていたが、
01:53やがて松笠山の額には油汗が浮かんできた。
01:56な、なんと
01:58おもて
02:04おもて
02:09松笠山、なんとした
02:12松笠山は答えるどころではない
02:16したいた太い腕も血の気が失せて
02:19今にも折れてしまいそうじゃ
02:20もず
02:22もずだ、助けてくれ
02:24その赤子をわしによこせ、早く
02:27ところが赤子は松笠山の手にぴったり張り付いて離れない
02:31あたりを見回すとすでに女の姿はない
02:36赤子のお母、どこじゃ、どこにおるんじゃ
02:41松笠山はついにたまらず
02:44今にも赤子を放り出そうとした
02:46子供なりじゃ、だめだ
02:48松笠山
02:50たが不思議なことに赤子は
02:56暗闇に吸い込まれるように消えてしまった
02:59そして松笠山はその場に崩れ落ち息を引き取った
03:09松笠山
03:13松笠山の亡骸は天生寺の墓地に埋葬された
03:21宇治川は寺の和尚にあの夜の出来事を一部始終話した
03:29すると和尚は
03:31そうそれはな亡霊じゃ
03:35亡霊じゃと
03:37昔武家屋敷に奉公した娘が主人の赤子
03:42つまりお坊を誤って腕から落として死なせ
03:46手打ちになった
03:47その娘の亡霊じゃよ
03:50最後までお坊を抱きをすれば
03:53お坊力を授かるが
03:55途中で投げ出した時には
03:58命を落とす
04:01お坊力
04:02そうじゃ死ぬほどの苦しみに耐えて
04:07お坊を抱きをすことのできた時には
04:10亡霊の恨みも消えて
04:12人並み外れた力が授かっておるのじゃ
04:17お坊力
04:18人並み外れた大力
04:21その日から宇治川は
04:29稽古が終わると夜更けを待って
04:31天生寺の墓地で女が出てくるのを待った
04:35死んだ松笠山の無念を晴らすには
04:38自分がそのお坊力を授かるしかないと思ったのじゃった
04:42そうしてちょうど一ヶ月目の夜じゃった
04:50赤子の鳴き声とともに
04:57あの若い女が現れ
04:59またしても髪を言う間
05:01赤子を抱いていてくれと頼んだ
05:03赤子は大きな目でじっと宇治川を見つめておったが
05:08この前と同じように突然急に重さを増し
05:11宇治川は不意をつかれて取り落としそうになった
05:15これでは重い
05:24一筋縄ではいかねえ重さだ
05:27宇治川は思わず腰を入れ
05:31四股を踏むように赤子を抱いた
05:34これを話したらおしめえだ
05:42うんだでも重て
05:44松笠山も重たかったらべえだ
05:47宇治川助けてくれろ
05:51宇治川宇治川
05:53誘致になった娘の無礼じゃよ
05:56途中で投げ出した時には命を落とす
06:01宇治川はだんだん気が遠くなっていった
06:06どのぐらいの時が経ったのじゃろうか
06:09うわあああああああああああああ
06:13うわあああああああああああ
06:15うらあああああもう死ぬ
06:18宇治川のしのきのなくなった指が一本また一本と伸び始めた
06:25うわあああああああああああああ
06:29あぶねえ
06:31うわあああああああ
06:33その時じゃ
06:34女が再び宇治川の前に現れ
06:37にっこり微笑んで
06:39いともやすやすと赤子を取り上げて
06:41闇の中に消えていった
06:44助かった
06:58命拾いした嬉しさにすっかりお暴力のことなど忘れていた宇治川が
07:03汗を拭おうとそばを流れる小川に手拭いをした
07:07これを絞ろうとすると手拭いがぷっつりと消えてしもうた
07:11そして浴衣の袖で汗を拭いそれを絞るとまたぷっつりと切れた
07:17今度は杉の木立を揺るがしてみると軽いひとつきで
07:23さつきがギシギシと倒れるんだから
07:27おぼうりきじゃ
07:33おぼうりきじゃ
07:35おぼうりきが授かった
07:37おぼうりきじゃー
07:39宇治川はうちお天になって寺に
07:43庭石を取り上げるとやすやすと持ち上げられた
07:47手にと投げてみると軽々と飛んでいった
07:55あまりのうれしさに見たかいもなくなって宇治川は
07:59帰りの道すがら手当たり次第にいろんなものを遠くへ放り投げながら家に戻ったのじゃった
08:11おぼうりきは授かった
08:15おぼうりきは授かったぞ
08:17おぼうりきは授かった
08:19おぼうりきは授かった
08:21おぼうりきは授かった
08:23ところが翌朝宇治川が村へ出かけてみると
08:27おぼうりきは授かった
08:29ありゃ
08:31ゆんべい投げた地蔵さんが元に戻ってるでねーだか
08:35うぼうりきは授かった
08:37うぼうりきは授かった
08:39この第八車もだ
08:41ありゃー
08:43うぼうりきは授かった
08:47するとゆんべのことはみんな夢だったんだべく
08:50ああ
08:51よくわかんじー
08:53どうしても訳を知りたい
08:59宇治川はその日稽古にも行かず
09:03夜を待った天生寺の庭石
09:05石道路をゆうべと同じように放り投げた
09:13そして天生寺の道へ通じる他のあぜ道に隠れて何が起こるか待っておった
09:19すると
09:21はっ
09:25やれやれ
09:27誰か師団がせっかく授かった大力を無駄に使いおる奴がおる
09:33もったいないもったいない
09:35天生寺の和尚じゃった
09:39まるで握り飯でも持つように庭石と石道路を持って寺の方へ戻っていった
09:45和尚もおぼう力を授かっていたのか
09:51ほらおぼう力を授かってつい右頂点になって軽はずめなことをしてしまった
09:56行けねえ行けねえ
09:58松笠山
10:00おめえの分も頑張らねばなあ
10:03宇治川はその後授かったおぼう力を大切にし
10:16稽古に精進して立派な相撲取りになったということじゃ
10:22いいよー
10:24宇治川ー
10:28孝野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野野