00:00ん
00:03昔昔 埼玉のあるところ
00:08無理なことばかり言っては家来たちを困らせている殿様がおりました
00:15おい 誰かおるかー
00:20はっご用でございますか用があるから呼んだのだ
00:25あの何か
00:30お前のその怖い顔を取り替えて参り
00:35それから用を言い渡す
00:38しかしこればかりは生まれつきでござりますれば
00:42わしの言うことが聞けるのか
00:44そのような無理なことを許しください
00:48ならばその眉を襲ってこい
00:51わしが顔を変えてやる
00:53よいな
00:54そって参りました
01:03ご用の趣は
01:05ちこちこ
01:07うーん
01:19それで良いじゃろう
01:23してご用の趣は
01:25あの空に浮かぶ雲を取って参りで
01:30それはちょっと無理にございます
01:36何が無理か
01:37すぐそこの山の近くではないか
01:41しかしながら
01:41わしの言うことが聞けるのか
01:44こればっかりは
01:46ちこちこ
01:49なぜ無理か
01:54このお部屋では狭すぎて雲が入りません
01:58狭いというのか
02:00ちこより
02:02されば
02:03明日山に雲狩りに参るぞ
02:06良いな
02:07それからそっちの顔を生涯そのままにしとくのじゃ良いな
02:13はっやい猫わんとなけ
02:17にゃーではないわんとなけ
02:21わしの言うことが聞けるのか
02:24それでお主
02:29殿と約束されたのか
02:31そう答えるより仕方があるまい
02:34まったくいつもの殿の無理なんだいにも困ったものじゃ
02:39それにしてもお主
02:41その顔で生涯を送るつもりか
02:44仕方なかろうが
02:46というわけで
02:52あくる人の様は4人の家来をお供に連れて
02:56雲狩りにと出かけました
02:58空にはちょうど手頃の雲がふんわりふんわりと浮かんでおり
03:05日は暑くもなく寒くもなく
03:09春のようにうららかな陽気でした
03:11やがて北秋津の実月神社の境内に差し掛かりました
03:18おい弓を引け
03:26あの雲を養とすのじゃ
03:28殿それは無理かと思われます
03:31何が無理か
03:33すぐそこにおるではないか
03:35地公地公
03:37何か
03:43そっちは何という顔をしとる
03:49元に戻せ
03:51は
03:51なぜ無理か
03:58トンボが邪魔をして
03:59矢が入れませぬ
04:01見事なトンボの群れじゃ
04:12さようにござります
04:16いかがでござりましょう
04:22城に戻りトンボ狩りの支度をして参りましょう
04:26いや今すぐこの飛んでいるトンボをわしの年の数だけ取ってまいで
04:32しかし道具なしでは無理にござります
04:35無理
04:36ちこちこ
04:39何か
04:45早くいたせ
04:52やいコラ起こせ
04:56コラ起こせ
04:58家来たちは仕方なく
05:02道具なしでトンボを取り始めました
05:05でも殿様の年の数だけ取るのは容易ではありませんでした
05:23一人の家来はトンボを追って
05:31実月神社の後ろへ来ました
05:33道具なしでは取れるものではないわ
05:37お
05:38これこれ子供
05:46なにおじさん
05:50怖がることはない
05:52すまんがその持ち竿と
05:55カゴの中に入ったトンボを譲ってはくれまいか
05:59いいよ
06:00怖がることはない
06:02怖がることはない
06:03怖がることはない
06:04怖がることはない
06:05すまん
06:07こうして家来たちはやっとのことでたくさんのトンボを捕まえ
06:21カゴの中に入れ
06:23トンボを数えてみました
06:28一匹たら
06:31しかしもう下繰りかかって一匹たりともトンボはおらんぞ
06:37困った
06:38しかし一匹ぐらいならトノも許してくれるかもしれんぞ
06:43トノ
06:50トノ
06:51トノ
06:53トノ
06:55はっ
06:56何じゃうるさい
06:58何か用か
06:59トノのお年の数だけトンボを取りましてございます
07:03なに
07:05トンボ
07:06はっ
07:08トンボにございます
07:09そんなものを頼んだ覚えないぞ
07:12ようが頼んだのはイノシシではないか
07:15そんな無理な
07:18無理
07:19なぜ無理だ
07:21おお
07:22チコ
07:23はっ
07:24なにか
07:31あ
07:32そうだトンボでよかったのだ
07:35土地の数だけあるじゃろうな
07:37はっ
07:38それがその
07:40申し訳ございません
07:42一匹たりません
07:43一匹たりの
07:45一匹たりの
07:47一匹たりの
07:49一匹たりの
07:50一匹たりの
07:53一匹たらにのか
07:58これ
07:59実月大名寺よく聞け
08:03お前に本当に神としても力があるならば
08:07今わしが投げつけるトンボの塊を
08:10このご神木の薄戸の中から別の木にして生やしてみしろ
08:15それができなければこの祠は取り壊してしまうぞ
08:20殿
08:22神とてそれは無理でございます
08:24無理
08:28その代わりもしそれができたならばわしはもう家来たちに無理を言わないと誓ってやろう
08:35よいか
08:37殿
08:39お待ちください
08:41我々への無理は決して構いません
08:43ただこの祠を取り壊すのだけはお考えください
08:47うるさい
08:49神とてわしの命令に問うことはあいならん
08:52殿
09:13殿
09:14しっかりなさいませ
09:16殿
09:17殿
09:18殿
09:24殿
09:25ご覧くださいませ
09:27ご神木からえのきが生えてまいりましたぞ
09:30あ
09:37あまりの不思議さに一度あっけに取られていましたが
09:42ああ
09:43ああ
09:44ああ
09:45ああ
09:46ああ
09:47ああ
09:48ああ
09:49ああ
09:50ああ
09:51ああ
09:52ああ
09:54ああ
09:55あ
09:56お声が
09:58その時から殿様は口を聞くことができなくなったそうです
10:02おいたわしよ
10:04それで殿様は神様に約束した通り家来たちにも無理なことが言えなくなってしまいました
10:15今は秋津の実月神社の御神木の欅は枯れてしまってその枯れ木のおつろの中から伸びたえのきだけが大きく育ち残っているそうです
10:30ああ
10:32ああ
10:33ああ
10:35how
10:38ああ
10:39ああ
10:40ああ
10:41ああ
10:42ああ
10:43いい
10:44ああ