00:00昔、昔、ある村に貧乏じゃが、仲の良い若い夫婦が住んでおりました。
00:20ああ、腹いっぱい飯が食いてえ。なあ。
00:30ある日のこと、女房は、店主に何かうまいものを食わせてやりたいと、山へ山菜を取りに出かけました。
00:42女房は夢中で山菜を取っていたので、いつしか山の奥へ奥へと入って行ってしまいました。
00:52そこは今までめったに来たことのない、黒池という名の池の近くでした。
01:00女房はなおも夢中で山菜を取っておりました。
01:09その時、急にふっと風が吹いて、何かが通り過ぎたような気がした女房は、ふと顔を上げて見てみると、
01:20白い馬が一頭、池のほとりで草を食べているのが目に入りました。
01:29はて、なんでこんなところに白い馬が。
01:37不思議に思った女房は、白い馬に近づこうと、池のほうへ向かって歩き始めました。
01:43すると馬は、急に走り出し、どこかを去って行ってしまいました。
01:53しばらく女房は、そこに立ち尽くしておりました。
02:04すると、何か黒池の表面がざわざわと、波立ち始めたかと思うと、
02:12はぁっ!
02:17二匹の大蛇が、絡み合うようにして浮かんできました。
02:34はぁっ!はぁっ!
02:43女房は、ヘタヘタとその場にしゃがみ込み、
02:47あまりの恐ろしさに目をつぶり、
02:50一心にお経の文句をぶつぶつ唱えておりました。
03:01すると、
03:07はっ!
03:12いつの間に、
03:17どこからやってきたのか、
03:19若い男と女が立っており、
03:22どちらも実に不思議な格好をしておりました。
03:25男のほうが女房に、
03:28声をかけました。
03:30女へ、おどかしてすまなかった。
03:34実は、私たちは人間ではありません。
03:37私は、この黒い池に住むオスヘビで、
03:42この女は、ここからずっと離れた、
03:46青い池に住むメスヘビなのです。
03:49私たちは、
03:50人間の男と女と同じように、
03:54愛し合っております。
03:57だから、こうしてときどき白い馬に乗って、
04:00お互いに行ったり来たりして、
04:03ひとときの大瀬を楽しんでいるのです。
04:05幸い、今まで私たちが会っているところ、
04:17誰にも見られはしなかった。
04:20今日、初めてあなたに見られてしまったのです。
04:24どうか、お願いですから、
04:27このことを、誰にも言わないでください。
04:30その代わり、このしゃもじをあげます。
04:34このしゃもじは、
04:36一粒の米を鍋に入れてかきまわせば、
04:40一生のご飯になります。
04:42ただし、一日に一回だけです。
04:45それから、しゃもじでかきまわしているところを、
04:49決して誰にも見られないように。
04:51男は、そう言い終わると、
04:58一本のしゃもじを差し出しました。
05:02そうして、男と女と、
05:05白い馬は風のように消えてしまいました。
05:07にょうぼうは、
05:11まるで夢でも見たようで、
05:13なぜが何やらわかりませんでしたが、
05:16とにかく家に帰ってくると、
05:18言われたように、
05:20米を一粒鍋に入れて、
05:22しゃもじでかきまわしてみました。
05:24すると、たちまち、
05:27鍋いっぱいのご飯が出来上がりました。
05:30にょうぼうは、その力に、
05:36改めて驚くのでした。
05:40やがて、
05:42亭主が野良から帰ってきて、
05:46うめぇ、うめぇ、
05:49と、久しぶりに腹いっぱいのご飯を、
05:52おいしそうに食べるのを見て、
05:54にょうぼうは、しゃもじのことを、
05:56よほど打ち明けようかと思いましたが、
05:57話せませんでした。
06:03そうして次の日も、
06:05米一粒鍋に入れてかきまわし、
06:08鍋いっぱいのご飯を作り、
06:11そしてまた店主がうれしそうに食べるのを見て、
06:14にょうぼうも喜ぶのでした。
06:19そうしてまた次の日も、
06:21同じようなことが続きました。
06:22ほんにこれは宝しゃもじじゃ。
06:27にょうぼうは、そう言って、そっと棚の上へ隠しました。
06:31一方、店主のほうは、
06:36しかし、どうもわからん、貧乏だっちゅうのに。
06:46どうして急に毎日、あんなに米の飯が食えるんじゃろうか。
06:51にょうぼうの働きぶりが、きょうによくなったわけでもないし。
06:57はたらきものの店主も不思議で、
07:02かえって野良仕事の手も鈍るのでした。
07:07そしてある日、野良からの帰り道。
07:11きょうこそ、わけを聞いてみよう。
07:16さああんた、きょうもご飯どんどん食っておくれ。
07:20ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。
07:24飯食う前に、お前に聞きてえことがある。
07:29どうしたの、そんな怖い顔して。
07:33なんで、食べるのに困らなくなったんじゃ。
07:37ありがてえことだがどうも、わしには不思議でならん。
07:42にょうぼうは返事に困りました。そこで。
07:46まあいいじゃないの、わけなんかどうだって。
07:52毎日こうして困らずに暮らしていけるんだから。
07:57余計なこと考えずにさ、ご飯もうひとつどうぞ。
08:02と、ごまかしました。
08:06しかし、にょうぼうの返事に、店主はとても納得がいきませんでした。
08:10どうしてもわけが知りたいと思った店主は、次の日。
08:17にょうぼうがめしたけをはじめる頃、気づかれないようにそっと家に帰って、にょうぼうの様子をうかがってみました。
08:29そうとは知らず、にょうぼうは。
08:36すごく見つめたぞ。
08:38そしてica
08:43店主は思わず大声をあげてしまいました。
08:48ある。あんた。
08:50あ、お前、そのしゃもじはどうしたんじゃ。
08:56あんた。
08:58ちょっとそのしゃもじわしに見せて
09:00いやこれだけは
09:02なんだってわしにそのしゃもじを見せられんのか
09:08さあ見せろ
09:10ごしようだから勘弁して
09:12こっちへよくさんか
09:16争っているうちにとうとう亭主はしゃもじを取り上げてしまいました
09:24なんじゃこんなしゃもじ
09:27亭主はあまり腹立たしくなって
09:32しゃもじを外へ投げ捨ててしまいました
09:35その時
09:40表に急に強い風が吹き始めました
09:45驚いた二人が外を見てみると
09:53そこには白い馬がゆっくりと遠ざかっていく姿が見えました
09:58呆然と去っていく馬を見つめている亭主に
10:06女房は隠し事をしていたことを謝り
10:09本当のことを話して聞かせました
10:12亭主もまた疑ったことを女房に詫びました
10:16そうしてその翌日からまた元通りの
10:23貧乏だが仲の良い夫婦に二人は戻ったということで
10:28ご視聴ありがとうございました
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