00:00昔々、美濃の国の山奥に、一人の大変気立ての良い息子と、長い間病気で寝ている父親とが住んでおりました。
00:30お父ちゃん、おはよう。今朝は気分どうじゃ?
00:51お父ちゃん、変わろう。すぐ朝飯にするからね。
01:00さあ、できたよ。
01:07うめえか、お父ちゃん。
01:15う、うめえ。
01:18息子は今日も明る分、父親を励まして、裏山へ焚き木を拾いに行きました。
01:29働きない父親の代わりに、毎日山へ出かけては、こうして焚き木を拾い、それをお金に変えて暮らしを立てているのです。
01:40よいしょ。
01:48ええ、焚き木。
01:51ああ、うるさい。赤んぽが起きるじゃないか。
01:54焚き木、焚き木、焚き木はいりませんか。焚き木。
02:04ああ、今日もあまり売れなかったな。これっぽっちで酒、売ってくれるかな。
02:13この日、息子は、酒は百薬の蝶とも言うし、お父ちゃんが少しでも早く、よくなるようにと、酒を買って帰ろうと思ったのでした。
02:26ごめんください。
02:29なんじゃ、焚き木売りか。焚き木はいらんぞ。
02:33違います。お父ちゃんのお酒買いに来たんです。
02:38はい、三問。
02:42三問。
02:43こぞ、よーく聞け。
02:45うちじゃ、これっぽっちの銭で売るような、安い酒は置いてねえんだ。
02:51少しでもいいから、売ってください。
02:54いやー、ダメじゃ、絶対行け。
03:01それじゃ、お父ちゃんに、団子でも買って行ってやろう。
03:08あのー、団子一本包んでください。
03:12はーい、おばあちゃん、お客さんですよ。
03:16お待ちどうさま、団子一本お持ち帰りね。
03:21はい、そうです。
03:22きんたちゃん、お父ちゃんの具合どうなの?
03:27うん、少しよくなったり、悪くなったりだよ。
03:32そう、それは心配ね。
03:34はい、一本おまけしておきましたよ。
03:43お父ちゃん、ただいま。
03:46今日は団子買ってきたよ。
03:47で、お前の分は?
03:50心配しなくてもいいよ。
03:53ほら、一本負けてもらったから。
03:57うーん、そりゃよかった。
03:59こうして親子は、久しぶりにおいしいお団子を食べて、とても幸せな気持ちになりました。
04:09おいおい、風邪をひくぞ。やっぱり疲れてるんじゃろうな。
04:24わしが、元気じゃったらのう。
04:30そんな、秋のある日のこと。
04:38お父ちゃん、山へ行ってくるで。
04:40うーん。
04:42ああ、今日は、二つ、三つ、向こうの山へ入るよ。
04:47もう近くの山には、焚き木がなくなってしまったでな。
04:52でも、奥の山は険しくて、お前にはとてもまだ無理じゃ。
04:59なに、大丈夫じゃよ。
05:01きょうこさんは、たっぷり焚き木をとって、お父さんにお酒を買ってやりたいと、息子は元気よく山の奥へと出かけていきました。
05:20やれやれ、思ったほど焚き木は落ちてないな。
05:25あれ?なんじゃ、地震かな?
05:29あれ?
05:32ああ、ここは!たづけてくれ!
05:36ああ、たづけてくれ!
05:38ああ、たづけてくれ!
05:44よいしょ、よいしょ。
05:51こうして、息子は、どんどん山奥へ入って行きました。
05:55ああ、とうとう、こんなところまで来てしもうた。
06:05息子は、お父さんのことが心配でしたが、今からでは、とても家へ帰れないので、思い切って山の中で寝ることにしました。
06:16お父さん、どうしたの?寝てなきゃだめ、病気なんだから。
06:30ああ、ばれちゃだめだよ、体に悪いよ、お父さん。
06:36うーん、うーん。
06:42ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー。
06:47それから、どのくらい時間がたったでしょうか。
06:53山の夜は、冷え込みが厳しく、息子は明け方になって、ふと目を覚ました。
07:02ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー。
07:07ところが、霧と一緒に、どこからか、いい匂いが漂ってきました。
07:15あれ、この匂いは・・・。
07:19息子は、良い匂いに誘われるように、深い霧の中を歩いて行きました。
07:28ふぅー、いい匂い。
07:30ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふぅー、ふ
08:00はい、いい匂いじゃん
08:04やっぱりこの水が
08:06うわー、うまい
08:10これは酒じゃん
08:14息子は滝から流れる甘いお酒を一口飲んでみました
08:20すると体中がぽーっと熱くなり
08:23元気が出てきました
08:25うわー
08:29この甘い酒はきっとお父っつぁんの病気に効くかもしれないぞと
08:35息子は考え
08:36早速滝の水を腰のひょうたんにいっぱい詰めると
08:40急いで家に持って帰りました
08:43お父っつぁん、ただいま
08:49うん、遅かったね
08:52うん、わけは後で話すから
08:55とにかくこれ飲んでみてよ
08:57山の滝でくんできたんじゃよ
09:00どー?
09:06うーん、こ、こりゃーうまい酒じゃ
09:10体中がぽかぽかして元気が出るようじゃ
09:15よかったー
09:17それからというもの
09:19息子が毎日汲んでくる甘いお酒のおかげで
09:24父親の病気は日ごとに良くなり
09:27しばらくするとすっかり元通りの元気な姿に戻りました
09:32お父っつぁん、お昼にしようよ
09:37うーん、そうすっか
09:41よかったね、じんたちゃん
09:45お父っつぁんが元気になって
09:48うん、きっと
09:50親を助けて一生懸命の孝行息子のために
09:55山の神様が恵んでくださったのじゃろ
09:59そうかもしれんな
10:02そうよ、じんたちゃん
10:04えへへへへへへへ
10:10いいよかった、よかった
10:14そして、この滝のことはやがて
10:21国中に知れ渡り
10:24親孝行な息子が年老いた父親を養った滝ということで
10:28養老の滝と名付けられ
10:32いつまでも語り継がれたということです