00:00昔々ある国では
00:14年寄りぐらい国の役に立たぬものはない
00:1861歳になったら皆山へ捨てろという
00:22厳しい掟があったそうです
00:25そうしてそんな国の固い中に
00:32元気者のお母とその息子が仲良く暮らしておりました
00:37ある夜のこと
00:55さっきからきっとも食べとらんがどうしたんじゃ
01:02お母どうしても明日お山へ行くか
01:08もうとうに決めておったことじゃろ
01:12わしのことなら何にも先輩せんで
01:22実はこの元気者のお母も
01:29とうとう61になってしまい
01:31明日はいよいよ奪って山に行くことになっていたのでした
01:36今日もいい天気になりそうじゃ
01:46何しとるんじゃのんびりしとると日が暮れちまうぞ
01:51もたもたするでね
01:53お山までどれほど遠いかお前には分かっとらんのか
02:06こうして息子は仕方なくお母さんをしょいこに背負い
02:18うばすて山への道を登って行きました
02:22しかし一歩を進めばそれだけうばすて山が近くなる
02:38山へ着けばもう二度とお母さんと会うこともできなくなる
02:44そう思っただけで息子の胸は締め付けられるように痛み
02:49足は重くなるばかりでした
02:51そうして山はますます深くなり
03:02寂しさを増してきました
03:05カラスか
03:21もうお山も近いの
03:24歩き続けているうちに
03:28いつしか道さえもわからぬほどの山の奥へ来ておりました
03:33そうしてうばすて山はもう間近でした
03:37しばらくして息子は背中で妙な音がするのに気がつきました
03:45おっかーなんで枝なんぞを取るんじゃ
03:52ああこれかこれはお前が家へ帰るための道しるべじゃ
03:58道しるべー
04:01振り返ってみると里へ帰る息子が深い山の中で道に迷わぬようにと
04:09目印に捨てられた木の枝が点々と今来た道しを教えるように落ちておりました
04:16自分でどうなるかもわからんというのに
04:20なんで俺のことをそんなに気にかけるんじゃ
04:25そんなことは当たり前じゃろうが
04:30お前はわしがこの腹を痛めて産んだたった一人の息子じゃ
04:37何よりも大事な息子なんじゃから
04:41さあ少し急がんと日が暮れちまうぞ
04:45おっかーうちへ帰ろう
05:00なんじゃと
05:01ま、ま、ま、ま、ま、まってこらまってんじゃ
05:06そんなことしたらどんなおとがみを受けるかわからんぞ
05:10ほらまって
05:11どんなバスを受けたって構わね
05:14ほらおっかをお山へ捨てることはできねえだ
05:17バカもん何言うするな
05:20バカ国でねえほら
05:22止まれ
05:23おろせ
05:24わしをここでおろすんじゃ
05:26わしはここから一人で行くからお前は一人で帰る前
05:29おろせ
05:30おろせ
05:31バカ
05:32バカバカおろすんじゃ
05:34おろせ
05:35ほらおろせよ
05:37おろせ
05:38はあバカもん
05:41そうして誰にも見られぬようにと夜になるのを待って家へ入ると床下に穴を掘りそこにおっかーをすまわせることにしたのでした
05:53せがれのやつバカなことしよって
05:57そんなある日のこと
06:06突然隣の大きな国の殿様がこの国の殿様に難しい問題を出しもし答えられなければこの国を攻め落とすと言ってきたのでした
06:20肺で縄をない
06:25それを壊さずに持参せよか
06:28こんなふわふわした肺でどうやって縄をなうんじゃ
06:33これせがれや
06:35せがれや
06:37下は息が詰まりそうでな
06:40ちょっと外の風に当たりに来たんじゃ
06:43そこで息子は村に建てられた考察の話をおっかーに話して聞かせたのでした
06:50いやははは
06:53なんじゃそんなことか
06:55それだったら簡単なことじゃ
06:58なに
06:59おっかーは灰縄の作り方を知ってるのか
07:03ああ知ってるとも
07:05まんず固い縄をなってな
07:07それを塩水につけてよく乾かすんじゃよ
07:11それを溶いたの上で燃やせば出来上がり
07:14簡単なことじゃよ
07:17うん
07:17おっかーの言う通りやると
07:22見事な灰縄が出来上がりました
07:25それを見た殿様は大喜び
07:29ところが二三次すると
07:34隣の国の殿様は二つ目の問題を持ち込んできたのでした
07:39七節曲がった竹の穴糸を通せじゃと
07:45簡単簡単
07:47そこで息子は再びお城へ向かうと殿様に答えを申し上げたのでした
07:55その答えというのは
07:57七節曲がった竹の片方の縁に甘い蜜を塗り
08:02もう片方の縁から糸を結んだアリン粉を入れてやる
08:06アリは蜜の匂いに惹かれて
08:09曲がりくねった竹の中を通り抜け
08:12出口へ出てくると
08:14糸が通るというわけでした
08:17見事じゃ
08:23ところが隣の殿様はまたまた三つ目の問題を出してきたのでした
08:29その問題は歌ずともなる太鼓を作ってこいというのでした
08:36それはじゃな
08:40息子はまたまたおっ母に教わった通りに太鼓を作ると
08:46城へとやってきました
08:48その答えというのは
08:57紙を貼った太鼓の中にクマンバチの大群を入れ
09:02中で慌てふための蜂たちが
09:04風に当たって音を立てるという仕掛けでした
09:08この度の数々の働き見事であった
09:12ところでお前はこんな難しい問題を
09:16どうしてわかったのか申してみよ
09:20はい
09:25実は俺は
09:26国の決まりを破り
09:29年取ったお袋を
09:30お病捨てることができず
09:32家に隠しております
09:34この度の問題の答えは三つとも全てそのお袋から教わったものです
09:42そうか
09:44この国を救ったのは年寄りじゃったのか
09:48息子の話を聞いて殿様は
09:54年寄りの知恵や知識が
09:56どれほど大切なものかを
09:58つくつく思い知ったのでした
10:00それからというもの
10:06この国では
10:08今までの決まりをやめて
10:10奪捨て山へ年寄りを捨てるという
10:12習慣がなくなったのだということです
10:16また隣の国の殿様も
10:18この国の知恵のあることを恐れて
10:21二度と無理な注文をしてくることはなかったそうです
10:26こうして戦の心配もなくなり
10:30年寄りをいたわり
10:32人々は幸せに暮らすことができるようになったということです