00:00昔秋田での話じゃった
00:09それは月の明るい夜のことじゃった
00:14森吉山も青い霧をかぶって眠っておった
00:19杉林やブナの森の奥で時田はけたたましく鳥が鳴いておった
00:30山合いのじめじめした沢には五六軒家があって
00:34そこに力持ちと評判の炭焼き八三郎が住んでおった
00:41ある夜のこと飯を終えた八三郎は夜なで仕事に背を出しておった
00:49あれ?あの音なんだ?
01:11やたらおっかね音出ねえか?
01:14慌てるな
01:18怪しい足音は家の周りを回り始め
01:35一回りすると戸口の前でぴたりと止まった
01:47すると月明かりの中になんと岩のような大男が立って
01:53じーっと家の中を覗いておった
01:57八三郎はぶるっと震えたがさすがに名の知れた力持ち
02:09心を鎮めると静かに斧を置いてどっかりといろりに腰を下した
02:16あったり
02:22大男は安心して入ってくると八三郎の横に座った
02:34よく見ればまあ大した大男じゃった
02:40もじゃもじゃの髪に髭は胸までたれ
02:44胸毛は三四寸は伸びておった
02:47腰には熊の皮を巻きつけその下に突き出している足は一面の毛で覆われて
02:54人間の足か獣の足か見分けもつかんかった
03:00はぁはぁこれが噂に聞く山叔父というもんだべ
03:06これよかったら食えずっぱり食えや
03:14八三郎の言葉に大男はちらっと振り向いて
03:18飯の匂いを嗅いでおったが
03:21嬉しそうに大きな手を差し出すと
03:24八三郎が山盛りにしてくれた飯をおいしそうに
03:28ヒゲの周りに飯粒をつけながら
03:31見る間にべろりと飼い上げてしまった
03:35うめぇうめぇうめぇ
03:41ん
03:43ん
03:44ん
03:45ん
03:46ん
03:48ん
03:50ん
03:51ん
03:52ん
03:54ん
03:56ん
03:58ん
04:00ん
04:01ん
04:03ん
04:04気付けていな
04:08そうして今度はもっそりもっそりと
04:13森吉山のほうへ帰っていった
04:19夜が明けて外に出てみれば
04:21地固めをした庭に大きな足跡が
04:25三筋ほどものめり込んでおった
04:28八三郎どうしたんだこれは
04:31なんじゃこのでっけ足跡
04:34山王子のものじゃ
04:36ははははははははは
04:41それからは夜になると時々山王子が
04:44薪の土産を持って遊びに来るようになった
04:49近所の人も怖いものにたたり
04:52八三郎の夢を見どくようになった
04:57ずっぱり食えや
04:59おーもういらねー
05:15あにゃー
05:17力試し
05:19力試し
05:22なに力試しかー
05:25おー
05:29やるんかー
05:31おー
05:32やるべー
05:36八三郎は喜んで大男を庭へ促した
05:41さてと
05:43相撲ってもんわじゃ
05:45まず思考を踏むところから始まるんじゃ
05:49よいしょー
05:51よいしょー
05:53よいしょー
05:55うーん
05:57山王子勝負じゃー
05:59おー
06:01よいしょー
06:02よいしょー
06:03よいしょー
06:04おー
06:05うーん
06:06山王子勝負じゃー
06:09どー
06:10どー
06:11どっ
06:12はっ
06:13二人は激しい気合をかけた
06:16押し合い
06:18もみ合い
06:19勝負はなかなかつかんかった
06:22家の人や近所の人たちがどうなることかと見ておった
06:26おー
06:43何だー
06:45トトー
06:49負けるでねーの
06:51me
06:54がんばれー
06:58やはりのがんばれー
07:00ああ
07:03うっと負けるなー
07:06負けるな、やさぶら
07:14やった
07:16うーはー、やさぶらがぶん投げたぞ
07:19おどろいたねー
07:29やさぶらはくれーなー
07:42やまおじは、やさぶらのせなかをかるくたたいた
07:47ところがその力があまり強かったので、やさぶろうはうっとうなって気をうしなってしまった
07:55とと、ととしっかりしねーか、ととがしんだー
08:01やまおじはこわくなって、むりよしやまのほうへはしりさった
08:11ととと、ととが、いきかえったー
08:19やさぶろうがいきふくかえしたなー
08:23やさぶらだー
08:25やまおじは、どこさえいっただー
08:27やさぶろうが死んだと思って、なきだしそうな顔して、やまさにげかえっちまったぞ
08:33わしのせなかをかるくさわっただけなのに、あの力はなんというつよさだ
08:43ただの力じゃーねー
08:45すごいなー、やさぶろう
09:04力持ちのやさぶろうがもっと力をつけたぞー
09:09こうしてやさぶろうは、まえとはくられものにならないほど力持ちになった
09:18ほっとうは、やまおじから力をもらっただー
09:32ははは、きっとそうだ
09:35やさぶろうは、その力を使って働きに働いたので、暮らしもだんだんよくなり、余った力でよその仕事まで引き受けた
09:49やまおじよー、ありがとうよー
10:03また、遊びに来いよー
10:07じゃが、それ以来、やまおじは、二度とやさぶろうたちの住む里へは、降りてこっかったそうじゃ
10:37ご視聴ありがとうございました
10:39ご視聴ありがとうございました
10:41ご視聴ありがとうございました