00:00昔、栃木県鹿沼市、草牛というところに、
00:14茂作という若者が年取ったおっ母と二人で住んでおった。
00:20茂作は、働くことが嫌いで、毎日のように人を集めては博打をしたり、酒を飲んだりしては遊び暮らしておった。
00:38なあ、茂作。働き盛りのお前がそう遊び暮らしていちゃ、体に毒だぞ。
00:46ああ、わかってる。
00:47それには、シャン孫の顔見ねえ、うちは死ぬにも死にきれねえ。
00:55心を入れ替え働きに出て、おっ母を安心させてくれや。
01:01年寄りのおっ母に働かせてすまねえと思ってる。
01:05おっ母、俺は明日から働くぞ。
01:09根は人のいい模索。次の日から仕事に精を出し始めた。
01:17じゃが、それも十日と続かなかった。
01:31それ!
01:32ああ、もうさ、くっついてねえな。
01:40くっさ、今日はいい目が出ねえ。もう一丁行こうじゃねえか。
01:44もさっく、もうやめとけ。おっ母が心配するぞ。
01:50けっ、おふくろなんかどうでもええわい。
01:52さあ、早くサイクロを振れ。
02:00さあ、行くぞ、行くぞ。
02:02いいか。
02:02いいぞ。
02:03早く開けろい。
02:04それ。
02:05たっ。
02:06おお。
02:06もさくは元の酒と博打に明け暮れするようになってしまった。
02:16その上、家にあった金もたちまちのうちに使い果たした。
02:23友達からも金を借りるようになった。
02:26そんなことを繰り返しているうちに、ついにはその日の食べ物にも困るようになってしまった。
02:47そうなると、もさくの友達もすっかり寄りつかなくなり、道であってもそっぽを向く有様だ。
02:55さすがのもさくも考えた。
03:00そんな、ある夜、もさくはおっかあに。
03:06おっかあ、こんなにしちまったのも、みな俺のせいだ。
03:12今となっては、この村ではもう誰も相手にしてくれる人はいないし、
03:17俺がここにいては、おっかあに苦労かけるばっかりだ。
03:21しばらく寄せで、稼いでくる。
03:26もさく。
03:27おっかあにこれ以上心配かけられねえ。
03:31すまに。
03:35すまに。
03:47あくる朝、もさくはおっかあの寝ている間に村を出た。
03:52それから一年がたち、二年たったが、もさくは帰らなかった。
04:08残されたおっかあは、あの怠け者のもさくがよそでつともあるか、心配していた。
04:16だからいつも村を通る旅人を見かけては、もさくのことを尋ねた。
04:23さあ、そんな人見たことも聞いたこともねえな。
04:27ああ、じゃな。
04:36おっかあは、食うや食わずの日を送りながらも、朝に夕に、もさくの無事を神様に願い続けた。
04:45そして、ある雪の降る日のことじゃった。
05:06おっかあ、おっかあ、おっかあ、今、消えたぞ。
05:13もさく。
05:15もさくでねえかあ。
05:19心配かけたが、もう安心してくれ。
05:24大層立派な格好して、偉くなっただな。
05:29江戸で、一旗あげたで。おっかあ迎えに来た。
05:34さあ、一緒に行くべ。
05:36おら、おめえさえいてくれたら、それでええよ、おさく。
05:42おめえは。
05:43ああ、よかった。気がついたか、ばっちゃん。
05:47たの、神様の前の雪の中で倒れてたで、びっくりしたぞ。
05:54あんまり無理せんほうがええぞ。
05:57そうかあ、そうかあ、今のは夢だったのか。
06:01すまねえ、迷惑かけて。
06:04ええって、お互い様じゃねえか。なあ。
06:08それから、また一年がたち、三年目の大晦日がやってきた。
06:19正月を迎える中に、米も餅もなかった。
06:23おっかあは、ため息をつきながら、芋をあわっておったとき、橋の上に旅人が通りかかった。
06:33はっ、もしや、もさくじゃねえか。
06:37駆け打ってみると、もさくではなかった。
06:40老人は、旅の途中で、金をなくし、昨日から何も食べていなかった。
06:47おっかあは、夕飯のために煮ておいた芋を出してやった。
06:54いやあ、おかげであったまっただよ、ばあさま。
06:58ほんとは、もっとうまいもんを振る舞いたいんでやんすが、じつは。
07:03じつは。
07:04村を出て行った、もさくのことや、それからの苦労話をあれこれと話し、
07:12もし旅の途中で、もさくにあったら、早く帰るよう、老人に頼んだ。
07:22ばあさま、厚かましいようじゃが、もう少し芋を煮てもらえないかねえ。
07:28はいはい。正月用にとっといた芋があるで。
07:32そんなに気に入ったなら、ひとつ煮てやんべえ。
07:36すまんな。その間に荷物を道に忘れたで、とってくるだよ。
07:42気づけていきなせえ。
07:44帰るまでに芋にいておきますで。
07:47おかあ。
07:56おらあ、まだ帰れねえ。もう一年待ってくれ。
08:00来年の正月はきっといい正月を迎えさせてやるで。
08:04おらあ、まだだ。
08:06おらあ、まだだ。
08:10芋は煮えたか。
08:12芋は煮えたか。
08:16芋は煮えたか。
08:20芋は煮えたか。
08:24まだだ。
08:25どうした。
08:27どうした。芋はまだか。
08:29どうした。芋はまだか。
08:31まだだ。もう少しだ。
08:33芋はまだか。
08:35もう少しだ。
08:37芋は煮えたか。
08:39もう少しだ。
08:41芋は煮えたか。
08:43まだか。
08:47おーい、芋が煮えたぞ。
08:51やっと開けて待っててくるの。今いるな。
08:58その時、ごーっという吹雪と共に、模索の体は舞い上がった。
09:03ごーっと。
09:05おおーーー!!
09:11あーーーー!
09:14更索?
09:15模索じゃねえた 模索!
09:18俺が悪かった。
09:21帰ってくりゃそれでええだ。
09:24おらー、今度という今度は心を入れ替えて働くだ。
09:28模索!
09:31ああ、おっか、あれは、なんだ
09:38米田、誰がこんなところに
09:42これは神様がくださったんじゃねえか
09:46ありがてこんだ、ありがてこんだ
09:50するってえと、さっきの旅人が
09:52神様、ありがとうございます
10:01模索は、それからというもの
10:05本当に一生懸命働くようになった
10:09そして、おっかの苦労を忘れねえように
10:16模索の家じゃ、毎年正月には
10:20芋の雑煮も食うようになった
10:22この言葉、いつしかこの地方の
10:26しきたりになって、今でも雑煮の中には
10:30必ず、芋が入っているそうだ
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