00:00昔々あるところに鯖売りがおりました
00:11毎日取れたての鯖を魚かごに入れて
00:16峠の先の村まで売りに行っておりました
00:19でもその峠にかかる道は木がうっそうと生い茂り
00:25昼までも暗く恐ろしげなところでした
00:28やれやれここは何遍通っても薄気味悪いところじゃ
00:37おいサバ売り
00:45おいサバ売り
00:53君の悪い声はサバ売りの後ろから次第に近づき
01:00追いかける足音までが響いてきました
01:03待ってサバ売り
01:07サバ売りが振り返るとそこには恐ろしい顔の山馬が真っ赤な口を開けて立っておりました
01:22サバ売り
01:23サバ売り
01:25サバ売りが持っておったサバを取り上げるとバリバリと食い始めました
01:41うわぁおめえがった
01:48サバを一匹残らず耐えられた山馬はそう言って帰っていってしまいました
01:55次の日サバ売りは再び峠にやってきました
02:03昨日のようなことはもうこれぐりで山馬はね
02:07今日はもう出たりせんじゃろうな
02:10おいサバ売り
02:12サバ売り
02:16まだ来た
02:19サバ売り
02:27サバ食われろ
02:29そう言うと山馬はサバ売りの持ってきたサバをまた残らず食ってしまいました
02:35出に行くわ今度や
02:45そのまた次の日サバ売りは峠にやってきました
02:54山馬のおかげで氷が上がったりじゃん
02:58頼むから今日はもう出ねえでくれろ
03:01待っとったよ
03:05サバ売り
03:06サバ食わせろ
03:08待ってくれ
03:21銭こいつ払ってくれるだ
03:23今度今度
03:25明日も梅サバ持ってこい
03:30待ってるでえな
03:31こうしてサバ売りのサバは今日も残らず山馬に食われてしまいました
03:39売り物のサバを続けざまに食われてしまったサバ売りの財布はとうとう空っぽになってしまいました
03:51くそ
03:53山馬の居集めおかげでこの3日間何も食ってね
03:58このままじゃ俺は飢え死にしちまうだ
04:01よし
04:03あくる日サバ売りはサバを持たずに峠へやってきました
04:09おい山馬
04:13山馬出てこい
04:16はあサバ売り
04:19なんだ
04:21サバ売り
04:22サバ持ってねえのか
04:24今までの貸し払ってくれ
04:27そうしねえならもう二度とサバは食わせられる
04:31なんだとサバ売り
04:34今までおめえを食わんで命を助けてやったでねえか
04:39サバ持って来ねえならしかたねえ今日はおめえを食ってやれ
04:52待て
04:53サバ売り
04:56待て
04:57待て
04:59サバウリは捕まってなるものかと必死で逃げました
05:07そして一本の木に慌ててよじ登りました
05:11サバウリめどこさ
05:16木の上でサバウリはじっと息を潜めておりました
05:22山馬はサバウリに気づかぬ様子でやがて諦めて帰って行きました
05:29いやこれで引き下がったんだよ何にもなんねえでねえか
05:35サバウリは今度はそっと山馬の後をつけて行きました
05:53山馬は一軒のあばら屋に入って行きました
05:57ここが山馬の家か
06:00サバウリが見上げるとちょうど屋根の煙出しの前に一本の木が枝を伸ばしておりました
06:09よし
06:10サバウリは早速木の枝を伝って煙出しから山馬の家に忍び込んで行きました
06:19サバウリめ今度見つけたら必ず食ってやるわいいし
06:27それにしても腹減っただなあ
06:31しかたにサバウリの代わりに餅でも食おうべか
06:35山馬は餅を串刺しにして火のそばに並べ甘酒を温め始めました
06:45やがて香ばしい香りがサバウリのところまで登ってきました
06:51見ると山馬は後ろを向いて背中を温めながらこっくりこっくりと居眠りを始めております
07:03それならばとサバウリは屋根の茅を一本引き抜いて上から餅に突き刺してそれを釣り上げました
07:13うめえ
07:18ひたまみろ
07:30餅を全部釣り上げて食べてしまうと今度は茅を鍋の中に差し入れて
07:41甘酒もすっかり吸い上げて飲んでしまいました
07:45あれ?お菓子なおらの餅と甘酒どこさ行っただ?
07:59火の神様食べてしまった
08:03火の神様でございましたか
08:07自在鍵の竹筒を伝って聞こえてくるサバウリの声を
08:14山馬は火の神様の声だとすっかり信じ込んでおりました
08:19すろすろ寝るべ
08:24火の神様今夜石の体で寝たら汚すか
08:29木の体で寝たら汚すか
08:32今夜冷えるぜ
08:34蓋のついとる木の体の方が暖かくてよかんべよ
08:40山馬は言われた通り木の体に入ると横になって自分で蓋を閉めました
08:50そうしてしばらくすると山馬のいびきが聞こえてきました
09:01サバウリはそっと下に降りると
09:06蓋の上に重い石をいっぱい乗せて山馬が出てこられないようにしました
09:12そうして鍋に湯をいっぱい沸かし
09:18その熱湯を体の節穴から中に注ぎ込みました
09:24ようやく騒ぎが静まったのでサバウリは石を下ろして恐る恐る体の蓋を開けてみました
09:54そこにはなんと大きな山雲が一匹死んでおっただけでした
10:07こうしてサバウリは5日ぶりにやっと飽きないができるようになりました
10:20そうして村人たちはまた新鮮なサバが食べられるようになって
10:26大いに喜んだということです