00:00昔々、信州国境のお話
00:11この辺り八ヶ岳のふもとには、鹿やイノシシなどたくさんの動物が住んでいましたから、漁師には大変良い漁場でした
00:30どうしたことです
00:39森は静まり返っていて、動物の姿が一匹も見えませんでした
00:45おーい、イノシシしか返事はしない
00:51うさぎ、たぬき、きつね、ねこ、ことり、りす、すずめ
00:59すずめはおろか、ネズミの姿も見えませんでした
01:06せっかく僕は寮に来たというのに、みんなどこへ行っちゃったというんです
01:14ほんとに
01:16うーん
01:23焦げ臭いですね
01:24どこかで、かまどの火を消し忘れていますよ、これは
01:28それにしても
01:32随分と景気よく焦がしていますね
01:38ひょっとすると、こ、こ、こ、おかまの煙じゃなくて、こ、こ、こ、山火事でしょう
01:47山の動物は山火事を予知して、とっくにどこかに逃げ出した後だったのです
01:55こんなところにいたら、まる焼きにされちゃいますよ
01:59それにしても、動物たちは、いい看護をしているんですね、まったくのところは
02:03ようやく森を抜けて、漁師はスタコラと逃げ出しました
02:12何かあの木にいましたよ
02:19子供の蛇だ
02:22君、君、そんなところに登っていたってダメだよ
02:26相手は山火事だからね、早くしないともそこまで来ているんだよ
02:31しょうがないね
02:36君、泣いたってダメだよ、逃げ遅れたんだね
02:39お母さんは、どこに行ったの
02:42分かった分かった
02:46憎ってるわけじゃないの、だから、そうなくなってもよかろう、じゃないか
02:52あ、これに、捕まり多めや
02:56さあこれに捕まりたまえな
02:58漁師は蛇を鉄砲の先に巻きつけると
03:06どんどん火事のある山を逃げ出しました
03:09ふぅ
03:12ここまで来れば大丈夫
03:16ここからは君は一人で逃げたまえ
03:19僕は本当は長いものが好きじゃないのでね
03:23悪く思わないでくれたまえ
03:26それからしばらくして
03:34漁師が里への山道をとっとと下っている時のことです
03:39まだ日暮れには間があるというのに
03:43辺りがだんだん暗くなってきて
03:45とうとう真っ暗闇になってしまいました
03:49僕の目が悪くなったんではなくて本当に日が暮れてしまったんだに
03:58そんな時間でもないのに困りますね
04:01これでは危なくて前に進むこともできませんよ
04:06野宿をすると言っても用意はないし
04:09日が見える
04:13あれは人間の明かりに違いないです
04:16漁師は暗闇の道をそろそろと明かりの方に歩いて行きました
04:23人間であれば提灯を借りて帰ろうと思ったのです
04:28明かりは一軒のあばら屋から漏れているものでした
04:32誰が住むのかはそますなものですな
04:37それでも提灯一つぐらいはあるでしょう
04:40そういえば都の方でも似たような話がありましたな
04:45太田道館ですか
04:47山に狩りに行かれたおり
04:49急な雨に遭われて近くの農家へとカッパを狩りに入った
04:53すると戸口にほうば赤くした妙齢なる婦人が横体に入れて
04:59恥ずかしそうにうつむくと
05:01ブズブズ言ってないで入りんさい
05:05あ、はい
05:05し、失礼してお邪魔しますぼっぼっくわ
05:14まあ挨拶は抜きにしてそこに座りんさい
05:17あ、はい
05:18いや、結構なお屋敷です
05:29嘘はいけません
05:30そうですな
05:32お屋敷というにはちょっと
05:34僕は実は漁師であり
05:36知っておりやす
05:37そうですか、それでその
05:41山火事はありましてな
05:43知っておりやす
05:45あ、入る途中で急にあたりが暗くなってしまいまして
05:51それも知ってます、私が暗くしたんでやんすから
05:55あ、そうですか、それから
05:57え、なんとしちゃいました
06:00私があなたをここへお呼びするのに暗くしたんでやんす
06:06あ、暗くするとおっしゃっても空一面も妖怪変化でもあるまいし
06:13妖怪
06:14変化?
06:16え、はい、私はあなたに助けてもらった蛇のお袋でありんす
06:22ふん、へ、蛇のお袋様ですか
06:26その、その、お、お袋様が、ぼ、ぼ、ぼ、ぼくに
06:31取ったり食ったりしようというのじゃありやしやん
06:35いえ、それどころかお礼をしたいのでありんす
06:38お、お礼、お礼などととんでもない、たたたたただ、ぼくは
06:43いえ、させてもらいます
06:46なんなりと欲しいものがあれば遠慮なくおっしゃってくださいまし
06:50そうですか
06:53じゃあ、あの、カッパを、じゃない、チョウチンを貸してください
06:59あなたが帰るときは明るくなっていますから、チョウチンはいりまし
07:04何か他のものを
07:06は、は、それでは
07:09は、のどが渇いたのですみませんが、み、水をいっぱい
07:16水をいっぱいでありんすか
07:19え、いえ、は、は、その、ぼくの村ではおいしい水がなくて困っていますので
07:27つつい、水に目がなくて、は、は、は、は、は、は、あれ
07:31消えてしまいましたね
07:36こんなところに僕一人を残して
07:40いやですね、ほんとに
07:45だから
07:47僕は長いものに関わりを持つのは嫌いだってわけです
07:53お待たせ致し
08:19おばばだの
08:22両親に水の入った足を渡すと
08:25おばあさんの姿はスーッと消えて
08:27あたりが元のように明るくなりました
08:30不思議なこともあるものです
08:35両親は蛇のおふくろさんがわざわざ出てきて
08:39お礼をしようというのだから
08:41まんざらでたらめでもあるまいと思って
08:43足を大事に持って山を降りてきました
08:47村の入り口に差し掛かって
08:50お、おしっくり
09:10足の倒れたところからは
09:18蛇のおふくろさんの言った通り
09:20清水がどっと湧いて出ました
09:22本当です
09:24喜んだ漁師は村に飛んで帰ると
09:30村の真ん中へ行って足を逆さに振りました
09:34お、おしっくり
10:04今度も清水は沸きましたが
10:13水が少ししか残っていなかったので
10:16その量はそれほど多くはありませんでした
10:19前の泉が北駒郡高根町原長沢の泉で
10:28後のが同じあざの素子堂の泉だということです
10:34ご視聴ありがとうございました
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