00:11コートのポケットに手を突っ込んで歩いていると不意に右側のポケットが軽くなったような錯覚に陥るつい数ヶ月前までそこには当たり前のように温かくて小さな体温が潜り込んでいた
00:19カイトは小学3年生仕事で家を開けることが多い僕がたまの休みになると彼は僕にべったりとくっついて離れない
00:32近くに買い物に行く時もいつもついてくるあの時もそうだった 僕の横を歩くカイトは決まってポケットに入れた手を無理やり引っ張り出し自分の小さな指を絡ませて握りしめるそしてこの上なく満足げな顔で笑った
00:39僕はやれやれもう3年生だろと肩をすくめながらも本当は嬉しかったんだ
00:49でも僕は甘えん坊の君の将来が心配だった 男の子の君には強くたくましく育って欲しかっただから僕はあの日君を強く引き離してしまったんだ
00:59でも繋いであげていればよかった強引にでもカイトの手を引いていればほんの数十センチ彼との距離が近ければ
01:04そうすればあんな無機質な衝撃音に彼がさらわれることはなかったんだ
01:13カイトは高齢の男性が運転する車に弾き飛ばされた 一瞬の出来事だった病院の集中治療室白いシーツの上に投げ出されたカイトの手を僕は祈るように握りしめた
01:29けれどかつて僕のポケットの中で温かかったその手はまるで芯まで凍てついた氷のように冷たかったカイトほらお父さんの手だぞ何度も呼びかけ何度もさすった 体温を分け与えるように包み込むように力を込める
01:46もしかしたらほんの少しでも指先が動くんじゃないか もう痛いよなんて言いながら弱々しくでも握り返してくれるんじゃないかそんな根拠のない希望を捨てきれず僕は冷たくなっていくその手をいつまでも離すことができなかった不意にいつか交わした会話が脳裏をよぎる
01:55授業参観の帰り道あまりにしつこく手を握ってくるカイトに僕は少しだけ意地悪をして手を振りほどこうとした
02:10ことがあったほらもう小さい子じゃないんだから友達に見られたら笑われるぞ するとカイトは顔を真っ赤にして壊れ者を守るような必死さで僕の手を強く握りしめたいつかやめるよカイトはそこで一度言葉を切りいたずらっぽい瞳で僕を見上げた
02:16でも今はまだダメまだ話さないからねそう言って彼は笑った
02:31カイトが言ったいつかという言葉それがこんなにも残酷にこんなにも唐突にやってくる なんて思いもしなかった冬の風が吹き抜ける歩道で僕は空っぽのポケットに手を戻す指先を丸めてもそこにはもうあの柔らかいぬくもりは存在しない
02:39カイト何度呟いてみてもただ冬の冷たい空気が僕の手のひらを虚しく通り抜けていくだけだった
02:47ん