00:26橙色の電球が照らす実家の今にはいつもとは違うどこか張り詰めたようなそれでいて暖かい空気が流れていた彼と両親そして私4人で囲む食卓には母が腕によりをかけた料理が並んでいる会話はなぼやかだった近況報告から始まり思い出話そして自然と私たちの将来のことにも触れた両親は終始笑顔で私たちの結婚を心から喜んでくれているのが伝わってきた
00:55けれど隣に座る彼の様子はどこか落ち着かなかった手元のグラスを見つめたり何度も姿勢を正したりしている彼は今日ある決意を持ってここに来たはずだったしかし決定的な一言お嬢さんと結婚させてくださいというあの言葉だけがどうしても口から出てこない話が途切れるたびに私は彼を横目で見た彼は何かを言いかけ喉の奥で言葉を飲み込みタイミングを逃しては小さく肩を落とす
01:19結局宴は確信に触れる言葉がないまま終わりの時間を迎えてしまったじゃあそろそろ行くね申し訳なさそうな顔をする彼を送り出すため私は先に玄関へと向かった少し遅れて彼が今から出てくる足音が聞こえた玄関先で彼は両親に向かって深く深く頭を下げたありがとうございましたとだけ告げて彼は私の実家を後にした
01:39夜の静寂が広がる帰り道私たちは並んで歩いた街灯の光が彼の横顔をかすかに照らすしばらく沈黙を守っていた彼がふと立ち止まり消え入りそうな声で呟いたお父さん泣いていたよ私は驚いて彼の顔を覗き込んだ幻覚で涙を見せるような人ではない父がえ
01:41?どうして?いつ?彼は視線を落としたまま静かに語り始めた
02:13あやちゃんが先に玄関に行っただろその時俺お父さんの目を見て行ったんだあやちゃんを必ず幸せにしますからって言葉が詰まった彼は続けるそうしたらお父さんが俺の手をぎゅっと握ってくれてうっすらと涙を浮かべながら娘をよろしくお願いしますってあんなに力強いで初めてだった私がいない数秒の間玄関先で交わされた男2人の約束夜風が鼻の奥をツンと刺激して目頭が熱くなった
02:36彼と別れた帰り道私は考えていたあの幻覚な父が涙を見せるなんて私は今まで父が泣いているところを見たことがない家に帰りそっと覗くと父は背中を向けてテレビを見ていたさっき彼から聞いた話を父には聞けなかった男2人だけの約束それは私の心の中にそっとしまっておこうと思う
02:43その代わり私はお父さんありがとうと父の背中に向かって心の中でつぶやいた