00:04僕の人生から家族というともしりが消えかけたのは今から4年前のことだ。
00:13物心つく前に母を亡くし、不器用ながらも僕を男で一つで育ててくれた父が、突然の交通事故で帰らぬ人となった。
00:20葬儀の喧騒が去り、線香の香りが薄れ始めた頃、僕を包み込んだのは耳が痛くなるほどの静寂だった。
00:4423歳。社会人1年目。世界中に何十億という人間がいるはずなのに、自分と血の繋がった人間はこの地上に誰一人としていなくなってしまった。その事実は、底なしの沼のように僕の心を飲み込んでいった。ただいま、と言っても、帰ってくるのは冷たい空気の振動だけ。暗い部屋で膝を抱えていた僕の前に、美咲が現れたのは父の始終句に血が開けてすぐのことだった。
00:52彼女は大きなキャリーケースを引き、両手いっぱいに荷物を抱えて僕の家の玄関に立っていた。美咲、どうしたの
01:14?その荷物。呆然とする僕の瞳を、彼女はまっすぐに見つめ返した。その瞳には、迷いなんてみじんもなかった。今日から、ここで一緒に暮らすよ。彼女の声は震えていたけれど、インとしていた。あなたが一人で泣かなくていいように、私があなたの新しい家族になるから。美咲の家は、厳格な両親に育てられた。絵に描いたような真面目な家庭だ。
01:43案の定、彼女の両親からは猛反対を受けた。それでも美咲は、決して僕の手を離さなかった。彼には今、誰かが必要なの。私がそばにいたいのは、同情じゃない。私の意思なの。僕たちはご両親を説得するために、彼女の実家に何度も足を運んだ。そして、彼女が大学卒業して、就職して1年経ったら必ず結婚する、という約束で同棲を許してくれた。それからの日々は、僕にとって救いそのものだった。
02:05仕事で疲れ果てて帰宅した時、窓から漏れる明かり。キッチンから聞こえる包丁の音。おかえり。という温かな声。僕が一人で夜の闇に飲み込まれそうになると、彼女は何も言わずに隣で手を握ってくれた。その手のぬくもりだけで、僕は自分がまだこの世界に繋ぎ止められていることを実感できた。天外孤独という言葉の冷たさを知っているからこそ、
02:23隣に誰かがいてくれる奇跡が、どれほど尊いものを買いたいほどわかる。そして、約束の3月。彼女は社会人1年目を立派に勤め上げ、僕たちは予定通り、来週の安穏な日に挙式と入籍を行った。タンスの奥にしまっていた父の家を取り出し、僕はそっと語りかける。
02:44親父、俺、もう一人じゃないよ。最高の家族を見つけたんだ。これから先、どんな困難があっても、僕は彼女を離さない。僕に家族を返してくれた彼女に、一生をかけて、ありったけの愛と感謝を返していくつもりだ。窓の外では、新しい季節の訪れを告げる桜が、今にも花開こうとしていた。
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