00:16夕暮れの柔らかな光が差し込むリビングで港の手は震えていたこれお母さん差し出されたのは角が少し折れ曲がり何度も消しゴムで擦ったせいで薄くなった一枚の画用紙だったそこに書かれていたのはおよそ顔と呼ぶにはいびつすぎる輪郭だった
00:45おにぎりに貼り付いた糊のような真っ黒で固い紙水分を含んでにじんでしまった大きな瞳そしてその中央に惹かれた震える一本の赤い線港は生まれつき自分の思いを形にすることが少しだけ苦手だ特に指先の細かな動きを必要とする描くという行為は彼にとって見えない壁と戦うような苦行だった翌日迎えに行った幼稚園の玄関先で担任の先生がそっと私を呼び止めた先生の目は少し赤く潤んでいた
01:09あの日港くん本当によく頑張ったんです先生が話してくれたのは画用紙の裏側に隠された壮絶なまでの格闘の記録だった周りの子たちがスラスラと書き進める中で港くんは何度も何度も泣きながら書き直していました画用紙が破れそうになるくらい消しゴムをかけて途中でパニックになってしまってお母さんの後ろ姿はどうやって書けばいいの
01:12?見えないよって泣き叫んで視界が歪んだ
01:37港にとって大好きなお母さんの存在は目の前に見える顔だけではないのだいつも台所に立つ背中自分を抱きしめてくれる腕そのぬくもり全てをお母さんとして表現しようとして彼は途方にくれたのだろう見えないものを囲うとして彼は自分の限界と戦っていたのだ帰り道隣を歩く港の小さな手は私のコートの裾をぎゅっと握りしめていた
02:03お母さん下手でごめんねポツリと漏らしたその言葉に胸の奥が張り裂けそうになる家に戻りもう一度その絵を壁に飾ったみじんだ瞳を見つめるそれはきっと書きながら溢れた彼の涙の跡だそして顔の真ん中に引かれた不器用な赤い線港ありがとうお母さんこの絵が世界で一番好きだよ私がそう言うと港は照れくさそうにでも誇らしげに鼻を動かした
02:31この赤い線は笑っているんだよね言葉にならない大好きという感情を必死に絞り出して引いた一本の線今はまだ君の世界は君の心の中に閉じ込められているかもしれないけれど世界でたった一人お母さんの心の形を描こうとした君のその手はどんな天才よりも美しく気高い力を持っているとお母さんは信じている何枚も画用紙を濡らしたその涙がいつか誰にも真似できない色彩に変わることを
02:36君はいずれピカソを超えるようなすごい力を手に入れると思うよ
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