00:08窓の外では紫陽花を濡らす雨が降り続いていました彼女の口からガンという言葉が飛び出したのはそんな憂鬱な梅雨の午後のことでした
00:16私ねガンが見つかったのでも大丈夫絶対元気になって帰ってくるから待っててね彼女はいつものように
00:21いたずらが成功した子供のような顔で笑いました僕はその言葉を疑いもしませんでした
00:38彼女の持つ底抜けの明るさならすぐに克服してまた2人で笑い合える日が来ると根拠もなく 信じ込んでいたのですしかし病魔という奴は想像以上に冷酷で容赦がありませんでしたようやく得た休暇を利用して僕が病室に駆けつけた時目の前の光景に息が止まりました
00:46かつての健康的な肌の艶は失われ彼女は痩せ細り起き上がることすらままならないほど悪化して
00:48いました それでも僕の姿を見つけると彼女はあの時と同じ眩しい笑顔を見せてくれました来てくれたんだねかすれた声で彼女は言いました
01:07そして熱に浮かされたような瞳で僕を見つめ静かにけれど切実な願いを口にしましたねえ雪を取ってきてお願い雪が見たいの僕は戸惑いました
01:11こんな真夏の本州に雪などあるはずがありません
01:22けれど彼女は冬になれば毎週のようにスキー場へ通うほど雪が大好きな人でした 分かった今から撮ってくるよ待っててようやく絞り出した言葉に彼女は満足そうに微笑みました
01:31僕は彼女が一人で寂しくないようにそして雪景色の次に彼女が好きだった絵を描けるようにと新しい
01:45スケッチブックと色鉛筆をサイドテーブルに置いて病室を後にしました 僕に残された道はたった一つ日本で唯一真夏でも雪が残っている可能性がある場所富士山の頂き僕はクーラーボックスを抱え狂ったように山を登りました
01:53酸素の薄さに肺が焼け足が鉛のように重くなっても彼女のあの笑顔だけを道
02:06ししるべにして進みました山頂付近に残っていたわずかな残雪を宝物のように クーラーボックスに詰め込み僕は必死で彼女の元へと運びましたけれど僕が病室のドアを開けた時そこに彼女の命はもうありませんでした
02:15ベッドの傍らで泣き崩れる彼女の母親から話を聞くと僕が部屋を出た直後にお題が急変したらしいのです どうしてそばにいてあげられなかったんだ
02:27最後の瞬間彼女の手を握っていてあげればよかった 激しい後悔でうなだれてる僕に母親は静かに首を振りましたこれでよかったんですあの子言っていたんですよ
02:39あなたがそばにいると辛い顔を見せちゃうからわざと遠くに行ってもらったのって雪が見たいというのは僕に死に行く姿を見せないための彼女の最後の優しい嘘だったのです
02:44あの子の彼氏でいてくれて本当にありがとうと彼女の母親は言いました
02:53一番感謝しているのは僕の方なのに悔しさと悲しさで涙さえ出ませんでした ただ呆然と立ち尽くしていた時サイドテーブルの上のスケッチブックが目に入りました
03:02そこには一面の銀世界が描かれていました彼女が最後の力を振り絞って描いた真っ白な雪の景色
03:05そしてその裏には力強い筆跡のメッセージ
03:15私がいなくなっても悲しまないで私は雪と一緒にいつもあなたのそばにいるから大好きだったよ ありがとう今度こそ本当に涙がこぼれ落ちました
03:27あなたはあんなに苦しい中で自分のことよりも僕のこれからのことを気遣ってくれていたのですか雪を渡すのは間に合わなかったけれどあなたはそれでも良かったのですか
03:30最後の時に一緒にいてあげられなくてごめんなさい
03:32でも一つだけ言わせてください 僕もあなたのことが大好きでしたいいえあなたのことが大好きです
03:44今も雪を見るといつもあなたを思い出しますあなたの大好きだったものだからん
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