00:00I love you.
00:57ぶっきらぼうで変な人。でも、箸の持ち方があまりに綺麗で、つい見とれてしまいました。あなたの上着からはいつも、街とは違う、冷たくて清らかな山の雨の匂いがしていました。3年目の春、遠大で言われたプロポーズを一生忘れません。明日は晴れです。明後日も、たぶん晴れ。その先はわからんです。わからんでも、あんたと一緒なら、どっちでもええんです。天気予報のような不器用な言葉と一緒に渡されたのは、桜の木を削った櫛でした。
01:25夜勤の合間に、指の皮を剥きながら、一つきかけて掘ってくれた、宝物です。観測所の感謝での暮らしは、静かで幸せでした。うまい、というのが照れくさいあなたは、味噌汁を飲み干すと、ファンの底をコツンと鳴らしました。あれは、あなたなりの拍手だったのでしょう。あなたは、ありがとうと、好きじゃ、だけは、出し惜しみをしませんでした。誰かがずっと測っとるけ、明日の天気は当たるんじゃ。名前は残らんでもええ仕事なんじゃ。
01:45そう言って背筋を伸ばし、氷点下の未明に、素手で鉛筆を走らせるあなたの横顔に、私は何度も惚れ直しました。あなたには、口癖がありましたね。山で水の音が低く濁ったら、すぐ上に逃げろ。わしがおらん日のために、言うとるんや、あの時、あなたの言葉をもっと真剣に聞いていればよかった。
01:5810月の連休、観測所のみんなで、沢歩きに出たあの日。私が足を滑らせ、紙から櫛が落ちました。それを拾おうと、身をかがめた所長さんを、あなたが制しました。音が、変わった。
02:23その瞬間、あなたの怒号が響きました。あがれ、全員。上に、あなたは最高尾で私の背中を力いっぱい押し上げ、そのまま、落竜に飲み込まれました。3日後、あなたは下竜で見つかりました。その1週間後、見つかった所長さんの右手には、泥を吸った桜の櫛が、我もせずにしっかりと握られていたそうです。あの人が話さなかったのは、これがあなたの髪に戻りたかったからよ。
02:51所長さんの奥さんが泣きながら返してくれた櫛を、私はしばらく見ることができませんでした。そんな私を生きる方へ引き戻してくれたのは、お腹の中の子供たちでした。49日が過ぎた頃に分かったのです。双子でした。あなたが山にいる間に、私たちのところへ来ていたんですよ。泣かせてあげられなかったことが、悔しくてなりません。娘にはあなたの愛した山の中から、一字をもらい、息子にはあなたが毎日測っていた、風の字をつけました。
03:19この夏、二人を連れて沢へ行った時、不意に水の音が濁りました。私は迷わず二人の手を掴んで崖上がりました。数分後、濁流が、さっきまで子供たちがいた場所をさらっていきました。あなたは今でも、私たちを守ってくれているのですね。一周期の日、あなたの野鳥を見せてもらいました。数字の列の余白に、豆粒のような字でこう書かれていました。枯れ、卵焼き、甘し、霧ふかし、妻、よう笑う。
03:39あなたは毎日、空と一緒に、私まで記録していてくれたんですね。串は今、兄弟に戻っています。娘の髪をすくと、桜の匂いがすると言います。息子は最近、食べ終えたワンの底をコツンと鳴らすようになりました。あなたに会えないのではなく、二人の中で、あなたに会えるのだとようやく思えるようになりました。
04:02でも、私はまだ悪態をつくのをやめません。思い出が尽きないせいで、便箋がいつも一枚足りなくなる。本当に困った人です。疲れたくなかったら、夢でいいから、あの出し惜しみしなかった言葉を言いに来てください。大好きなあなた。私はもう少しだけ、こちらであなたの分まで歳を取ります。今夜も、山の上は晴れですか。おやすみなさい。
04:06おやすみなさい。
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