00:13雑踏の中唐突にその香りは美好を突き抜けたベルガモットの爽やかさの奥に少しだけ甘いバニラが残るあの独特な兆候それは世界中でただ一人彼女だけがまとっていたはずの香りだった
00:22身を思考よりも先に体が動いた隣を歩いていた同僚の呼びかけも耳に入らない人混みをかき分け香りの主を探して振り返る
00:34視線の先にいたのは長い黒髪の女性だった 背格好もどこか彼女に似ている心臓が痛いほど脈打つ5年前のあの日から止まったままの時計が一気に巻き戻されるような錯覚に陥った
00:45だがその女性がこちらを振り向いた瞬間淡い期待は無惨に砕け散った全くの別人だった あすみません人違いです絞り出した声は震えていた
00:59け幻想な顔をして去っていく女性の後姿を見送ることもできず僕はその場に立ち尽くした 多い大丈夫か急にどうしたんだよ同僚が心配層に肩を叩くその優しさが逆に結界の引き金になった
01:09視界が急激ににじんでいくぬぐってもぬぐっても熱い液体が頬を伝って地面に落ちた 一目があることも仕事の途中であることももうどうでもよかった
01:24ただ彼女がこの世にもういないという残酷な事実が5年の歳月を飛び越えて 今この瞬間に再び僕を打ちのめしたのだごめん少し目に入って嘘だとわかっていながら同僚は何も聞かずに背中をさすってくれた
01:31その日の夜静まり帰ったアパートに戻り僕は明かりもつけずにソファへ沈み込んだ
01:48部屋の隅にある小さな祭壇には5年前と変わらない笑顔の妙が収まっている 彼女が愛用していた香水の瓶はもう中身がほとんど空になっているのに捨てられずにそのまま置いてあるまだこんなに好きなんだよ暗闇に向かってこぼれた言葉は誰に届くこともなく消えていった
01:53世間は言う時間は薬だといつか思い出に変わると
02:06けれど5年経った今でも街角の香りにふとした光の差し方に彼女の面影を探してしまう 忘れることなんてできない涙が止まらなかった情けないほど声を上げて子供のように泣きじゃくった
02:15彼女がいない明日をあと何千回繰り返せばいいのだろうにじむ視界の向こうで写真の中の彼女が優しく微笑んでいた
02:25ご視聴ありがとうございました
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