00:25日本一には登っとかなあかんやろ放課後の教室にしりが差し込む中で誰かが言ったそんな突拍子もない一言が俺たちの夏休みを決定づけた俺を含めた3人は典型的なスポーツバカだった泥にまみれてボールを追いかけ難しい理屈よりも先に体が動くけれど残りの一人週一だけは違った彼は生まれつき線が細く運動神経はお世辞にも良いとは言えない
00:55休み時間も俺たちのバカ騒ぎを少し離れた席から静かに笑って眺めているようなそんな奴だった週一お前はやめとけって富士山なんて死ぬほどきついぞ悪気はなかったただ恩気で心配だったのだ週一は一瞬だけ胸をつかれたような悲しそうな顔をしてそうやな足でまといになるのはいややしなと力なく笑ったその日の夜俺の家に一本の電話があった週一のお母さんからだったわがままなのはわかってるのでもあの子にどう
01:07どうしても景色を見せてあげたくて一緒に連れて行ってはもらえないかしら 受話き星に聞こえる声は祈るように震えていた俺は少し戸惑ったけれど彼女の切実さに押されるように他の二人を説得することを約束した
01:27翌朝投稿した俺に週一が申し訳なさそうに駆け寄ってきた ごめんな昨日お勘が変な電話したやろ気にせんといて何言うてんね一緒に行こうや4人で俺がそう言うと週一は弾けるような満面の笑みを浮かべたあんなに嬉しそうな彼の顔を見たのはそれが初めてだったかもしれない
01:33待ちに待った夏休み5号目に向かうバスの中で俺たちは浮き足立っていた
01:47普段は聞き役に回ることの多い週一が一番大きな声で喋り一番はしゃいでいた 6号目7号目道が険しくなるにつれ週一の呼吸は荒くなっていった俺たちは自然と歩幅を緩め彼のペースに合わせて登った
01:598号目の山小屋で食べたレトルトのカレーはどんな高級料理よりも美味かった明日は晴れてご来光が見れるとええな 砂混じりの布団に潜り込みながら俺たちは夢を語った
02:12週一の顔は台頭の下で見た時よりも青白く見えたけれど 大丈夫かという俺の問いに彼は力強く大丈夫やと返した山頂を目指すため深夜に声を出た
02:239号目に差し掛かった時ついに週一が崩れるようにうずくまった酸素不足だ 俺は夢中で8号目まで駆け戻り酸素スプレーを買って戻った必死に酸素を吸い込み
02:29青白い顔で何度も咳き込みながらも週一は決して降りたいとは言わなかった
02:37震える足で一歩ずつ彼は血を踏みしめていた そしてついにその時は訪れた頂上を埋め尽くす人だかりの隙間から空が白み始める
02:47雲海が黄金色に染まり燃えるような太陽がゆっくりと姿を現した世界が光に包まれた瞬間俺は言葉を失った すごいな
02:53隣で震えていた週一の肩を叩くと彼は涙で潤んだ瞳を細め 心底幸せそうに応えたうん
03:07あの時の喜びはその後の人生で経験したどんな勝利よりもどんな栄光よりも輝いていた高校に侵略すると俺たちはそれぞれの道を歩み始めた週一は親の転勤で東京へ引っ越した
03:14たまに電話で近況を報告し合う時週一は自分の高校生活についてはあまり語りたがらなかった
03:20その代わりいつも決まって富士山の時の話を始めたあの時のカレーうまかったような
03:35あのご来校一生忘れへんわ俺は浪人生になり目の前の参考書と格闘する日々の中で次第に彼への連絡もおろそかになっていったそんなある日週一のお母さんから数年ぶりの電話があった今日あの子息を引き取ったの
03:39心臓が止まるかと思った何のことだかわからなかった 今日ってどういうことですか
03:42週一が死んだ あの子ね 高一の終わりから病気でずっと家で休んでいたのここ数ヶ月は本当に苦しそうで
03:53でもね あの子ずっと富士山の話ばかりしてたのよあの時みんなと一緒に登れたことが
04:01あの子の人生で一番の宝物だったってありがとうね 本当にありがとう電話を切った後涙は出なかった
04:04あまりに現実感がなかった
04:06あんなに元気に笑っていた週一が あの時あんなに必死に山を登った週一がもうこの世にいないなんて
04:12数日が過ぎ 部屋の片隅から一足の古い登山靴とあの日頂上で撮った写真が出てきたそこには朝日を浴びて
04:25最高の笑顔を浮かべる俺たち4人が写っていた一番端っこで青白い顔をしながらも
04:28誰よりも誇らしげに胸を張っている週一の姿があった
04:30そっか お前 あの時からずっと戦ってたんやな写真の中の週一と目が合った瞬間
04:41視界が急激に歪んだ止めようとしても涙がボロボロと溢れて止まらなかった声を上げて泣いた
04:42あの うん という一言に込められていた彼の顔が今でも俺の記憶に深く
04:48深く焼き付いている
コメント