00:00昔、ある山寺の近くに茶店があって、ばあさんが一人おった。
00:15ばあさんは、なおおうめさんと言って、二人の息子を立派に育てて、方向に出して、今は一人で茶店をあひなっておった。
00:30おうめばあさんは、どういうわけか、近頃、店の前にぽつんと立って、空を見上げている日が続いておった。
00:51えー、天気だな、ばあさん。茶と団子をひと皿くれや。
00:59それにしても、ここのとこ全然雨が降らんな。
01:03こんなに天気が続いて、田んぼの稲は大丈夫かな?
01:08ばあさん、茶と団子をくれや。
01:10ばあさん、なんぞそらにあるんかいの。
01:20あ?
01:27べつに変わった様子もないようじゃが、ばあさん、どうしたんじゃ。
01:36ばあさん、泣いてるぞ。
01:37ばあさん、どうしたんじゃ。ゆうてえみ。
01:48ばあさん、ちょっとおかしいんと違うか。
01:52そうみてえだな。茶に団子をあきらめて、先をいそごう。
01:56いくべ、いくべ。
01:57そうしたある日。
02:05ああ、ああ、ああ、あ、ああ。
02:10おやすみなさい
02:40急ぎの用があるというのに人騒がせな婆さんじゃ
02:54どういうつもりなんじゃまったく
02:57寺の用事の行き帰りに時々お梅さんのこんな様子を見かけていた山寺の小僧さんは
03:05何かわけがあるのだろうと思い山寺に帰り早速お嬢さんにお梅婆さんの様子を話した
03:13そうかわしもなお梅婆さんの噂はうすうす耳にしとったが晴れた日に泣いとったとは
03:22きっと何かわけがあるんじゃろう
03:26明日にでもお梅婆さんのとこにお茶をご馳走になりに行ってみよう
03:33次の日も上天気じゃった
03:38お梅さんお梅婆さん
03:47あ、これはお嬢様
03:51このお嬢に茶をいっぱい振る舞ってくれまいかな
03:56ただいま
03:56よっこらしょっと
03:59どうぞお嬢様
04:02今日はお梅婆さんに聞きたいことがあってきたんじゃ
04:08そこに立ってないでちょっとここに腰掛けんか
04:12お梅さんは天気のいい日は苦手なようじゃな
04:20ひとつその訳を聞かせてくれんか
04:24へえ
04:26じつはほうこうに出ているおらの長男が
04:31お梅婆さんの息子さんがどうかなさったのか
04:36おらの長男が
04:40かさ屋でかさつくってかさ売っとりますのじゃ
04:46長男がなんぼかさつくってもかさ売り歩いても
04:51お天気じゃったらかさは売れません
04:54へえそんな長男を思うとおら
04:57かなしゅうてかなしゅうて
05:01それもこれも天気がよいため
05:04せめて一日でも雨さえ降ってくれた
05:08そうじゃったのか
05:10ええ天気ではかさは売れんわな
05:14おら今すぐにでも息子のところへ飛んでいきたい思いです
05:20ふっふ ふふ
05:23ううふうに
05:28じゃがなお梅さん
05:29世の中悪いことばかりつづかんのと同じで
05:32いいことも必ずある
05:34あ
05:35また雨の降る日もあるということじゃ
05:38ということじゃ。
05:42そうですな、和尚様。
05:45和尚さんに慰められたお梅婆さんは、その後、
05:50上天気の空を見上げて、泣くようなことはなくなった。
06:08とうとう雨が降ってきました、和尚様。
06:14久しぶりの雨じゃの。
06:17今頃、お梅婆さんもさぞ貸し大喜びしとるじゃの。
06:22どうじゃ。今から茶店に行って、
06:25お梅婆さんの笑顔を見ながら、団子でも食ってくるか。
06:30そりゃええですね、和尚様。
06:34すぐに傘の用意をします。
06:38和尚様、何かお梅婆さんの様子が変ですよ。
06:49そうじゃあの。
07:00お梅婆さんまた泣いてるようですよ、和尚様。
07:05とにかく行ってみよう。
07:09よく降るの、お梅婆さん。
07:14どうしたのじゃ、お梅婆さん。
07:17雨が降ったというのに、どうして泣いてるんじゃ。
07:21あ、お梅婆さん。
07:22あ、お梅婆さんが、雨が降ったらやっぱり、ほら困りますだ。
07:30お梅婆さん。
07:31お梅婆さん。
07:32お梅婆さん。
07:33お梅婆さん。
07:34お梅婆さんの作った傘が売れるし、お梅婆さん、嬉しくないのか。
07:40それは嬉しいんじゃが。
07:43何かわけがありそうじゃな。雨の中で話しとってもなんじゃから、店の中で聞かしてくれないか。なあ、婆さん。
07:52へぇ。
07:53いったい、どうしたんじゃ、お梅婆さん。
07:59お梅婆さん。
08:00実は、おらの次男が造り屋に奉公して、造り作って造り売っとるんですじゃ。
08:10次男が何歩造り作って造り売り歩いても、雨が降ったら造りは売れません。
08:18そんな次男を思うと、おら悲しゅうて、悲しゅうて。
08:22そうか、次男もおったのか。雨が降っては造りは売れんわのう。
08:35親というもの、心配の種はつきんもんじゃな。
08:45どうじゃ、お梅婆さん、こう考えたら。
08:48はぁ。
08:51ええ天気じゃったら、今日は造りが売れとるなぁと、喜んどる次男を思い。
08:58雨が降ったら、今日は傘がよう売れとるのうと、長男を思えばいいんじゃよ。
09:06したら、雨が降っても天気でも、おらの息子のどっちかは喜んでおる。
09:13そうじゃよ。毎日、息子さんたちの喜んどる姿を思っとるのじゃから、泣く日なんぞはないじゃろ。
09:23そうですなぁ。そうじゃよ、和尚様の言うとおりじゃ。
09:29はっはっはっはっは、よかったですね、お梅婆さん。
09:33お梅婆さんの笑顔が見られたところで、お茶と団子ふた皿くれんかい。
09:38ええ、ただいま。
09:39よかったなぁ、小僧。
09:42和尚様。
09:44はっはっはっはっはっはっはっはっは。
09:47はい、団子とお茶ですよ。ちゃんと食べてください。
09:51ああ、こりゃあ、ちゃんとあるわい。
09:54すごいですね、和尚さん。
09:56はっはっはっはっはっはっはっはっはっは。
09:59そうして、年の暮れになると、お梅婆さんの心配の種の息子たちは、元気に方向先から帰ってきた。
10:09おっかぁ、達者でいたかぁ。
10:13ああ、達者じゃ。
10:14そうかぁ、よかったなぁ。
10:17はっはっはっはっは。
10:20こうしてその後のお梅婆さんは、雨の日でも晴れた日でも泣くことなく、元気に働いたということじゃ。
10:29物は思いようということじゃなぁ。