00:00昔、高知の山奥での話じゃった。
00:17人家が二三十軒もあろうか、小さな村があった。
00:22そこへ毎年、秋も終わり頃になると、夜泣きうどんを売りに来るじいさんがおった。
00:30多分、街中で人商売して、その後この村で商売するのであろうが。
00:37いつも、大稲荷さんの前の広場で店を開けておった。
00:42今日もおじいさんは、田んぼのあぜ道をチリンチリンと鈴を鳴らしながら、屋台を引いてやってきた。
00:48この鈴の音はよく通り、夜泣きうどんの合図となっておった。
01:05うーん、サブー、冷えるねー。
01:09かっちゃん、おふくろさん、体の声はどうだい?
01:14相変わらず寝たり起きたり。もう年だしおら心配じゃ。
01:19正道、お稲荷さんのすぐそばにかっちゃんという威勢のいい若い衆が住んでおり、これが今夜も一番最初にやってきた。
01:29次に村の子供たちがうどんを買いにやってきた。
01:33かっちゃんも早く嫁さんもろて。はい、落とすないよ。
01:45孫の顔を見せておふくろさんを安心させてやらなきゃの。
01:50うーん。
01:52ちょいとおうどんくださいな。
01:56どうぞ。
01:57あ、ごめんなさい。
01:58ちょっとこの辺りでは見たこともない、目の覚めるような美しいおかみさん風の人がうどんを食べにやってきた。
02:08かっちゃんが思わずぽーっと見とれていると。
02:13あら、おいしい。おじさんこのうどんおいしいね。
02:18と言って、汁まで全部飲んで、しかも3杯も4杯もおかわりした。そして。
02:25お釣りはいらないよ。全部取っておいておくれ。
02:32おかみさんはかなりなお金を置いて帰っていったそうな。
02:37へへへへへへ。
02:39はっはっはっはっはっは。
02:45へへへへへ。なんて綺麗なかみさんじゃろう。
02:49こ、こ、こばーん。
02:52うーん。そりゃあ、い、い、いまの人が置いてったのかい。
02:58これ、いやあ、いくらなんでももらいすぎだ。返さなきゃ。
03:03おにゃあ。
03:07かっちゃん、いまのおかみさんどこの人じゃ。
03:11うらあもはじめて見たんじゃ。
03:13あのおかみさん、きりょうもいいが、きまえのほうはもっといいの。
03:22次の日の夜、なんとなく元気のないじいさんの姿が見られた。
03:28かっちゃんがすぐにやってきた。
03:30おやじさん、どうだい。きのうのおかみさん、きょうもくるかな。
03:38わからん。
03:41おー、さむ、おやじさん、はやくつくってくれや。
03:46かっちゃん、このあたりには、たぬきやきつねは多いのかい。
03:49えぇ、そりゃいることはいるが、それがどうかしたのかい。
03:54えぇ、お待ちどう。
03:57実はな、あのおかみさんの置いてたかねな、うちへ帰ってみると、この葉になっとった。
04:04はぁ、またまたまた。
04:07もらったもんじゃ。素直に受けとっときゃいいんじゃ。
04:11そんな嘘つかんでも。
04:14え、嘘じゃないよ。
04:16ほんとにこの葉になっとったんじゃ。
04:19このあたりのきつねやたぬきは、今まで人をばかしたりしたことはなかったけどな。
04:25それによ、おらにあんなきれいなおかみさんが、きつねかたぬきだなんて、信じられねえよ。
04:33この葉になるとこ見たわけじゃなし。
04:38ところが、二人が話しているとき、何杯もうどんをおかわりしているお客が売った。
04:45じいさん、うちに帰って調べてみると、この男が払った銘がやっぱりこの葉じゃった。
04:52なんとかしてお上げよ。
04:59あの、おじいさん貧乏しているけど、嘘をついてまでお金を欲しがるような人じゃないよ。
05:08あれからも何回かこの葉が混じっていたそうじゃないか。
05:12そうよなあ。じいさんおとなしいから我慢しているけど、あれじゃ腹立つよなあ。まったく。
05:21お、きたなあじいさん。よし。
05:30きつねかたぬきかしらんが、まったく無視を張るじゃ。
05:41この寒い夜中、重い屋台を引き引き、商売している正直な年寄りを騙して、何がおもしろい。
05:48正体を暴いて、ぶちのびしてくれる。
05:50かっちゃんは、おいなにさんの境内に潜み、そんなことをぶつぶつつぶやきながら、こんぼを持って待ち構えておった。
06:01やがて、これはと思われる若い娘が現れた。
06:06へとはまちどー。
06:07やっぱりうどんを4、5回もおかわりしておった。
06:22かっちゃんは、そーっと忍び寄り、着物の裾に火をつけた。
06:28ああああああ ああああああああ
06:40このショーアルダルゲー
06:46ああああああ あのたぬきまたやってくるかな
06:55もう来ないよ 確かな手応えがあったんだ
07:00あの分だと山まで帰りつくね
07:08でも一体どうして人なんか騙す気になったんだろうね 何にしろ折衝の後は気持ちのいいもんじゃねー
07:20それから後はもうおじいさんの財布にこの葉が入っているようなことはなかった
07:28ところが 次の年妙なことが起こった
07:34おじいさんさっき帰ったはずじゃん また戻ってきたのか
07:46変度の今までこんなことは一度もなかったんじゃが
07:52ん
07:59かっちゃんが外を眺めると 何か黒い影がチリンチリンと呼び合っておった
08:07かっちゃんは外へ出ると 黒い影は消えていた
08:25次の日かっちゃんは じいさんにそのことを話した
08:30そしてその夜 店を引き上げた後2人で
08:36お稲荷さんの境内で見張ることにした
08:39子だぬきじゃ
08:58今のは去年のあの狸の子供たちだよ ありゃ母狸だったんじゃ
09:09そうだな あいつはおやじさんの鈴の音が鳴ると決まって
09:14おやじさんのうどんを食いにやってきたからの
09:18子供たちは鈴の音を覚えたんじゃ あーやっておふくろ呼んでるんじゃの
09:25かわいそうなことをしちまった
09:32子を育てる時には腹が減るで たらふく食べには父がでんでのう
09:41覚悟はしてたのじゃろ 命がけだったんじゃな
09:47おいしいうどんの父で 育ててやった子だぬきたちが
09:53無事大きくなったんじゃ あの母親もあの世で満足しているじゃろうって
10:02お前ら早く一人前になってくれよ
10:21どんも
10:33かっちゃんはそういうた
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