プレイヤーにスキップメインコンテンツにスキップ
  • 1 日前
Japanese folk tales
トランスクリプション
00:00昔 沖縄本島から遠く離れた宮古島にマサリアという漁師がいました
00:16ある月の美しい晩マサリアは海岸で魚釣りをしていました
00:23これは今までにない大物が一体どんな魚だろう
00:32マサリアは力いっぱい釣り上げようとしました
00:35ところが
00:37しばらくして気がつくと大魚の姿はどこにもなく
00:54マサリアの足元に釣り竿が落ちているだけでした
00:57マサリアはがっかりして帰ろうとしました
01:00すると
01:01どこから来たのか見たことのない女がそばに立っています
01:07もしこんなところで何をしているのです
01:10はい
01:15私は遠いところからやってきたものですが
01:19今夜泊まるところもありません
01:21もしよろしかったら今夜一晩泊めていただけませんか
01:26マサリアはその美しい女を自分の家に泊めてやることにしました
01:37翌朝マサリアが目を覚ますと
01:40女はいなくなっていました
01:42マサリアはその女のことが忘れられず
01:48毎晩同じところに釣りに出かけました
01:51でも女は二度と姿を現しませんでした
01:55そしてそんなことも忘れかけていたある日のこと
02:02お父さんお父さん
02:11お父さん
02:13お前たちにお父さんと呼ばれる覚えはないぞ
02:17お父さんは昔月の夜浜辺
02:20お母さんとお会いになったでしょ
02:22私たちその時できた子供で双子です
02:25月の夜浜辺で
02:28そうかあの滝の
02:32さあお父さん参りましょう
02:35お母さんが待ってます
02:37おい待ってくれ待ってくれよ
02:40マサリアは子供たちの肩に捕まって海の底に潜りました
02:50すると水の中だというのに息をすることができます
02:55着物も少しも濡れた様子がなく
02:58まるで空を飛んでいるような心持ちでした
03:01あれが竜宮城です
03:09ようこそお越しくださいました
03:12竜宮城の中は金銀サンゴを散りばめた調度品に囲まれ
03:18目も眩むばかりの美しさです
03:21この壺は綺麗だな
03:23これは竜宮城で一番の宝物です
03:28へえ
03:30やがて奥御殿に入っていくと
03:33そこには月の夜浜であったあの美しい女が
03:36マサリアを待っていました
03:38いつぞやの晩はありがとうございました
03:40どうぞいつまでも竜宮城で
03:43親子水いらずでお暮らしください
03:46マサリアはそれまで見たことも聞いたこともないような
03:58素晴らしい酒とご馳走に囲まれて
04:01美しい音楽や歌を聴きながら
04:04まるで夢のような日々を過ごしました
04:06でも
04:11いつかも経つとマサリアは体が生まってくるようで
04:16陸へ帰りたくなって仕方がありませんでした
04:19どうしてもお帰りになるのですか
04:23あなたや子供たちには申し訳ないが
04:26どうしても帰りたいのです
04:29それならば仕方ありません
04:31ではお土産に何か差し上げましょう
04:34何なりとおっしゃってください
04:36あのルリーロの壺をください
04:40ルリーロの壺
04:42あの壺は竜宮城で一番の宝物ですが
04:46他ならぬマサリア様のためなら
04:48差し上げましょう
04:50この壺のことを私だと思って
04:54大切にしてください
04:56マサリアは礼を述べると
05:00壺を受け取り子供たちに連れられて
05:02竜宮城を後にしました
05:05マサリアが気がつくと
05:14いつの間にかそこはもう
05:16宮古島の海岸でした
05:18そして驚いたことに住んでいた村は
05:22家も人々も何もかも変わり果てていて
05:25マサリアの家は跡形さえないのです
05:28途方に暮れたマサリアは
05:30いつしか村外れの古池のほとりに出ました
05:33竜宮では
05:40いつかしかたっていなかったはずなのに
05:43マサリアは50年もたったかのような
05:46老人になり果てていたのです
05:48マサリアは壺の中の音に気がついて
05:58何だろうと開けてみました
05:59するとプーンと旨そうな酒の匂いがします
06:04こうなりゃやけくそだ
06:07これでも飲んで酔っ払ってやる
06:09マサリアは壺の酒を一気にごくごくと飲み干してしまいました
06:15すると急に顔や体がむずかゆくなってきました
06:20ハンリー
06:22うわーなんてことだ
06:25こいつは若返るの目を焼くだ
06:27それなのに俺全部飲んじまったぞ
06:30おや?
06:31マサリアが蓋を開けてみると
06:34また酒がとくとくと増えてきました
06:36元に戻っちまった
06:38こいつはいくら飲んでも減らないのか
06:41よし
06:42マサリアは他の老人にも飲ませてみようと
06:46壺を抱え村に向かって駆け出しました
06:49老人はマサリアの差し出す酒を一杯飲むと
06:55たちまち若返り
06:56マサリアと同じくらいの若者になってしまいました
06:59この話はあっという間に島中に広まり
07:04たくさんの老人たちが不思議な壺の酒一杯でも飲ませてもらおうと
07:09マサリアのところへ押しかけてきました
07:11マサリアはどうせ減ることはないのだから
07:16誰にも気前よく分けてやり
07:18壊れるままに竜宮城の話をして聞かせました
07:22酒を飲ませてもらって若返った村人たちは
07:26大変喜んでお礼にいろいろなものを持ってきました
07:30こうしてマサリアは村人たちが用意した一軒の家に
07:36住まわせてもらうことになりました
07:38やがてこの噂は
07:43宮古島にとどまらず
07:44遥か沖縄まで伝わり
07:46多くの老人たちがマサリアの家にやってきて
07:50中には一刻も早く飲もうとして争いを起こす者もいます
07:54人々は皆マサリアに献上する金品を手にしていました
08:01こうして遠くからやってきた長者や貴族たちに囲まれ
08:07毎日チヤホヤされるうち
08:09マサリアはいつの間にか自分が大変偉い人間のような気がしてきました
08:14この俺様がわざわざ竜宮城から運んできてやったんだ
08:19お前ら俺によーく感謝して飲まなきゃ罰が当たるぞ
08:23そんなある晩のこと
08:30おーい
08:36離れ島から
08:38さるさるやってきたんだ
08:39竜宮城の酒を飲ませろ
08:41おい
08:41なんだこんな夜中に
08:43明日の技出直してこい
08:46ケチなことを言わずにささと開けろ
08:48誰に向かって言ってるんだ
08:51竜宮城から酒の壺を持ってきてやったのはこの俺だぞ
08:56お前なんかどうでもいいんだ
08:58つぶりようがあるんだ
08:59なに壺にいようだと
09:02この俺はどうでもいいんだと
09:04まったくこの壺を竜宮城から持ち帰ったおかげで
09:12俺は夜もろくすっぽ眠りやしない
09:15こんなものを持ってくるんじゃなかった
09:17おー
09:22おー
09:24おー
09:35おー
09:36おー
09:37待ってくれー
09:42待ってくれー
09:45行かないでくれ!戻ってきてくれ!
09:50マサリアは慌てて捕まえようとしましたが、もう手遅れでした。
09:55白い鳥は遠い夜空の彼方に小さくなって消えていきました。
10:01行かないでくれ!
10:04行かないで!行かないで!
10:09いつの間にか元の老人になってしまったマサリアは、
10:13小さくしぼんでしまった肩を震わせて、いつまでも泣いていました。
10:27その頃、不思議な壺の酒を飲んで若返った他の人たちも、
10:33みんな元の老人に戻ってしまっていたそうです。

お勧め