00:00昔々あるぐーたらな男が一人面白くなさそうに山道を歩いておった
00:19というのは
00:23お前さん少しは手伝ってくれたらどうだね
00:32隣もそのお隣さんもみんな一生懸命働いてるんだよ
00:39傘張りなど馬鹿らしくてできるか
00:47武士は食わんねど高いおじじゃい
00:53ふん本当に解消なしなんだから
00:59男は町を出てブラブラやってくると
01:15木陰で一休みすることにした
01:18木陰の下は涼しくて日頃の煩わしさも忘れてついうとうと眠ってしまった
01:28そこへ町へ買い物に行って帰りの男がやってきた
01:46どうだね
02:04買い物帰りの男はしばらくひげ面の男を見ておったが
02:25こりゃちょうどいいと言ったかと思うと何を思ったか
02:30急に荷物を解き始めた
02:34そうして買ってきたばかりの髪剃りの剃り味を試したくて
02:41男の髪の毛を剃り始めた
02:44こうして調子に乗ってジョリジョリ剃ってみると
02:51なんとまあよく切れる髪剃りじゃった
03:04そうしてとうとう丸坊主にしてしまう
03:18ついでにひげも剃っちゃる
03:25こうして顎から頬まできれいに剃り上げると男は言ってしもうた
03:43しばらくして男が目を覚ますと頭の方がスースーするので
04:05手をやってみると髪の毛がない
04:07男は慌てて近くの水場へ駆け出した
04:14しまった
04:19わちゃん眠っとる間に死んでしもうたんじゃ
04:23男は自分がすっかり丸坊主になっているので
04:29死んだものと早がてんした
04:33待てよ
04:38年寄りは言うとったが
04:41死んでから西の方へ行けば極楽浄土はあるそうじゃ
04:46男は極楽浄土についてあれこれ想像した
04:53昔は人が死ぬとみな丸坊主にしたものだ
05:22男は西の方へ向かってどんどん歩いていった
05:27何日か行くと光り輝いて見えるようなお寺があった
05:43うわぁ
05:45極楽浄土はここかもしれんな
05:49寺の中には大きな蓮池があって
06:02美しい蓮の花が夕日の中に光り輝いておった
06:07何という美しい花じゃ
06:12極楽じゃ仏さんが蓮の上に座るというから
06:18わしも真似してみよう
06:21何度やっても蓮の葉はブクブク沈むだけじゃ
06:35こりゃあ何やってるんじゃ
06:47男が振り返ると寺の小僧が竹ぼうきを振りかざしておった
06:53くれい!蓮の花をむちゃくちゃに背負ってくれい!
07:00怪しいものではござらぬ!話せば話せば分かる!
07:05何ぃ!かかかかかかかかかんちくしょい!
07:09くれい!
07:11ごく楽もなかなか楽なところではなかった
07:23男はまた西へ西へと向かっていった
07:28するとうちのあちこちに七夕の笹竹が立っているのが目立った
07:41そうか今日は7月7日かお盆の中日も近い
07:47お盆の中日には死んだ者が自分の家へ戻るという
07:52するとわしも帰らんや
07:56と元来た道をどんどん引き返し始めた
08:08そうして何日かしてやっと自分の家へ帰ってきた
08:13男は座敷へ上がると相変わらず死んだ者と思い
08:17仏壇の中へちょこんと座ってそのまま眠ってしまった
08:23男の妻は今日はお盆じゃというので台所でおはぎを作っておった
08:31うちの人が出て行ってからも何日になりましょうか
08:45これだけ帰らんところを見るとどこかで死んでしまったんでしょう
08:50悲しい子です
08:57男は腹が減っていたのでパクパクおはぎを食べた
09:02うーん
09:04あと
09:16うーん
09:18妻は仏壇に見知らぬ大牛堂がいるのでびっくり行って
09:27ああ難儀なことじゃわしゃ死んでまで女房に嫌われる
09:40男はすごすごと表に出た
09:43庭はしばらく手入れをしてなかったので草ぼうぼうじゃった
09:50父さんが死んでからというもの
09:59女子供ばかりじゃと思って見知らぬ大牛堂までが仏壇に入って
10:04馬鹿にしやる
10:05お父さんも草葉の陰からこっちを見てさっそ悲しんでおられるじゃろう
10:14生みだ
10:16生みだふつ
10:18生みだふつ
10:21生みだふつ
10:22父さん見てるかい
10:26聞いてるかい
10:28ああ見ちょる聞いてるよ
10:33草葉の陰から
10:36ふっふ