00:00昔ある村に貧乏な炭焼きの男が住んでおった
00:16男は田も畑も一枚も持っていなかったので
00:21毎日遠い山へ出かけて行っては木を切って
00:27炭を焼きそれを里の方へ持って行っては暮らしを立てておった
00:34じゃが山から炭を運ぶのはそりゃ大変な仕事じゃった
00:43せいぜい一票の炭だらを運ぶのがやっとで
00:47それも一日仕事じゃった
00:49それもう一日
00:56役立たずもっとしっかり働かわおうか
01:03餌ばっかり加えよって
01:05もっとしっかり引っ張れ
01:11あもしそんなに乱暴に扱ったら馬がかわいそうじゃ
01:19なにこの汚れどうせすぐ落ちぬんだ
01:23役立たずもっとしっかり引っ張らんかい
01:28おりゃごかんか
01:30どうじゃろうな
01:35その馬をわしに譲ってくれんか
01:40この野生馬をか
01:42ああこの炭一票とではどうかな
01:45この役立たずの野生馬と炭一票とか
01:50不足か
01:52いいんだわなんせ
01:54麦は食らうは働かねえけどいいだか
01:57後で夜だなんて言ってもわしは知らんぞ
02:00そりゃ大丈夫
02:02俺は一人暮らして寂しいで
02:05働かねえでもこの馬と一緒に暮らすつもりじゃ
02:08こうして野生馬は炭一票と変えられた
02:15わーいわーいわーい
02:17わーいわーい
02:19一人暮らしの男は馬を大層かわいがり
02:27以前よりは少し太ってはきたが
02:30他の馬から比べりゃまだまだ痩せておった
02:34すまねえなあ青
02:37俺にもう少し稼ぎがあったらおめえにもたらふく麦食わして
02:42元気つけさせてやるになあ
02:45そうして俺の仕事手伝ってもらうだがなあ
02:50それから少し経ったある朝のこと
02:55おいアオ
02:57どこ行ったアオ
03:01アオ
03:02村へ帰っただか
03:04おーいアオ
03:08おい俺の馬知らねえか
03:12馬知らねえなあ
03:15姿が見えねえでもしはおめえのところへ帰ったんじゃねえかと思ってなあ
03:20冗談じゃねえあんな痩せ馬隠したりするもんか
03:25すまねえやっぱり俺の貧乏に馬も愛想つかしただなあ
03:32あんな痩せ馬どうでもええじゃねえか
03:36それから男はほうぼを探して歩いたが馬の姿はなかった
03:44仕方なく仕事をしにいつもの炭焼き小屋に向かった
03:49あああああああごめえこんなところにいたのかずいぶん心配したぞ
03:59なんでまたこんなところにいただたいそう心配したでねえか
04:05さてアオそれじゃ帰るとしようか
04:17ほらちょっと行くぞ
04:20おっとっとおいおい何するんじゃ
04:23おう早く帰らには日が暮れちまうぞ
04:26離せおい離せってば
04:29おっと
04:30でえアオいい加減にしろ
04:33遊んでる暇はねえんだぞ
04:35しょうがねえなあ
04:37ちょっと
04:38おうおう
04:40いいか
04:43こいつを里に運ばには飯が食えねえんだぞ
04:46それともおめえが運んでくれるとでも言うのか
04:50え
04:53おめえが運んでくれるんか
04:57すまねえ
05:01おめえには心配かけたくなかっただによ
05:06じゃあ頼むか
05:09よし頼むぞ
05:14ゆっくりな
05:17すまねえ
05:20アオ
05:21こうしてヤセグマは毎日男と一緒に山に出かけては
05:28隅田原を運び男も手裏というわけにはいかず薪を運んだ
05:34だから暮らし向きはだんだんと楽になってきた
05:38じゃが村の口の悪い連中は
05:41え
05:42ヤセウマが通るぞ
05:44ヤセウマじゃ
05:46ヤセウマが通りおるぞ
05:49おい、見ろ
05:51馬より隅田原の夫婦がようこいとるぞ
05:55あははははは
05:57あははは
05:59ヤセウマ
06:01ヤセウマ
06:03ヤセウマ
06:05ヤセウマ
06:07と、林立てた
06:09アオ
06:16青よ
06:17毎日すまねえな
06:19おめえのおかげで少しずつ暮らしが楽になってきた
06:23もう少しの辛抱だ
06:26そしたらおめえにたらふく麦を食わしてやれるでな
06:30それまで頑張ってくれや
06:33ところが、次の年
06:43何年かぶりの例外がその村を襲った
06:47作物はすべて枯れてしまい
06:50麦一粒どころか、泡粒も取れない
06:53不作の年となってしまった
06:56男は自分の食べる分まで馬に与えたが
07:00雪が溶けた頃には
07:02馬は前より一層痩せてしまってやった
07:07それでもヤセウマは毎日男と山に出かけ
07:11墨田原を運んだ
07:14と、ある日のことじゃった
07:17さて、山降りるとしようか
07:20アオよ、あんまり無理せんでいいぞ
07:23ゆっくり歩いてよ
07:32アオ、少し休んでいくか
07:51アオ、アオ、アオ、アオ、アオ、しっかりしろ、しっかりしろ
08:10こりゃいけねえ、足を覆ってしまっただな
08:14男は夢中で、身を積んだ馬を背負ってしまった
08:19ヤセウマとはいえそれは重く、一歩も歩けるものではなかった
08:24くっそー、アオ、少しの辛抱じゃ
08:31と、その時、どこからともなく一陣の風が吹いてきた
08:36うっ、よし、アオ、行くぞ
08:42あ、アオ、どうしたんじゃ
08:46アオ、ごめん、こんな姿になっちまってよ
08:55どうしたんだよ、アオ
09:00なんと、ヤセウマの姿は木の枠に、縄の絡んだものになっておった
09:11男はこれは、ヤセウマの生まれ変わりだと思った
09:16おや、おめえ、ヤセウマどうした、また握られたか
09:21なーに、ちゃんと背中におりますがな
09:25ええ、それがヤセウマか?
09:28ええ、スミダーラも楽に運んでくれます
09:32そりゃ、便利なもんじゃの
09:36それからというもの
09:39男は、このヤセウマを使って前よりも一層働いた
09:44そして、次の年
09:47村も豊作、男の暮らしもヤセウマのおかげで楽になってきた
09:53ほれ、アオよ、おめえの大好きな麦だ、たんと食べろや
09:58そう言って、男はありったけの麦をいっぱいヤセウマにあてがった
10:04この道具を馬鹿にしていた村の人々も、真似して作ってみた
10:10重い荷物も楽に運べる便利なもんだと、みんなが使うようになった
10:17アオよ、おめえがいるで助かるだ
10:22今でも、ある地方では
10:27このショイコのことを、ヤセウマと呼ぶそうじゃ
10:34ご視聴ありがとうございました
10:39ご視聴ありがとうございました