著者:町田由美
誰もいないコース。
遠くからエンジン音が聞こえる。
マヤは空を見る。
そして、
「父さん。
私、やっと分かったよ。」
少し笑う。
「私は、どちらかになるんじゃなかった。」
風が吹く。
「私は、私でよかったんだ。」
そして、イヤホンを耳に入れる。
自分が録音した新しい曲。
タイトルは、
「Two Seas, One Sky」
最後の場面
マヤはサーキットを歩いていく。
右手には、父の古いレーシンググローブ。
左手には、自分が書いた歌詞のノート。
やがて彼女は、二つをそっとベンチに置く。
そして、一人で歩き出す。
父の後を追うのではない。
父の人生を繰り返すのでもない。
自分の人生へ向かって。
最後の文章は、私はこうしたいです。
海は二つあった。
生まれた場所も、育った場所も違った。
父から受け継いだものも、母から受け継いだものも違った。
けれど――
見上げた空だけは、ひとつだった。
マヤは歩き出した。
もう、どちらかを選ぶ必要はなかった。
二つの海を渡ってきた鳥は、ようやく自分の空を見つけた。