00:02俺の娘は今年で4歳になる。
00:03嫁は娘を産んですぐに家を飛び出した。
00:06だから娘には母親の記憶がない。
00:11そんな風に母親の話を避ける日々が続いていたある日のこと。
00:14俺は仕事の移動中混雑した電車の中にいた。
00:19隣には幼稚園くらいの女の子が母親らしき若い女性と一緒に座っている。
00:232人の笑い声が車両に響き、俺も吊られて微笑んでしまった。
00:29もし妻がいたら、俺の娘もこんなに無邪気に笑っていたのだろうか、そんなことを考えていた。
00:32その時、片腕のない女性が電車に乗ってきた。
00:37彼女が俺たちの向かい側に座った瞬間、女の子が大きな声で言った。
00:38お母さん、どうしてあの人は手がないの。
00:41女の子の声は車内に響いた。
00:43俺の心臓が波打った。
00:46そして、女性と親子から思わず目をそらした。
00:50しかし、母親は慌てることなく、優しい声で女の子に語りかけた。
00:52いろんな人がいるの。みんなが同じじゃないの。
00:55舞ちゃんにはおじいちゃんとおばあちゃんがいないでしょう。
00:57女の子はすぐにうなずいた。
01:02うん、みんなはおるけど、私にはおじいちゃんとかおばあちゃんはおらんねんな。
01:03母親は微笑みながら続ける。
01:09いろんな人がおるけど、おじいちゃんやおばあちゃんがいないのは、舞ちゃんのせいじゃないでしょう。
01:10うん、違う。
01:12あ、ゆいちゃんのところはお父さんおらんねんで。
01:14母親は柔らかい声で言った。
01:18そうね、でも、それはゆいちゃんのせいじゃないよね。
01:20女の子は大きくなずき、 うん、違う、と答えた。
01:24だからね、みんな同じじゃないの。
01:28みんなそれぞれ、持ってるものと、持ってないものがあるんよ。
01:33でもね、持ってないからって、その人は何も悪くないし、他の人と何も違わないんよ。
01:38母親の言葉は、シンプルでありながら、深く心に突き刺さった。
01:44腕のない女性は静かに微笑み、他の乗客たちも、その親子のやりとりを温かい眼差しで見守っていた。
01:48俺はさっき、目をそらしてしまった自分を恥ずかしく思った。
01:52あの時の電車の親子が、俺に子育ての大切なことを教えてくれた。
01:59そして、母親がいなくとも、俺の娘には、決して目をそらすことのない大人になってほしいと願った。
02:19君が君であること、恥じることなんてない。目をそらさないでほしい。
02:28胸を張って、勇気を信じて。
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