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  • 2 days ago

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00:00Yuaと一緒に山崎くんの家を訪れた帰り道
00:04俺たちは大きめの書店へと足を運んだ
00:08予想通り剣もホロロに追い返されてしまったけれど
00:12まあ当然のことだと思う
00:15倉銭に頼まれたという大義名分はあるど
00:18向こうからしたら勝手な言い分でしかない
00:21そんなわけで友達でもなんでもない俺が
00:25山崎くんの個人的な事情に土足で踏み込み
00:28これから腹割って話すために必要な最低限の礼儀として
00:32せめて先ほど口にしていたライトノベルぐらいは読んでおこうと決めた
00:37付き合ってもらって悪いな
00:40それは全然構わないんだけど
00:44私山崎くんが言ってた本の名前ほとんど覚えてないから
00:48あんまりお役に立てないかも
00:51だよな俺も過労して半分ぐらいをうろうぼえしてる程度だ
00:55すっごく早口だったのによく半分も記憶に残ってるね
01:00まあ口にし始めた時点で読んでみようとは決めてたからな
01:05後半は割と集中して聞いてたんだよ
01:08普段読んでいる本とはかなり傾向の違うタイトルばかりだったので
01:13印象的ではあったが空で言えるのはせいぜい一つか二つ
01:18結局は目の前にあるラノベコーナーの本棚を端から端までさらって
01:24聞き覚えのあるものを探すことになりそうだ
01:26そういうとこやっぱりサクくんだよね
01:32イケメンでチャラチャラしてるように見えても
01:35実はクールに会話の内容を記憶して
01:37最善の策を講じられる万能超人素敵という意味かな
01:41そういうとこもやっぱりサクくんだよ
01:45何かを見透かされているような反応がくすぐったくて
01:49俺は本の背拍子を追うことに集中した
01:52結局山崎くんが口にしていたタイトルのうち
01:58書店で見つかったのは四つだった
02:01とはいえそれぞれが何巻も出ているシリーズ作品だったため
02:05紙袋には二十冊近くの本がずっしりと詰まっている
02:08一度腹をくくった以上
02:11今さら自分の発言を撤回しようとは思わないが
02:14これに加えてあと六シリーズ
02:17本腰を入れて読み進めないと
02:19想像よりも時間がかかりそうだ
02:21薄ぼんやりとした記憶を手探りしながら
02:25宿泊しているうちに
02:27外はすっかりと夜の帳が降りている
02:30いや家まで送ってくよ
02:33うんありがとう
02:35でも正直ちょっと疲れちゃったかも
02:39まあそれはそうだよな
02:40その辺でちょっとお茶してくか
02:43うん
02:44なんて少し気取った言い方をしたけれど
02:49あいにく福井はちょっとお茶できるようなカフェがそこかしこにあるような街じゃない
02:53俺たちはコンビニで二人分の飲み物を買って
03:00近くの河川敷に腰を落ち着けた
03:03もう春なんだなと改めて実感する
03:07特にライトアップされているでもない桜が
03:11申し訳程度の街灯に照らされて
03:13ほのかに浮かび上がっていた
03:15ついこの間までは肌寒かった夜の風が
03:19ほんの少しだけ心地よくなった温度で肌を撫でていく
03:24佐久君はさ
03:26ホットのほうじ茶ラテを両手で持った岩が口を開いた
03:30山崎君のことどう思ったの
03:34俺はアイスカフェラテをチュルとすすってからそれに答える
03:39ピュアな人間なんだって思ったかな
03:45ピュア?
03:47岩は俺が叩かれてるのを見てるからよくわかると思うけど
03:51人はいつでも人に優しくいられるわけじゃない
03:55親しいと思っていた相手が影では自分の悪口言ってる
04:00なんてことも割とありがちだ
04:02俺は特別多い方だって自覚はあるけど
04:06普通は高校生にもなれば
04:08そういう経験の一つや二つぐらいあるだろ
04:11まあそうかもね
04:14山崎君はなんというか
04:16あまりコミュニケーションの得意なタイプには思えなかった
04:20もしかしたらこの年になって
04:23初めてその手のトラブルに遭遇したのかもな
04:26だから他人に対してあそこまで攻撃的になってるとか
04:30こういう問題で難しいのは
04:33自分が嫌ってる
04:35あるいは明らかに自分を嫌っている相手から攻撃されるのと
04:39友人だと思っていた相手に裏切られるのでは
04:43後者の方が段違いにきついということだ
04:46もちろんほとんど話ができなかった今の段階では
04:51根拠のない推測に過ぎないけれど
04:54初対面の人からあそこまで言われて
04:57よくそんな風に考えられるね
05:00ま、叩かれるのには慣れっこだからな
05:04面と向かってはいないけど
05:07直接言われる分いっそ清々しいよ
05:10それに
05:12最初の印象が悪かったとしても
05:16結果として長い付き合いになることだってあるだろ
05:19誰かさんみたいに
05:21あ、あんまり思い出させないでほしいな
05:24それ
05:25トプトプと
05:31まどろむような水音が響く
05:33チリンと
05:35どこかで自転車のベルが短くなった
05:38空に浮かぶ月が
05:41今日も夜の底を柔らかく照らしている
05:45山崎君の部屋のカーテンは
05:49まだ固く閉ざされたままだろうか
05:51もったいないな
05:53と思う
05:55例えばこういう穏やかな時間が
05:58窓の外には流れているのに
06:01さて
06:04どうなることやら
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