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司馬遼太郎「昭和という国家」第2回[全5回]15分13㎆320x180元原版

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教育
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00:00朗読の時間です 柴良太郎作昭和という国歌第2回
00:091943年の学徒出陣で旧陸軍に入隊した柴良太郎は22歳で敗戦を迎えました 戦争体験者の柴良太郎は昭和の戦争をどう見たのでしょうか
00:26私松茂豊が朗読しています
00:35この間亡くなった方で最後は陸軍中将となった人が野門藩の時の作戦を担当していた人でした
00:43今から10年ほど前ですがその人を料理屋に誘いましていろいろ話を伺いました
00:52午後6時から11時頃までとにかくよくおしゃべりになる方でした
00:58ところが何事も出てきませんでしたね
01:03ちょうど油紙の上に水をかけたようにつるつると弾くばかりで
01:10聞き手の心に何も入ってこない言語がただあふれているだけでした
01:16そして野門藩のことを巧みに外して話されました
01:22野門藩のことを聞きたかったのですがその話になるとなんだか官僚的な答弁が出るだけでした
01:31要するに官僚です
01:35ああこういう人が野門藩をやったのかという感じでした
01:41野門藩事件は当時のいわゆる満州国とソ連の強い影響下にあったモンゴル人民共和国との境界線争いでした
01:53日本側が思っていた国境戦とソ連側が思っていた国境戦とが違い
02:00それを戦争で片付けようと日本軍が意図した
02:04ソ連軍は東方においてそういう紛争は起こしたくなかったけれども起きてしまったものは仕方ありません
02:13事態が起きた以上は日本軍を叩きのめしてしまえということになった
02:18兵隊上がりの名称でジューコフという将軍に全権を与え
02:24そして将軍が求める兵器弾薬すべてを与えて野門藩に集中させた
02:31一方仕掛けた日本軍の装備はというと
02:36まるで元気転生
02:38つまり織田信長の時代の装備にちょっと毛の生えた程度でした
02:43あるのは大和魂だけだったのです
02:47野門藩ではよく戦いました
02:51日本軍の支障率は75%にも上りました
02:57引くも進むもなく75%が死に傷つきました
03:03支障率75%というのは世界の戦士にないのではないでしょうか
03:11よくぞそこまで国民教育をしたものだと思います
03:15普通ヨーロッパのルールでは30%の死傷者が出えば
03:21将軍は上の命令なくして退却してもいいようですね
03:25そういうこともせずに75%ですから
03:30実感としてはほとんど全滅している感じであります
03:34そういう戦争をやった2年後に太平洋戦争をやった
03:41ちゃんとした常識のある国家運営者の考えることでは全くありません
03:47そういう国に我々は生まれました
03:52太平洋戦争の戦局が悪化していく最後に
03:57私は戦車隊に参加しました
04:00そして敗戦であります
04:0210日関西が解除されまして光がつけられました
04:09その敗戦の私個人の感想を言いますと
04:14ちょっと申し上げにくいのですが
04:17例えば勉強が嫌で嫌でたまらない生徒がいたとします
04:23明日が試験だという晩に学校が火事になった感じですね
04:29悲しいことなのですが
04:33締めた
04:34あの試験は助かったという気分です
04:37私は何か簡単な演習の企画をする予定でしたが
04:43その企画がうまくできないでいました
04:47敗戦となり
04:48もちろん演習は中止ですから
04:51ああ
04:52助かったという感じでした
04:54死ぬことは平気でした
04:57私は自分の特技が唯一あるとすれば
05:02いつ死んでもいいという気持ちだと思っているのですが
05:06まあ
05:07格好の良い言葉で言えば
05:10覚悟と言えますけれども
05:12そんな大げさなことではないのです
05:15その当時は今より濃厚にそう思っていました
05:20しかし
05:22それが去った
05:24そういう状態でした
05:27話がちょっと飛ぶようですが
05:32戦後にアメリカ軍
05:33国際法的には連合国軍に占領されましたが
05:37さほどの抵抗がなかったような気がします
05:41例えば昭和初年から戦時中
05:45非常に盛んだった
05:47右翼的気分というものがありました
05:50しかし
05:52終戦の直後の土作さは別にして
05:54アメリカ軍に徹底的に抵抗した話を
05:57少なくとも私は知りません
06:00これはどういうことかと考えますと
06:04それまでは日本の軍部に支配される
06:08というより占領されていたのだろうと思います
06:12昭和のパニックの後
06:16満州事変が起こります
06:18閉塞状態を
06:21戦争によって
06:23あるいは侵略によって解決しようとした
06:26参謀本部の考え方が結局
06:28満州国という偽物の国家を作り上げた
06:33
06:34中国残留古事の方々が帰ってきておられますが
06:39その反作用ですね
06:41清算なる
06:44つまり
06:45国家をたぶらかした人々がいました
06:48しかし
06:50彼らの中にヒトラーはいません
06:53ヒトラーなら
06:55ヒトラーだけ悪いということにしてしまえばいいのですが
06:58ヒトラーはいない
07:00タレということもなくて
07:03魔法の森が二十年間続いた
07:06満州の森の主役は関東軍です
07:11私も関東軍の兵士の一人でした
07:15陸軍大学校という大変なエリートコースを出て
07:20やがて必ずゼネラル
07:23つまり大将になることが約束されたエリートたちにとって
07:27関東軍の参謀になることは一つの出世コースでした
07:32ヒトの国を一遍触ると
07:36自分の国も触ってしまう
07:38ヒトツの国をいたぶった挙句
07:41自分の国をもいたぶり
07:44占領してしまったのですね
07:46結局
07:48日本は満州事変以降
07:51占領されていたのでしょう
07:53敗戦後
07:55占領軍が来た時
07:57今まで戦った敵国なのに
08:00日本人は実に素直に受け入れたことになり
08:04これは日本人に対する信頼に関わる問題だという人がいます
08:10しかし
08:12これはちょっと違うのです
08:14昭和二十年代の私は新聞記者でしたが
08:20こう思っていました
08:21この国は結局
08:24アメリカに占領される以前に
08:27日本の軍部に支配
08:29占領されていたのだろうと
08:32魔法の森の占領者より
08:35より柔らかい占領者が来て
08:38大きな文明を持ってきた
08:40何か世の中が開けたような
08:43太陽が出てきたような
08:46暖かくなったような感じを持った
08:48私はこう思っていました
08:52占領といっても
08:55この占領は屈辱的ではない
08:58要するに
09:00その前が行けなかったんだと
09:02何度も同じ言葉を使いますが
09:06魔法の森の占領者たちが
09:09行けなかったんだと
09:11支配というのなら
09:14織田信長も支配しておりました
09:17秀吉も
09:19徳川家も支配しておりました
09:21支配というのは
09:24物柔らかなもので
09:26人民というものを考えた上でないと
09:29支配はできません
09:30しかし
09:32占領は
09:34もっとたけだけしいものであります
09:37魔法の森はいつから始まったのでしょう
09:43明治憲法を取り出して
09:46天皇について読んでみます
09:48天皇は
09:50皇帝
09:51カイゼルではありません
09:53明治憲法によると
09:56天皇は政治的な行動はほとんどできません
10:00いわゆる国務大臣が
10:03内閣総理大臣も
10:06明治憲法下では国務大臣の一人ですが
10:09最終責任を負うということになっています
10:13明治憲法は古臭い憲法ではありますが
10:18それはそれなりに運営すれば
10:21太平洋戦争や満州侵略
10:23あるいは中国侵略
10:25あるいは野門藩の散烈さ
10:28そして国民への締め付けというものは起こらないはずでした
10:33明治憲法には
10:36信教の自由も
10:39信書の秘密も認められています
10:41私有財産も認められています
10:44要するに
10:46ナポレオンがフランス革命の最中に
10:50ナポレオン法典を作りまして
10:51フランス革命そのものの精神を
10:55民法の中に盛り込みました
10:57その回り回った影響が
11:00明治憲法には現れていますから
11:03それなりの近代憲法です
11:05ですから
11:07陶水憲などという変なものは
11:11出てこないはずなのです
11:12陶水憲といっても
11:17それほどには聞き慣れない言葉でしょうが
11:20我々をひどい目に合わせたのは
11:23この三文字に尽きるのではないかと思うのです
11:27これで魔法の森が解けるわけではないのですけれども
11:31明治憲法も三権分立でした
11:36議会が立法をし
11:39そして総理大臣以下の国務大臣が行政を受け持つ
11:44立法、行政、司法の三権分立には違いなかったのですが
11:50その上の超越的な権力、権能というものが
11:55陶水憲でした
11:57これは憲法をどこから解釈しても出てこないものなのです
12:04しかし、陸海軍は天皇がこれを統帥するという
12:10一条を大きく解釈していくと
12:13統帥権という陰知気の理論を持ち出すことができるのです
12:18立法、行政、司法の三権を超越し
12:23結局、軍人だけが統帥権を握りました
12:27と言っても、陸軍大臣が握っているわけではありません
12:33参謀本部の総長及び参謀本部が握っています
12:38参謀本部というものは
12:41もともと戦時に必要だったのですが
12:44平時も軍備を整えるということで
12:47予算の分取り
12:50その他でちらちらと統帥権をほのめかし始めます
12:53満州において兵を起こすことについても
12:58統帥権の上で必要だとした
13:00統帥権をもう少し具体的に言います
13:05金網路をつけた参謀将校たちは
13:09天皇のことを普通、おかみと言っていた
13:12女官の言葉ですね
13:15京都に御所があった頃の女官の言葉のように
13:19おかみと呼ぶ
13:20天皇を自分の身内のようにして呼んだのですね
13:24他の軍人は天皇という法制上の言葉で呼んでいるが
13:29彼らだけはおかみと言っていた
13:32つまり参謀本部の人間は
13:35大佐であろうが大尉であろうが
13:38少将であろうが少佐であろうが
13:40天皇のスタッフでした
13:43作戦は機密を要する
13:47それが次々に拡大解釈されました
13:50満州でことを起こせば
13:54これは統帥上必要だとする
13:56どうして統帥上に
13:59よその国を侵略することが必要なのか知りませんが
14:03とにかく侵略を起こす
14:05そしてそれを東京の参謀本部が追認し
14:10ついに行政府が追認せざるを得なくなる
14:13誰もそれは憲法違反だと言って
14:17酷訴したりはしません
14:18そんなことをすれば
14:21その人間がしょっぴかれてしまう
14:23こうして魔法の時代は始まります
14:26このように異様な
14:29陰酸な歴史を
14:31かつて日本史は持ったことがありませんでした
14:34柴良太郎作
14:41昭和という国歌
14:43第2回
14:44朗読は松茂豊でした
14:47この続きは明日のこの時間に
14:50ご視聴ありがとうございました

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