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  • 8 年前
北村さんは、明智探偵の顔を見つめながら、さらに話しつづけます。
「明智先生、あいつは、なぜ、日本語をならったのでしょう。ひと月もかかって、あんなに熱心に、ぼくたちのことばをならったのでしょう。ああ、おそろしいことです。それには、やつの、ふかい、たくらみがあったのです。
 ぼくが、とりこになってから、半月ほどのちのことでした。もうそのころは、日本人のいろいろな服装のことや、どこに何を売っているというようなことを、ぼくにおそわって、すっかり知っていたのですが、ひとりで、どこかへ出ていって、五、六時間も、るすにしたことがあります。むろん、ぼくは、そのすきに、円盤から逃げだそうと、いろいろ、やってみたのですが、円盤の口は、どうしてもひらきません。しかたがないので、そのまま、あいつの帰ってくるのを、まっていたのです。
 すると、あいつは、大きな荷物をかかえて帰ってきました。それは、なんだったと思いますか。服ですよ。背広が二つ、オーバーが二つ、それから、警官の服と帽子が、ひとそろい。たぶん、東京か横浜の、どこかの古着屋から、ぬすみだしてきたのでしょう。
 それからというもの、三日に一度ぐらい、やつは、どこかへ、出ていくのです。そして、そのたびごとに、警備隊員の制服だとか、労働者の服だとか、絹の和服だとか、その上にきるマントだとか、あらゆる服装を持って帰るのです。円盤の中は、まるで、芝居の衣装部屋のようになってしまいました。
 そして、ある朝のことです。ぼくが円盤の中のベッドで、目をさましますと、すぐ目の前に、ひとりの人間がつっ立っていたではありませんか。そうです。あのトカゲとコウモリの、あいの子のような宇宙怪人が、この地球の人間に化けたのです。変装したのです。
 洋服の上着のせなかにさいくをして、れいのコウモリのはねだけが、そとへ出るようにしてありました。頭には、ソフト帽を、まぶかにかぶっていました。その下に、どんな顔があったと思いますか。あの鳥のような顔ではありません。人間の顔なのです。しかも、その顔が、銀色にピカピカ光っていたのです。
 人間の顔とソックリのかたちをした、銀仮面なのです。目のところは、くりぬいてあって、そのおくから、怪物のヘビの目が、きみ悪く、のぞいていました。口のところにも、穴があいていました。両はじがギュッと上にあがった、三日月がたの黒い穴です。つまり、銀のお面が、ニヤリと笑っているのです。いつでも、どんなときでも、笑っているのです。
 あとでわかったのですが、その仮面は、顔のまえだけのものではなくて、頭からスッポリかぶるようになっていました。銀色の鉄仮面なのです。この仮面は、宇宙怪人が、自分でつくったものでした。あのはがねのようにかたくて、しかも、自由自在にまがる、星の世界の金属でつくったのです。そういう、ふしぎな金属ですから、仮面をつくるのも、わけのないことでした。怪人は、ぼくの知らぬまに、大円盤の中の工作場で、それをつくりあげていたのです。
 ぼくは、洋服のせなかに、はねのはえている銀仮面の怪物を見て、いちじはギョッとしましたが、すぐ宇宙怪人の変装とわかったので、
「きみは、そんな変装をして、いったい、なにをするつもりだ。」
 と、たずねてやりました。
『ワカラナイカネ。』
 あいては、銀仮面の三日月がたの口で、ニヤニヤ笑っているばかりです。
『さては、きみは、そんな日本人の変装をして、東京の町へ、まぎれこむつもりだな。そして、なにをしようというのだ。地球のようすを――日本のようすを、さぐるのか。スパイをするのか。』
『ソウカモシレナイ。』
 怪人は、やっぱり笑ったままです。
『スパイをするだけでなくて、何か、ぬすみだすのじゃないか。地球の人間を、ほりょにして、星の世界へつれていこうというのじゃないか。』
『ヤメナサイ。キミハ、ハイニナルノガ、コワクナイノカ。』
 そう言われると、ぼくはもう、いちごんもありません。あの金属のスポイトのようなものから、スーッと煙がでて、その前にいたサルが、一しゅんかんに、灰になってしまったことを、思いだしたからです。灰にされてはたまりません。ぼくは、ギョッとして、口をつぐんでしまいました。
 それからというもの、ぼくは、なんとかして円盤の中から、逃げだそうと、たえず、すきをねらっていたのですが、きのうの朝、やっと、そのおりがありました。怪人が、円盤を出ていったあとが、ひらいたままになっていたのです。あんな、ぬけめのないやつでも、ウッカリすることがあるんですね。
 ぼくは、いきなり、そこからはいだして、森の中へかくれました。そして、おいしげった、木の葉の下を、はうようにして逃げたのです。道にまよいましたが、一日がかりで、やっと、夜になって、ふもとに、たどりついたのです。
 その晩は、村人の家にとめてもらい、よく日、電車の駅まで歩いて、やっと、東京へかえってきました。円盤のことも、怪人のことも、だれにも言いませんでした。いまごろは、ぼくが逃げたことを知って、円盤を、べつの場所へ、うつしたにちがいないと思ったからです。それに、ぼくは、むがむちゅうで、逃げたのですから、円盤のあったところへ、あんないしろ、といわれても、とてもわからないと思ったからです。
 それよりも、はやく東京に帰って、警視庁にうったえ、新聞社に知らせ、怪人が日本人に変装して、どこにあらわれるかもしれないということを、日本じゅうの人々に知らせなければならないと考えたのです。」
 北村さんのながい話が、やっと、おわりました。しかし、だれも口をきくものがありません。あまりに、おそろしい話なので、なんと言っていいか、わからなかったからです。
 しばらくすると、名探偵の助手の小林少年が、ふと気がついたように、たずねました。
「たべものは、どうしていたのですか。怪人が、どこかから持ってきてくれたのですか。そして、怪人も、やはり、ぼくたちと同じように、食事をするのですか。」
 すると、北村さんは、もっともな質問だ、というように、うなずいてみせて、
「それが、じつにふしぎなんです。怪人は、銀色の小さな入れものから、錠剤のようなものを出して、ときどき口へ入れているのです。それが食事なんです。ぼくにも、それをくれたのですが、一日に二、三度、それをたべると、すこしもはらがへりません。それから、お酒のようなものも飲ませてくれました。じつにおいしいのです。小さな錠剤ひとつぶと、すこしばかりのお酒で、おなかが、くちくなってしまうのです。こんな便利なたべものを、発明するほどですから、科学にかけては、地球の人間は、とても、かないっこありませんよ。」
 そのとき、明智探偵が、しずかに、たずねました。
「北村さん、その怪人は、はねをもっているのだから、逃げだしたきみを、空からさがすのは、わけのないことですね。そして、きみを円盤の中へ、つれもどすのは、わけのないことですね。どうして、そうしなかったのでしょう。」
「もう、日本語をおぼえてしまったから、ぼくがいらなくなったからだと思います。ひょっとしたら、円盤のふたを、あけたままにしておいたのも、わざと、ぼくを逃がすためだったかもしれません。それからね、明智先生、あいつは、ぼくの口から、あいつのことをしゃべらせ、それが新聞にのって日本じゅうのうわさになることを、のぞんでいたのかもしれませんよ。サア、おれは人間に変装して、おまえたちの町の中へはいっていくんだぞ。つかまえられるものなら、つかまえてみるがいいと、宇宙人のえらさを、見せびらかしたいのかもしれませんよ。」
「フーム、その考えはおもしろい。見せびらかしたいというのはね。しかし、もし、そいつが、星の世界から、地球のようすを、さぐりにきたスパイだとすると、人間に変装することなんかは、かくしておかなければ、ならないはずですね。ここがおもしろいのですよ。ここに、ひじょうに、だいじな意味がかくされているのですよ。」
 明智探偵は、なぞのようなことを言って、じっと、ひとつところを、見つめていました。この明智のことばは、そのときは、だれにも、わかりませんでしたが、ずっと、あとになって、ああ、そうだったのか、さすがは名探偵だと、思いあたるときがくるのです。

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