00:00ご視聴ありがとうございました
00:30昔々ある国の城下に置いてけぼりと呼ばれるお堀がありましたそうな
00:37このお堀には水の寄せ合う淀みがあって
00:43その淀みに日暮れ時には鯉や船が
00:47それはたくさんぎちぎちと集まってきて
00:52釣り糸を垂らせばいくらでも釣れましたそうな
00:56ところがその鯉や船を釣って帰ろうとすると
01:01お堀の水の中から決まって
01:04おいてけおいてけという気味の悪い声がしましたそうな
01:10おいてけ
01:15それでも魚を持って帰ろうとすると
01:19その声はだんだんと大きくなってついには
01:23おいてけ
01:27あたりに響き渡る大声になりましたそうな
01:35大抵の人は釣った魚も釣り竿もおっぽらかして
01:39逃げてしまいましたそうな
01:42そんなことがたびかさなって
01:47人々はこのお堀のことをおいてけぼりと呼ぶようになり
01:52誰も寄りつかなくなりましたそうな
01:55ところがここになんとも気の強いとっざまがおりましたそうな
02:15野郷は丸に一文字
02:18そう商売は魚屋でありましたそうな
02:22お前さん行かないでおくれ
02:26べらぼうめ
02:30おいてけぼりが怖くて魚がやってられるかい
02:34大申しでおいらが釣ってこようじゃないか
02:37前と後ろのたらいっぱいおいてけぼりの魚を釣ってこようじゃないか
02:42女房や仲間が止めるのもきかばこそ
02:49おいてけぼりの掘り竿にやってきましたそうな
02:54いいタイミングで金が鳴るじゃねえか
03:05おいらが怖がってると思ってるな
03:08お会いにくさもない
03:11ちっとも怖がねえ
03:14ちっと行って釣ってくるからな
03:17ちょちょちょっと行ってな
03:25釣ってくるからな
03:27怖がねえんだ
03:28へへ
03:29行くぞー
03:33行くぞー
03:37いや釣れるの釣れないの
03:56ほんの一時の間に数えきれないほどの
04:00鯉や船がわらわらわらわら釣れましたそうな
04:05ざまみるりぷっ
04:11釣った上においらゆっくり煙草まで吸ってきたのさ
04:18後で仲間や女房に子を自慢したいばっかりに
04:23とっざまは焦る心を無理に抑えて一服つけましたそうな
04:30でもなぜか火をつけるのを忘れていましたそうな
04:38もうこんな時刻かそろそろ引き上げるかな
04:57置いてけ
05:11置いてけ
05:15おいら何も聞こえねえ
05:17サイラー
05:18置いてけ
05:22置いてけ
05:26うるせえやうるせえや
05:29何が何でも女房や仲間に見せてやるんだい
05:31サイラー
05:36重い魚を担いでとっざまは死に物狂いで走りましたそうな
05:41そしてやっとあの気味の悪い声が聞こえないところまで来ましたそうな
05:47サイラー
06:00サイラー
06:02サイラー
06:03サイラー
06:04サイラー
06:05デラボーめ
06:06オイラが釣ったオイラの魚さ
06:09置いてけったって置いていくもんかい
06:12ところがそこに何やら女物の下駄の音が聞こえてきましたそうな
06:32そして柳の枝の影でぴたりと止まりましたそうな
06:36後に引けば置いてけぼり前へ進めば気味の悪い下駄の音
06:43右と左は急な崖どうせ逃げ場がないのなら前へ行くほかありません
06:49とっざまはそろそろと歩きましたそうな
07:06柳の下から姿を現したのはそれはそれは美しいお女虫でありましたそうな
07:16これその魚を私に売ってくださいな
07:24売らねえ
07:26女房や仲間に見せねえうちは誰にも売らねえ
07:28誰にも売らねえ
07:30どうしても嫌かい
07:32どうしても嫌かい
07:34売らねえったら売らねえ
07:37どうしてもかい
07:39どうしても
07:41どうしてもかい
07:44どうしてもだ
07:49これでもかい
08:02せっかくの魚を放り出してとっざまは逃げに逃げましたそうな
08:12その逃げ方は後で思い出しても自分ながら死にたくなるような恥ずかしく情けない逃げ方でありましたそうな
08:21夢中で逃げるうちにやっと夜泣きそばの明かりを見つけましたそうな
08:27おやじ
08:32水くれ
08:34水
08:35息を切らしてますねえお客さん
08:38出たんだよあれが
08:41あれが出たんだよ
08:43あれがじゃ分かりゃせんよ
08:45だがもしかするとあれっていうな
08:47こんなやつじゃありませんでしたかね
08:50そう言いながらおむおろにあげたおやじの顔はこれものっぺらぼうでありましたそうな
08:57ひぃー
08:58とっざまは腰を抜かしてしまいましたそうな
09:02一方夜泣きそばの屋台はおやじもろともぺかりと消えましたそうな
09:09腰を抜かしたトッツァモは仕方なく手で走って帰りましたそうな
09:17その姿もまた後で思い出すと死にたくなるほど恥ずかしいものでありましたそうな
09:24それでもヨロヨロと我が家に帰り着きましたそうな
09:34おやお前さん変な帰り方だね
09:37ベラボウめこれがまともに帰ってこれるかい出たんだよあれが
09:45あれがじゃ分かりやしないよでもお前さん出たというのはもしかして
09:51もしかしたらこここいつも
09:57もしかして出たというのはこんなやつじゃなかったのかい
10:07どういうわけかにょうぼうまでのっぺらぼうになってしまって
10:18とうとうトッツァモは気を失ってしまいましたそうな
10:23おいてけ
10:30おいてけ
10:35おいてけ
10:37おいてけ
10:42おいてけ
10:44おいただきありがとうございます