発達障害で“長期収容”判決被告が控訴 12年8月13日報道

  • 12 年前
参考:2012年8月13日 時事通信
<求刑超え判決で控訴=アスペルガー症候群の被告-患者団体「正しい理解を」>
 引きこもり生活の末に、支援を続けた姉を刺殺したとして殺人罪に問われ、大阪地裁の裁判員裁判で求刑を4年上回る懲役20年の判決を受けた被告(42歳、無職)が、判決を不服として13日までに大阪高裁に控訴した。控訴は11日付。
 7月の地裁判決は、被告が発達障害の一種であるアスペルガー症候群と認定。「母親らが(社会復帰後の)同居を断るなど、社会的受け皿が用意されておらず、再犯が強く心配される」などと指摘した。
 患者や支援者でつくる「日本発達障害ネットワーク」の市川宏伸理事長らは13日、厚生労働省で記者会見し、「障害を理由に刑を重くすることは、同じ境遇の人を精神的に追い込む」と批判。「治療と刑罰は別。控訴審では正しく理解した審判に期待する」と訴えた。

<発達障害のある被告人による実姉刺殺事件判決に関する会長声明>
 2012年8月23日 仙台弁護士会

 大阪地方裁判所は、本年7月30日、発達障害がある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、被告人に対し、検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。同判決は、アスペルガー症候群という精神障害が認められる被告人に対し、動機の形成過程にその障害が影響しており、被告人が未だ十分な反省に至っていないことには同症候群の影響があると認定した上で、「いかに精神障害の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」ことや「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない」こと等を理由として、「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、有期懲役刑の上限にあたる量刑での判決を言い渡した。
 脳機能障害が原因とされるアスペルガー症候群の特性は、他人の心情をくんだり、自分の内面を表現したりするのが苦手で、対人関係の構築が難しい場合が多いとされるが、この障害があることが反社会的行動に直接結びつくわけではない。それにも関わらず上記判決は、アスペルガー症候群について十分な医学的検討を加えることなく、障害の存在を社会的に危険視した認定を行っており、発達障害に対する正しい理解を欠いているばかりか、障害に対する社会的偏見を助長させかねない危険性を有している。
 また、刑事施設における発達障害に対する治療・改善体制や矯正プログラムの現状は十分なものとはいえないことから、長期収容によって被告人の発達障害が改善され、内省を深めることはほとんど期待できない。むしろ、発達障害者に対する受け皿については、発達障害者支援法に基づく支援策等により社会的な整備が進んでいるのであり、上記判決はこのような現状の正確な理解を欠いている。
以上のような現状認識の誤りに止まらず、上記判決は、社会的な受け皿が十分ではないという障害者本人の責に帰すことができない事情や障害による再犯のおそれ等を理由として、被告人の刑を加重するという判断を行っている。このような判決の考え方は、刑法の大原則である責任主義を真っ向から否定し、障害者を社会から隔離する社会防衛的な発想であり、到底許されるものではない。
 さらに、本件においては、審理や評議にあたり、裁判員が当該障害の特性を正しく理解できるように、十分な対応がとられたのかという疑問を禁じ得ない。裁判員裁判において、本件のような障害を有する者の審理を行うにあたっては鑑定手続等により量刑判断に必要な医学的・社会福祉的情報が提供され、評議では裁判長から刑法上の理念や原則の説明が適切に行われなければならない。上記判決においては「被告人は未だ十分な反省に至っていない」と断じているが、深く反省していても、それをうまく表現できないアスペルガー症候群の特性を慎重に検討した上で、責任主義の原則を踏まえた審理がなされたのか大いに疑問が残る。
 当会は、本判決が発達障害者に対する理解を欠いて行った不当な判断に対し問題点を指摘するとともに、このような判決により、発達障害者に対する社会的偏見や、社会防衛のための不当な収容が助長されかねないことに重大な懸念を表明する。
  2012年(平成24年)8月22日  仙台弁護士会 会長 髙橋 春男
http://senben.org/archives/3770

<声明>
20120821・大阪精神科診療所協会 意見表明
http://www.daiseishin.org/pdf/statement20120821.pdf

20120820・宮崎県弁護士会 会長談話
http://www.miyaben.jp/gaiyou/documents/haxtutausyoughaikaityoudannwa.pdf

20120813・日本発達障害ネットワークなど4団体 判決について
http://bit.ly/SKoQSu

20120813・日本障害フォーラム(JDF) 声明
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/yobo/20120813.html

20120810・日本弁護士連合会 会長談話
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120810_3.html

20120809・京都弁護士会 会長声明
http://www.kyotoben.or.jp/siritai/menu/pages_kobetu.cfm?id=644

20120808・日本自閉症協会 緊急声明
http://www.oyajilink.net/library/source3.pdf

20120808・高機能自閉症・アスペルガー部会当事者運営委員サンデー 参考意見
http://www.oyajilink.net/library/source5.pdf

20120808・日本発達障害ネットワーク 声明
http://jddnet.jp/index.files/archives2012/pdf/20120809_osakasaiban.pdf

20120808・発達障害の支援を考える議員連盟 大阪地裁判決について
http://bit.ly/N3VAVp

20120807・大阪弁護士会 会長談話
http://bit.ly/N3koNi

20120807・日本社会福祉士会 会長声明
http://www.jacsw.or.jp/15_TopLinks/oshirase/files/seimei.pdf

20120807・日本児童青年精神医学会 緊急声明
http://bit.ly/Rpxa7W

20120803・共生社会を創る愛の基金 意見表明
http://www.airinkai.or.jp/ainokikin/index.html