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  • 7 週間前
「私の1冊 吉行和子 日本の100冊」(2008年)尾崎翠「第七官界彷徨」

カテゴリ

📚
教育
トランスクリプション
00:00恋のような愛のような
00:08優しく触れてみる
00:14あなたはほんのり温かい
00:21幸せありがとう
00:26今回の一冊は尾崎みどりの第7巻回奉公です
00:41よほど遠い過去のこと
00:43秋から冬にかけての短い期間を
00:46私は変な家庭の一員として過ごした
00:50そしてその間に私は一つの恋をしたようである
00:56女優の吉行和子さんが選んだ第7巻回奉公の主人公は
01:03尾崎子というちょっと変わった女の子
01:09しかし私は人知れず
01:11次のような勉強の目的を抱いていた
01:14私は一つ
01:17人間の第7巻に響くような
01:21詩を書いてやりましょう
01:22第5巻ってありますよね
01:27人間に
01:28で6巻ってのもよく言いますよね
01:30インスピレーションが
01:31だけどもそれを一つ超えて
01:34第7巻の詩を書きたいって思っている少女なんです
01:40その少女がいろんな人を見ているっていうのが主なんですけれど
01:47その世界っていうのが
01:48まあそこら辺では見つけることができない世界なんです
01:52ですけれども何か読んでると
01:55あ、こういう人って絶対いる
01:58表には見えないけれど
02:01心の中にはみんなそういう何か
02:03
02:05間みたいなものがあるはずで
02:09それがこう生き生きと描かれてるんですね
02:12明治29年
02:16鳥取県に生まれた尾崎緑は
02:19高等女学校を卒業後
02:21小学校の代用教員をしながら小説を書き始めます
02:25その後
02:28文学を志し上京
02:31昭和6年
02:33第7巻会奉公を発表します
02:35主人公の町子は
02:44水地係として
02:45二人の兄と
02:47いとこが住む家に同居を始めます
02:49町子の上の兄
02:54一助は精神科の医者
02:57二助は
03:01日夜苔の研究に没頭している学生です
03:05そして音楽家を目指す
03:11いとこの三五郎
03:12この三人の男と暮らしながら
03:19第6巻の先にある第7巻の世界を妄想する町子
03:24二助は
03:28土鍋をかき回し
03:31試験管を手製ランプにかざし
03:34土鍋の粉に肥料を加え
03:36また瓶の小屋子を加え
03:38内輪で冷ました小屋子を苔の湿地に巻き
03:42顕微鏡を覗き
03:44そしてノートに書き
03:45実に多忙であった
03:49眠りに陥りそうになると
03:53私は深い呼吸をした
03:55こみ入った空気を
03:58鼻から深く吸い入れることによって
04:01少しの間冷め
04:03再び深い息を吸った
04:06そうしているうちに
04:10私は霧のような一つの世界に住んでいたのである
04:14そこでは
04:16私の感観がバラバラに働いたり
04:20一つに溶け合ったりまたほぐれたりして
04:23取り留めのない機能を続けた
04:26ともかくこういう小説を読んだのは
04:33初めてだと思ったんですね
04:36しかも昭和の初めに
04:39こんなことを書いている
04:40というのが本当に驚きでしたね
04:43それと女性が書いている
04:46この後から知ったんですけど
04:48尾崎みどりさんが書いた頃は
04:50まだ女の人が小説を書くなんてのは
04:52とても珍しいし
04:54それからいいことではない
04:56小説なんて書いている女の人は
04:59ろくでもないみたいな
05:00時代だったわけですね
05:01その時に
05:04みんなに受け入れられそうもないような
05:10物語を書くというその勇気にね
05:12私はとても魅力を感じたんです
05:17物語が進むにつれ
05:233人の男たちに共通項が生まれます
05:26それは失恋
05:29一助は患者に恋をしますが破れ
05:37すでに失恋した二助は
05:41研究対象である苔の恋愛に熱中
05:44そして隣に住む女性への
05:49三五郎の恋も知らぬ間に終わってしまいます
05:53佐田三五郎は眠り
06:01小野二助は眠り
06:03そして小野一助は黙ってしまった後では
06:06家の中が静かになり
06:09朝飯の支度を終わった私が
06:12失恋について考えるのに適していた
06:15私はついに自信のない思い方で考えた
06:23失恋とは苦いものであろうか
06:28苦い果てには
06:30人間にいろんな勉強をさせるものであろうか
06:33すでに失恋してしまった二助は
06:38このような熱心さで小野氏の勉強を始めているし
06:42そして一助も今に失恋したら
06:47心理学の論文を書き始めるであろうか
06:50失恋とは
06:53こんな威力を人間に働きかけるものであろうか
06:58それならば
07:02私は急に声を潜めた考え方で考えを続けた
07:07三五郎が音楽家になるためには
07:11失恋しなければならないし
07:13私が第七巻の詩を書くにも
07:18失恋しなければならないであろう
07:20失恋という感情に第七巻を感じ取った町子
07:29その町子も恋に落ちます
07:33相手は一助の友人柳甲禄
07:40甲禄は愛読していた異国の女流詩人に町子が似ていると感じ
07:47僕の好きな詩人に似ている女の子に
07:50何か買ってやろうと告げます
07:53そして町子は
08:00ハイカラな首巻きを甲禄にねだるのです
08:03私は柳氏の買ってくれた首巻きを
08:09女中部屋の釘にかけ
08:11そして詩が好きであった詩人のことを考えたり
08:16私もまた屋根部屋に住んで
08:21風や煙の詩を書きたいと空想したりした
08:25私がノートに書いたのは
08:29我に首巻きを与えし人は
08:33遥かなる旅路につけりというような
08:36愛感のこもった恋の詩であった
08:39昭和6年の発表当時
08:49第7巻海奉公の不思議な文学世界は
08:53ほとんど注目されませんでした
08:5510年後
08:59体を病み鳥取に戻ります
09:02尾崎緑は忘れられた存在となりました
09:07作品が再び見出されたのは
09:14昭和44年
09:15一部の批評家から絶大なる評価を受けながらも
09:20尾崎はその事実を知らぬまま
09:242年後
09:2674歳でこの世を去りました
09:29吉行和子さんの私の一冊
09:33尾崎緑
09:36第7巻海奉公でした
09:38幸せありがとう
09:49ありがとう
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