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歴史秘話ヒストリア 2015年11月11日
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テレビトランスクリプション
00:00昨晩あなた様の夢を見ました
00:06いろいろとお話ししたいことがございます
00:11男性の皆さん女の人からこう言われたらどうしますか
00:19今宵は妖艶な女性の虜となったある大作家のお話です
00:30今年ご都合50年を迎えた文豪 種崎純一郎
00:57大賞から昭和にかけて活躍した日本を代表する作家の一人です
01:05そんな文豪が描き出したのは反応の世界
01:11私生活もまた小説以上のスキャンダルに満ちていました
01:18ある時は義理の妹と
01:22そしてまたある時は美しき人妻と
01:27常識では考えられないいけない恋ばかり
01:31何でも言うことを聞くか
01:35うん 聞く
01:37異端の小説家の素顔を伝える資料が去年見つかりました
01:45280通もの手紙です
01:48その中には谷崎がある女性にあてて書いた恋文が
01:55私の持つものすべてをあなた様に捧げます
02:01なんと愛の告白というより家来の誓約書
02:06しかし太平洋戦争が始まると文明活動は大きく制限されます
02:16谷崎はこれに反発
02:21取り締まりをかいくむり
02:23艶やかな女性の姿を描き続けました
02:26今宵は女性の美に似せられた文豪の物語
02:33怪しくも激しい恋の世界へご案内します
02:39リストリア
02:56大正時代の初め東京の下町
03:04一日中机の前でため息ばかりついている男性がいました
03:13何やら文章を書こうとしているようですが
03:20筆は止まったまま
03:22ああこんなことではだめだ
03:26これまでになり斬新な小説を書かなくては
03:30彼の名は谷崎純一郎
03:36東京帝国大学を中退し
03:3925歳で小説家となりました
03:42洗練された文章と
03:50都会的な作風が評価され
03:53新進気鋭の作家として注目を浴びます
03:57しかしもう味噌汁というこの時期
04:05スランプに陥ってしまったのです
04:09刺激だ
04:11何か新しい刺激が欲しい
04:15そして行き詰まっていたのは仕事だけではありません
04:24つい最近結婚したばかりの家庭でも
04:29妻の千代は従順な性格で働き者でしたが
04:39ちょっと行ってくれ
04:42あらお出かけ
04:44じゃあ支度しますね
04:46そうした妻との暮らしが退屈で物足りなく感じられてきたのです
04:55結婚とはこれほど刺激のない退屈なものなのか
05:08僕はこんな人生を望んでいるのか
05:12仕事の不調と結婚生活への失望
05:20谷崎は人生の迷路に迷い込んでいました
05:25苦悩が続いていたある日
05:32思いがけない出会いが訪れます
05:36ただいま
05:40あらあなた
05:41今日は妹が遊びに来てるの
05:45初めまして
05:49千代とはまるで違う
05:54この子はまるで西洋人のようだ
05:58谷崎の前に座っていたのは
06:0513歳になる千代の妹
06:08瀬子
06:08姉の千代と違って
06:11懲りの深い顔立ちをしていました
06:13千代が言うには
06:18瀬子は小学校を出ただけで
06:21十分な教育を受けていないとか
06:23そこで谷崎は彼女を引き取り
06:29もっと上の学校に通わせることにしました
06:32おせいちゃん
06:34この家では気兼ねせず
06:37好きなようにしていいからね
06:39ところが一緒に暮らしてみると
06:44瀬子はとんでもない女の子でした
06:47家事は姉に任せきりで
06:56たとえ暇でも一切手伝いません
06:59一方で掛け事が大好き
07:05谷崎たち大人を巻き込んで
07:07花札にトランプ
07:09それに飽きると窓辺に立ち
07:14大きな声で歌を歌ったりしました
07:17通りかかった人がびっくりしても
07:21お構いなし
07:23何をしでかすかわからない
07:25まさに自由奔放な少女だったのです
07:29家に帰る時間も日に日に遅くなりました
07:36おいおせい
07:40ただいま
07:44何時だと思ってるんだ
07:46何時ってまだ6時よ
07:49この家ではお前の好きにしていいって
07:52兄さんが言ったんじゃない
07:54瀬子は謝るどころか口応え
07:59これにはさすがの谷崎も
08:03おや?なんだかちょっと嬉しそう
08:08ほう
08:12この僕に言い返すなんて
08:15なかなか面白い子だ
08:18瀬子さんというのは権威無法というか
08:24そういうタイプの女性だったんですよね
08:26瀬子だけが谷崎に対して遠慮せずに
08:31ボンボン本音投稿をしていた
08:33谷崎がそういうふうに本音投稿する女性が好きですから
08:36だから彼女に惹かれていくんだ
08:39いっぱいじゃないですか
08:40お生徒いると毎日飽きない
08:45僕が望んでいたのはこれだ
08:48この刺激なんだ
08:50谷崎と瀬子が出会って丸5年
09:01少女は18歳の美しい娘に成長していました
09:06瀬子の行動は以前にも増して勝手気ままでした
09:18谷崎の作家仲間と遊び歩くようになったのです
09:29それを見ても谷崎は叱りません
09:32むしろ
09:35あれは猛獣だよ
09:39わがままで生き生きしている
09:42同じ獣なら
09:44僕は家畜より猛獣を選ぶな
09:48たとえ噛み殺される恐れがあってもね
09:52ところが甘やかすうちに瀬子の猛獣ぶりはどんどんエスカレート
10:02相手の男性をとっかえひっかえ
10:08その様子はまるで男を従える女王様
10:12今度はあんな連中と
10:18このまま放っておいたら
10:21うせえはもううちには戻らないかもしれない
10:24ダメだ
10:26それだけは絶対にダメだ
10:29焦った谷崎はついにあることを決心し
10:42聖子を呼び出します
10:45何兄さん
10:48おせえ
10:54話があるんだ
10:58僕と一緒にならないか
11:06なんと妻の妹に向かってまさかのプロポーズ
11:12聖子の返事は
11:16何言ってるの
11:20兄さんと結婚なんてできないわ
11:24聖子は谷崎に恋愛感情など少しも持っていませんでした
11:32禁断の恋はあっけなく終わります
11:37みじめな失恋から3年後
11:56谷崎は聖子との体験をもとにした作品を書き上げます
12:01知人の愛
12:06ある男性の告白から始まる物語です
12:11私はこれから
12:16あまり世間に類例がないだろうと思われる
12:20私たち夫婦の間柄について
12:25できるだけ正直に
12:27ざっくばらんに
12:29ありのままの事実を書いてみようと思います
12:34主人公はサラリーマンのジョージ
12:3915歳の少女ナオミと出会い
12:43彼女を理想的な女性に育てて妻にしようと
12:47同居生活を始めます
12:49ところがナオミはジョージの言うことなど聞かない
12:56奔放な娘に成長
12:59怒ったジョージはナオミを家から追い出します
13:04しかし彼女が恋しくてたまりません
13:10そしてどうか帰ってきてほしいと
13:14愛顔するのです
13:16ナオミ
13:23ナオミ
13:25何でもお前の言うことを聞く
13:28これから何でも言うことを聞くか
13:33うん
13:34聞く
13:36うん
13:39聞く
13:41知人とは愚か者のこと
13:43少女に振り回され
13:46踏みつけられることに喜びを見出す
13:49哀れな男の恋物語でした
13:52大正時代
13:59恋愛や性に対する考え方は
14:02それ以前より自由になっていました
14:05そんな時期に出されたこの小説は
14:08話題を呼びます
14:16知人の愛はたちまちベストセラーとなり
14:20単行本はその年に出た小説で
14:23最高の売り上げを記録
14:25さらにナオミズムという言葉まで流行し
14:32社会現象を巻き起こしました
14:35この作品を機に
14:42谷崎純一郎は
14:44観音を描く作家として
14:46新たな道を歩み始めたのです
14:49ようこそ歴史秘話ヒストリアへ
14:59谷崎は生涯で何度も激しい恋に落ち
15:05その体験が新たな小説を生み出す
15:09源となりました
15:13恋に身を焦がし
15:14創作の力とした作家は他にもいます
15:18彼らのセキララな心が伺えるもの
15:23それは大好きな人に送った恋文です
15:27いくつか見てみましょう
15:29手紙の端にたった一言
15:35恋しい
15:37これは何人もの女性と恋愛を重ねた
15:41太宰治
15:42キャッチコピーの名人とも言われる
15:46太宰らしい恋文です
15:48次はこちら
15:50この頃僕は文ちゃんがお菓子なら頭から食べてしまいたいくらい可愛い気がします
16:01嘘じゃありません
16:03これは芥川龍之介が結婚前の妻文にあてて書いたもの
16:12お堅いイメージの文豪芥川にもこんな一面があったんですね
16:19それでは谷崎の恋文はというと
16:26書かれていたのは谷崎の秘めたる思い
16:31そこから新たな世界が開かれていきます
16:36大正12年
16:48これまで日本の誰も経験したことのない大災害が起こります
16:5410万人以上の犠牲者を出した関東大震災
17:06谷崎は火災で家を失い
17:09友人を頼って関西へ移りました
17:12住まいを転々とした末
17:19ようやく落ち着いたのは神戸
17:22そしてある女性と運命的に出会います
17:26関西で暮らすようになって5年目のこと
17:34小説の中に筋というものはなくてもいいんです
17:40谷崎は大阪で人気作家芥川龍之介と酒を組み交わしていました
17:47そこへ
17:54失礼いたします
17:56今日は芥川先生にお会いしたいい人がいますね
18:02松子さん
18:04失礼いたします
18:17はじめまして
18:22根津松子と申します
18:25現れたのは大阪で木綿堂屋を営む商人の妻
18:35根津松子
18:36大の文学好きでした
18:39芥川先生が大阪にいらっしゃるとお聞きしまして
18:46失礼を承知でお上に無理を言ってお足に参りました
18:52おー美しい
18:58松子が嫁いだ家は大阪でも有名な老舗で
19:07彼女自身も関西切手の名家の出でした
19:11あ、すいません
19:16あら、空になりましたわね
19:22なんて気浸のある人だろう
19:33そして
19:35なんという艶やかさ
19:41これまで出会ったどの女性とも違う
20:00松子の気高い美しさに
20:02谷崎は夢中になります
20:05僕が本当に必要としているのは
20:11もしかすると彼女のような女性ではないのか
20:15しかし松子は隠しきある家の奥様
20:24そして谷崎もまた妻のいる身です
20:29恋愛など許されるはずもありませんでした
20:32決して遂げられぬ思いだろうが
20:40忘れるなんて到底無理だ
20:44そこでまず谷崎は
20:49松子と友人としての関係を深めようとします
20:53妻を連れて松子の家を訪ね
20:57一緒に食事などするうちに
21:00すっかり打ち解けた間柄に
21:03次は松子と同じ町に引っ越します
21:08さらに親しくなるとまた引っ越し
21:12今度の家はなんと松子の自宅の隣でした
21:20そんな時
21:26松子の夫が事業に失敗
21:31愛人を作りほとんど帰ってこなくなります
21:35松子は家で一人
21:42じっと寂しさに耐えていました
21:45今こそこの気持ちを彼女に伝えなければ
21:55谷崎は彼女に手紙をしたためます
22:01一生あなた様にお使いすることができましたならば
22:10たとえそのために我が身を滅ぼしても
22:14私にはこの上ない幸せでございます
22:18自分も相手も家庭があるのに
22:26こんな恋文を贈るとは
22:29なんて大胆
22:30谷崎は松子に毎日のように手紙を贈りました
22:39その情熱はやがて松子の心を動かします
22:51ついに谷崎の願いは通じ
22:54二人は恋仲となりました
22:57憧れの女性を得て
23:14谷崎の中にふつふつと創作意欲が湧いてきました
23:20そこで谷崎は奇妙なことを始めます
23:28松子に身の回りの世話をさせてほしいと
23:33申し出たのです
23:35ご両人様とは若奥様あるいはお嬢様という意味で
23:58女性を敬って呼ぶ時に使う言葉
24:01実は当時谷崎は
24:06女主人とその奉公人の物語を小説にしようと考えていました
24:11創作の参考にするため
24:15松子を主人に見立て
24:17自らは奉公人として振る舞おうとしたのです
24:22初めは戸惑っていた松子も
24:28この人きっとご自分のお仕事のためにやってはるんやわ
24:35それやったら私も協力せんと
24:42ゆるい
24:46何遍言うたら覚えるんや
24:49はい
24:52すみません
24:55松子さんという演技者
25:04本当にその場その場で
25:08相手がどういう答えを言ったら
25:13満足してもらえるかということを察知する能力がありましたね
25:17もう完璧な演技者
25:18まあ女優ですよね
25:20さらに谷崎はこんなことも手紙で相談しています
25:27従順な方向に見ふさわしく
25:31なんと名前を純一にしたい
25:35もう完全に入り込んじゃってます
25:39松子との疑似的な主従関係から
25:47次の作品が生まれました
25:50恋愛小説の傑作
25:55春金賞
25:57盲目の霊場春金と
26:00その方向に
26:01サスケの物語です
26:03春金
26:08本当の名は
26:11モズヤコト
26:12大阪道床町の
26:15役首相の生まれ
26:17琴や三味線の名人でもある春金は
26:24輝くような美貌の持ち主ですが
26:27気が強く存在な女性
26:30春金に辛く当たられていたのが
26:35サスケです
26:36文句も言わず
26:38目の不自由な春金の面倒を見ていました
26:41ある日
26:46春金は何者かに熱湯を浴びせられ
26:50顔に大やけどを負ってしまいます
26:52変わり果てた顔を見られたくないと
26:56嘆きました
26:57それを知ったサスケは
27:02なんと目を傷つけて
27:05春金と同じ盲目に
27:07そして春金の部屋へ向かいます
27:12もう一生涯
27:16お顔を見ることはござりません
27:19と彼女の前に
27:23ぬかづいていった
27:24サスケ
27:27それは本当か
27:28サスケは
27:31この世に生まれてから
27:33後にも先にも
27:36この沈黙の数分間ほど
27:38楽しい時を生きたことがなかった
27:41究極の愛の物語は
27:48一般の読者はもちろん
27:50作家仲間からも絶賛されます
27:53ただ
27:55探索するばかりの名作で
27:57言葉がない
27:59谷崎にとって
28:04春金賞は
28:05松子がいたからこそ
28:07書き上げることのできた作品でした
28:15松子に深く感謝し
28:18永遠の愛を誓った手紙があります
28:21去年新たに発見されたものです
28:24そこには
28:31私の生命
28:33身体
28:34家族
28:35兄弟
28:36収入など
28:37すべてを松子に捧げると
28:40書かれています
28:41さらに谷崎は
28:48彼女を
28:49自分の創作をより高めてくれる
28:52芸術の神様だと
28:54称えました
28:55春金賞発表から2年後
29:03谷崎は
29:05前の妻と別れ
29:06松子と結婚します
29:08女神を妻に迎え
29:13谷崎の小説は
29:15さらなる厚みを増していきました
29:18関東大震災で被災し
29:28関西へ
29:29引っ越した谷崎
29:30はじめは
29:32復興が進めば戻るつもりでしたが
29:35関西が持つ奥深い魅力に惹かれ
29:39結局20年ほど暮らすことになります
29:43当時
29:45当時グルメだった谷崎が
29:47まず見せられたのは
29:49関西の食
29:50エッセイには
29:53関西では魚が美味しく
29:55野菜やきのこなどの種類も豊富だと
29:59高く評価しています
30:01特に好物だったのが
30:05ハモ
30:06関東ではあまり知られていない食材でしたが
30:10谷崎はすっかり気に入り
30:13年をとってからも
30:15周囲がびっくりするほどの速さで
30:18ペロリと平らげたそうです
30:20さらに谷崎は
30:23松子と出会ってから
30:25関西の女性の虜となります
30:28声の裏に必ず潤いがあり
30:33艶があり温かみがある
30:37女として見るときは
30:40大阪の方が色気があり
30:42魅惑的であると大絶賛
30:46こうした関西の土地柄や人情を
30:53肌で感じたことから
30:55谷崎の代表作ともいわれる
30:58小説が生まれます
31:00兵庫県足屋市
31:14昭和10年この町で
31:17谷崎と松子の新婚生活が始まりました
31:21新居では松子と前の夫の間に生まれた娘
31:29そして松子の妹二人も一緒でした
31:33両親が亡くなり
31:39姉を頼って谷崎家にやってきたのです
31:43今年もお花見楽しみやね
31:51綺麗やろうな
31:53そろそろ着物も用意せない
31:57姉妹に背がまれ
32:03谷崎は一家全員で
32:06京都平安神宮へ
32:08毎年花見に出かけました
32:16当時谷崎が自分で撮影した写真です
32:21見事な桜に歓声をあげる姉妹と
32:24それをカメラ越しに温かく見守る谷崎
32:29松子たち姉妹との日常は
32:37谷崎が今まで味わったことのない
32:40華やかなものでした
32:42ところが
32:50昭和16年
32:53太平洋戦争が始まります
32:55次第に食料は配給となり
33:04生活必需品を手に入れることも
33:07難しくなっていきました
33:08街を覆う
33:11贅沢は敵だのスローガン
33:18かつて妻や義理の妹たちといった
33:22花見をはじめ
33:24四季折々の行楽なども
33:26控えざるを得ませんでした
33:28みるみる失われていく
33:35かつてのきらびやかな暮らし
33:38谷崎は危機感を抱きます
33:41このままでは松子たちとの大切な思い出まで消え失せてしまう
33:51そうだ
33:52あの華やかな日々を小説に書こう
33:56戦争に入っていく時代の中で
34:03そういう古き良き伝統的な世界が崩壊していくわけですけれども
34:11かつて生きた美しき良き時代をですよね
34:15作品世界の中に留め置きたいという思いが非常に強かったんじゃないかと思います
34:22谷崎は執筆を始めました
34:29作品のタイトルはささめ雪
34:33手のひらに受けるとすぐ溶けてしまう細かい雪のことです
34:40愛する松子とその姉妹たちとの日々を美しくも儚いささめ雪に重ねていたのかもしれません
34:52昭和18年
35:02文芸雑誌で谷崎渾身の作ささめ雪の連載が始まりました
35:09恋さん頼むわ
35:13物語は生き生きとした関西弁から始まります
35:20ゆきこちゃん下で何してる?
35:27えっちゃんのピアノを見たげてるらしい
35:35大阪の老舗で育った姉妹の人間模様を描く長編小説
35:41花見や蛍狩りなど風情豊かな伝統行事を散りばめながら物語は進んでいくはずでした
35:53ところが第2回が発表されると突然ささめ雪は連載中止になります
36:00この頃戦時の言論統制のため当局による厳しい検閲が行われていました
36:15贅沢な暮らしを取り上げた小説は自局にふさわしくないとみなされたのです
36:27しかし谷崎はささめ雪執筆を諦めませんでした
36:34密かに書き進め一区切りつくと自費で印刷
36:44親しい知人に配ります
36:46しかし
36:53実はうちに刑事が来はったんです
36:58ん?
37:00刑事が来たのか?
37:03黙って原稿を吸ったことが分かってしもうて
37:08今度やったらただではおうかも
37:12言うて
37:13そうか
37:15それでも谷崎は筆を止めませんでした
37:31もはや世に出すすべのないささめ雪を自宅でひたすら遂行し書き続けます
37:40昭和19年正月8日晴れ終日ささめ雪を書く
37:53昨日書きたる部分気に入らんため本日は最初より書き直す
38:01昭和19年も暮れになると日本本土への空襲が本格化します
38:22昭和19年も暮れになると日本本土への空襲が本格化します
38:2812月13日婚行も空襲があり家族は皆豪に入りたれども夜はささめ雪を執筆す
38:49警報が出ても谷崎はギリギリまで机から離れようとはしませんでした
39:06ささめ雪の原稿をしっかり胸に抱え
39:11いつも家族の一番最後に防空売に入ったといいます
39:22今年4月に公開された資料からは当時の谷崎の強い決意をうかがうことができます
39:34ささめ雪のストーリーを練るためにアイデアを書き留めた創作メモ
39:41もともとノートに書かれていたメモを陰河誌に焼き付けたものです
39:53この大事なメモの予備を谷崎は戦火を避けて友人に預けていました
40:06何としてもこの作品を完成させる
40:10谷崎は必死の思いでささめ雪の原稿を書き進めました
40:29昭和20年8月15日終戦
40:35その3年後小説ささめ雪はついに完成します
40:48執筆に6年を費やした大作でした
40:52日本で戦前戦中戦後と書き継がれたこれほどの長編小説は他にはないと言われています
41:09登場するのは松子と妹たちをモデルにした姉妹
41:14三女の雪子は両縁に恵まれない独り身の女性です
41:29そんな妹に何とか結婚してもらおうと世話を焼くのが次女の幸子
41:35モデルは谷崎の妻松子です
41:42実際の谷崎家と同じように小説中の姉妹も京都で花見を楽しみます
41:49彼女たちは
41:54ああこれでよかった
41:57来年の春もまたこの花を見られますようにと願うのであるが
42:04幸子一人は
42:07来年自分が再びこの花の下に立つ頃には
42:12おそらく雪子はもう嫁に行っているのではあるまいか
42:17自分としては寂しいけれども
42:21ゆきこのためには
42:23どうぞそうであってくれますように
42:27と願う
42:30過去の谷崎作品と違って
42:33笹目雪には刺激的な描写も
42:37感動的な場面もありません
42:40しかしそこには日々の暮らしの中で
42:44揺れ動く女性の心の内が
42:48これまでのどの作品よりも
42:51細やかに映し出されていました
42:54日本の女性のたおやかな強さ
43:00古き日本の美を歌う笹目雪は高い評価を受けます
43:05どのような逆境に見舞われようと
43:16自分が描きたいものだけを描く
43:19谷崎の堅くなままでの生き方が
43:23日本文学に輝く金字塔を打ち立てたのです
43:27今宵の歴史秘話ヒストリア
43:32最後は谷崎の創作への意欲は
43:37晩年になっても衰えることがなかった
43:42そんなお話でお別れです
43:46暴人の性がテーマでした
43:53歪説家文学家
43:58多分に挑んだこの小説は社会で大きな議論を呼びます
44:05しかし谷崎は生きている限りついて回る性の問題に取り組み
44:10小説に書くことを決してやめませんでした
44:20谷崎が変わらなかったものがもう一つ
44:26それは女性への関心
44:29昭和40年7月30日谷崎は病に倒れ79年の生涯を終えました
44:44死の間庭でも何度も床から起きペンを握ろうとしていたといいます
45:04書斎に残された原稿用紙には次の小説の構想が走り書きされていました
45:21それは死を予感した老人が妻子を捨て若い女性との愛に溺れるという物語
45:28誰であっても愛よく性に翻弄される
45:36谷崎は最後まで人間のありのままの姿を炙り出そうとしていました
45:44自分の世界を原稿用紙に刻み続けた小説家
45:51谷崎十一郎
45:53彼の小説は人生の不可思議
46:03人が生きる愚かしさや美しさを今もみずみずしく
46:08みずみずしく
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