100分de名著“シャーロック・ホームズSP” 1~4
  • 6 か月前
100分de名著“シャーロック・ホームズスペシャル”

第1回 名探偵の誕生
名探偵ホームズが世に初めて登場した作品「緋色の研究」。ささいな外見の特徴から初対面のワトスンをアフガニスタン帰りの軍医だと見抜くホームズの推理力に読者たちは喝采を浴びせた。世界で最も有名な名探偵誕生の瞬間である。実はこのホームズには実在のモデルがいた。コナン・ドイルが医学生時代に出会ったジョゼフ・ベル教授。患者の表情や身体の様子からたちどころに病状を言い当てるベル教授からドイルはホームズを発想する。当時のロンドンは「切り裂きジャック事件」など猟奇的な事件が横行、不安に駆られた人々はそんなホームズに待望のヒーロー像をみたのだ。第一回は、ホームズ・シリーズの執筆背景を探りながら、どのようにしてこの名探偵が誕生したのか、そして人々の圧倒的な支持を受けたのはなぜかを考察する。

第2回 事件の表層と真相
赤毛の人だけを募集して不思議な仕事を依頼する奇妙な出来事の裏に巨大な犯罪が潜んでいたという顛末を描く「赤毛組合」。怖ろしい誘拐事件にみえた犯罪が、実は妻に自分の秘密を隠すために行われた夫のとっさの行為だったことを描く「唇のねじれた男」。些細な出来事の裏に大きな犯罪があり、重大事件と思われた出来事が実は平凡な人間の弱さから発しているという皮肉。こうした事件の表層と真相の反転を見事に描くのがホームズ・シリーズの特徴だ。第二回は、作品に描かれた事件の表層と真相を読み解き、人生や出来事が一筋縄ではいかない多層的なものだというコナン・ドイルの洞察に迫っていく。

第3回 ホームズと女性
王族スキャンダルの物証を取り戻そうとするホームズの裏をかき名探偵に苦杯をなめさせるアイリーン・アドラーの活躍を描く「ボヘミアの醜聞」。恐るべき児童虐待にみえた母親の行為が実は我が子を守ろうとする強烈な母性愛から発したものだったことが判明する「サセックスの吸血鬼」。ホームズ・シリーズに登場する女性たちは単なる添え物ではなく、確固とした自我をもち、ときにホームズを驚かせるような知性や行動力を発揮する。生き生きとした女性たちの活躍が作品に大きな魅力を与えているのだ。第三回は、19世紀後半~20世紀初頭の時代背景も交えながら、コナン・ドイルがなぜこうした女性像を描きえたのかを探っていく。

第4回 人間性の闇と光
幸せそのものだった夫婦が、ある人物の嫉妬による謀略で崩壊し憎悪の連鎖を生み出していく様を描いた「ボール箱」。数多くの状況証拠から父殺しは間違いないとみなされた息子の冤罪を晴らす「ボスコム谷の謎」。ホームズが発揮するのは冷徹な推理能力だけではなく、人生の機微を知り抜き、人間性の底に潜む闇と光を鋭く炙り出していく「人間学」の精華ともいうべき洞察だ。「名探偵」という設定はドイルが仕掛けた人間性の深みを照らし出す「文学装置」なのだ。第四回は、人間性の闇と光を浮かび上がらせる作品の魅力を通して、探偵小説やミステリーを「人間学」としても読み解ける可能性に迫っていく。

【指南役】廣野由美子(京都大学教授)…著書に「ミステリーの人間学」など
【朗読】山寺宏一
【語り】小口貴子
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