ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 Op.131 第6楽章

  • 7 年前
9曲の交響曲、16曲の弦楽四重奏曲、32曲のピアノソナタ - 。
この三つのジャンルがベートーヴェン作品の主要な柱とされています。
交響曲がベートーヴェンの顔であることは言うまでもありませんが、 残るふたつもベートーヴェンが、生涯に亘って手がけた言わばライフワークです。
ですからそこにはその時々のベートーヴェンの精神的、音楽的過程が表れています。
ベートーヴェンが弦楽四重奏曲に着手したのは、交響曲と同じ30歳の時でした。
耳疾をきっかけに社交的だった性格が一変したベートーヴェン。
カントやプラトンなどの哲学書を読み、思索にふけり、人生に真摯になっていきます。
そこには親友でヴァイオリニストのカール・アメンダの存在がありました。
夜を徹してたがいの思想を語り合ったアメンダとベートーヴェンは、 切磋琢磨し刺激しあう中で、やがてそれぞれの進む道へ歩んでいきます。
アメンダは教会の司教に、ベートーヴェンは音楽で啓蒙する作曲家に。
弦楽四重奏曲にはベートーヴェンのこうした思想性が色濃く表れています。
マーラーの編曲でも知られる、第11番「セリオーソ」から十数年を経て、その間に第九やミサ・ソレムニスなどの大曲を挟みながら、 再びベートーヴェンは金字塔となる、後期弦楽四重奏曲の作曲に着手します。
これらは第九以降のベートーヴェンの心境を知る手がかりとなる作品群です。
大規模な管弦楽曲を離れたベートーヴェンは、 残りの情熱のすべてを弦楽四重奏曲の作曲に注ぎ込みました。
その頂点のひとつとも言えるのが弦楽四重奏曲 第14番 作品131です。
他からの要望ではなく自らの創作欲のままに作られたこの作品は、 奥行きと深みのある、高い芸術性を聴くものに感じさせます。
第1楽章をワーグナーは「音をもって表現しうるもっとも悲痛なるもの」と評し、カール・ホルツに連れられて、初演を聴いたシューベルトは大変興奮して、 「この曲のあとに一体何を書けというのだろう」と語ったといわれています。

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