落語「二階借り」 桂米朝
  • 6 年前
米朝師匠の全集には入ってない「二階借り」です。CD「桂米朝 艶笑上方落語 いろはにほへと」には「茶漬け間男」というタイトルで収録されています。
今はいついつどこどこで落語会をやると事前に発表して何をやるかも全部広告して落語会をやりますが、昔は複数ある寄席を渡り歩くのが噺家さんの役目で、何をやるかも全部その場で決めました。ですので、あとに来る人とネタがかぶらないように自分が何をやったか帳面に書いておくわけです。こういうものでしたので、落語のタイトルは「何をやったか」さえわかればいい、というものです。今でも複数のタイトルで呼ばれる落語は他にもあります。「栴檀の森」=「ふたなり」とか。
こういう艶笑ものはエロの描写は少なければ少ないほどいいとされます。というのが米朝師匠の師匠である四代目桂米團治の教えだったそうで、この落語でもその辺の描写はほとんどありません。
この高座では、亭主が何も知らずに「茶漬けでも食てるやろかい」と言うところにおかしさがあるわけですが、米朝師匠の弟子である枝雀師によると、この落語は言うことは全く変えずにもうひとつの落とし方があるそうです。すなわち「茶漬けでも食てるやろかい」という台詞は「お前がやったことは全部わかってるぞ」ということの表現として言う、という落とし方です。
『落語de枝雀』という本がありまして、そこで枝雀師は落語の下げを「謎解き」「どんでん」「へん」「合わせ」の4つに分類していますが、米朝師匠のこの演じ方だと「へん」、「わかってるぞ」の演じ方だと「どんでん」ということになるでしょうか。ですが「わかってるぞ」だとそのあとのゴタゴタが想像されて後味が良くない、という理由でしょうか、そっちで演じる噺家さんはいないようです。
艶笑落語というのは、演じるにあたりTPOを考えなければいけませんし、下手に演じると汚らしいだけで笑えない、かといって挑んでも「菊江仏壇」や「たちきれ線香」みたいに「まだ早かったが、良く挑んだな」と褒めてもらえるようなネタでもない、ということでだんだん廃れているような気がします。
そもそもが一般人を入れて聴かせるような噺ではなく、お座敷に呼ばれて内輪の楽しみで聴くような噺なので、現代では需要がないのですね。
ですが世の中がどう変わろうと人間エロには興味を失わないでしょうし、それが秘密めいた楽しみであるということも今後変わることはないでしょう。米朝師匠が本やCDにはある程度遺されていますが、映像で遺すということも重要になってくると思います。